神経有棘赤血球症

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目次

<神経有刺赤血球症>はどんな病気?

神経有刺赤血球症は常染色体劣性遺伝性を示します。
またこの神経有棘赤血球症は世界的にも稀な疾患で、疾病には複数の疾患が含まれています。
代表的なものに、McLeod症候群(MLS)、有棘赤血球舞踏病(ChAc)があります。
その他、ハンチントン病類症型(Huntington disease-like2)やパンテトン酸キナーゼ関連神経変性症(Pahtothenate kinase associated neurodegeneration:PKAN)、ハラーフォルデン・シュパッツ症候群(Hallervorden Spatz syndrome)などもこの群に含まれます。
いずれも末梢血に有棘赤血球を認め、神経学的には舞踏運動を中心とする不随意運動を認めます。

口の周りに見られる不随意運動が多いとされています。
舞踏運動(コレア)として、自分の意志とは無関係に生ずる顔面・四肢の素早い動きを認めます。
手先や四股に不随意運動が多く見られるハンチントン病よりも口の周り、特に舌の不随意運動が目立つ傾向があり、口の周りや舌を噛んでしまい、変形してしまうことが多くあります。
手足の不随意運動としては、上肢では顔の周りをなでるような運動が多く、歩行の際には腰を折るような運動が加わることが多く確認されます。
認知障害は比較的軽く、むしろある事柄にこだわりを持つというような固執性や強迫症状を示すことが多くあります。

予後は不良とされており、緩徐に慢性進行性に経過し、認知症症状や筋力低下から臥床傾向となり,口腔舌の不随意運動に基づく摂食嚥下障害などから感染症を引き起こしやすくなってしまうことから注意が必要です。

ChAc では心筋症の発症は稀でありますが、拡張型心筋症の合併症例も報告されています。
精神症状は多彩で、脱抑制、強迫症状、抑うつなどのほか、妄想、幻覚など統合失調症様の症状を認めることがあります。
また、常同症状やパーソナリティ変化、皮質下性認知症などの認知機能障害を伴うこともあります。

<神経有刺赤血球症>の人はどれくらい?

我が国での疫学調査では全国で約100人程度と、諸外国と比べて比較的多い患者が見出されていますが、詳細は不明です。

日本での有病者は100 人程度とされています。
男女比は 1:1 と性別差は認められていません。

<神経有刺赤血球症>の原因は?

神経有棘赤血球症のうち、代表疾患である有棘赤血球舞踏病及びMcLeod症候群に関しては、病気の原因となる遺伝子が明らかにされており、診断基準も明確なものとなっています。
しかし、その他様々なタイプについては、疾患概念や詳細については更なる調査が必要とされています。

神経病理学的には,ハンチントン病に類似して尾状核および被殻の神経細胞脱落とグリオーシスが認められ、稀ではあるが症例によっては黒質の変性も認め、症状としてパーキンソニズムを伴います。
画像診断的には,MRIでは尾状核の萎縮が顕著に認められ、ハンチントン病症例の酷似しています。
疾患原因遺伝子として9番染色体長腕9q21に存在するVPS13Aが同定されました(Rampoldiら,2001;Uenoら,2001)が,遺伝子産物蛋白質choreinの機能はいまだ詳細不明となっています。
患者症例のVPS13A遺伝子には機能喪失型の変異がホモ接合性もしくは複合ヘテロ接合性に見つかることが多くなっています(Tomiyasuら,2011)。

<神経有刺赤血球症>は遺伝する?

遺伝学的検査では、VPS13A 遺伝子に異常を認めます。

有棘赤血球舞踏病 (chorea-acanthocytosis; ChAc) は常染色体劣性遺伝であるため、患者両親は保因者であると言えます。
また、本人が発症する確率は1/4(25%)、保因者となる確率は1/2(50%)、健常の確率は1/4(25%)となります。
※あくまで単純な確率論ですので、その他さまざまな遺伝形質によって変わってきます。

また、にちや世界各国で研究されている分野です。

<神経有刺赤血球症>の経過は?

有棘赤血球舞踏病 (chorea-acanthocytosis; ChAc)は進行性疾患で予後不良とされています。
本症の自然歴には不明な点が未だに多くあります。

有棘赤血球舞踏病 (chorea-acanthocytosis; ChAc) と McLeod 症候群 (McLeodsyndrome; MLS) の両疾患ともに、神経学的徴候の現れる数年前から精神症状や痙攣発作がみられることがあります。経過は様々で症例により異なりますが、通常、ChAc は 15 ~ 30 年かけて緩徐に進行します。
死亡年齢は 28 ~ 61 歳と幅があります。
けいれんや突然死、誤嚥性肺炎や他の全身性の感染症で死亡する危険があります。
MLS の発症から死亡までの経過は 7 〜 50 年であり典型的には 30 年以上といわれています。
死亡年齢の平均は 53 歳 (31 ~ 69 歳) です。
MLS は心筋症の合併により,不整脈や拡張型心筋症、心不全が若年死亡の要因となります。
一般には心血管イベントやてんかん発作、誤嚥性肺炎などが老齢患者の主な死因である。

<神経有刺赤血球症>の治療法は?

原因遺伝子の機能に関しては、いまだ不明な点が多く、根治療法は開発されていません。
対症療法として舞踏運動に対しては抗精神病薬が使用され、てんかんに対しては抗てんかん薬を用います。

運動症状に対する治療

神経有棘赤血球症についての特別な検討はなく、ハンチントン病の舞踏運動に対する報告を参考にして治療を行っています。
抗精神病薬や抗コリン薬、抗てんかん薬、ベンゾジアゼピンを使用します。
レボドパ / ベンセラジドも使用されることはありますが、効果が乏しいことが多いとされています。
また、特に口舌ジストニアに対しては、自咬症の防止目的や感覚トリックによるジストニア症状の減少を目的としたバイトガードが利用されています。
他の治療法としてはボツリヌス注射を行うこともあります。
錐体外路症状に関しては、抗パーキンソン病薬 ( アマンタジンやレボドパ等 ) を使用します。
チック症状に対してはレベチラセタム、クエチアピンの効果があったという報告もあります。

体幹と口舌のジストニアや舞踏運動に対しての治療

[1]薬物療法
(1)抗精神病薬

神経有棘赤血球症の舞踏運動に対して抗精神病薬を使用した文献は少ない状況です。
ハンチントン病での不随意運動の治療効果から、定型抗精神病薬、非定型抗精神病薬が使用されています。
神経有棘赤血球症患者は抗精神病薬で重篤な錐体外路症状や悪性症候群などの副作用が発現しやすいため留意する必要があります。

(2)抗コリン薬

一次性のジストニアに対しての効果は報告されているが、神経有棘赤血球症のジストニアに関しての報告は少ない状況です。

(3)抗てんかん薬

抗てんかん薬の中でも特にレベチラセタム、バルプロ酸、カルバマゼピンの使用を推奨されています。
抗てんかん薬が原因ととされていますなる舞踏運動も報告があることから、強くは推奨しません。

(4)テトラベナジン

テトラベナジンはハンチントン病患者の不随意運動に対する治療薬としてのみ保険適応されている薬剤でありますが、海外では神経有棘赤血球症の不随意運動にも使用されています。
しかし、効果としては乏しい。

(5)その他の薬物療法

神経有棘赤血球症に対しての使用した例は、クロナゼパムを 0.25mg/日から開始し、ふらつきに注意しながら漸増する方法が報告されています。
また、ボツリヌス療法も行うことがあります。

[2]非薬物療法

(1)バイトガード、バイトブロック

神経有棘赤血球症、特に有棘赤血球舞踏病(chorea-acanthocytosis;ChAc) では口舌のジストニアによる咬舌、咬唇、食事摂取困難や構音障害がみられます。
バイトガードは自咬症を防ぐ目的で使用されるだけでなく、感覚トリックとして症状が軽減する事があります。

(2)脳深部刺激療法 (DBS)

舞踏運動やジストニアに対して DBS は効果的であった報告は見られますが、構音障害や錐体外路症状に対しては効果的ではなかったとされています。
ChAc における体幹ジストニアに対して、脳深部刺激や他の神経外科処置が少数例で試みられています。
個別症例では、両側視床の脳刺激が体幹ジストニアを軽減し、効果は 1 年続いたとされます。
両側淡蒼球内側の脳深部刺激療法の結果については、報告により様々です。

(3)その他の対症療法

神経有棘赤血球症の不随意運動は転倒の原因となりえます。
このため、急性もしくは慢性硬膜下血腫や脳挫傷の原因となり、患者の死亡原因となることもあります。
これらの防止を目的として、ヘッドギアの着用、手足の不随意運動による外傷防止目的でベッド柵を毛布などで保護をする等の対策も必要となってきます。

錐体外路症状に対しての治療

錐体外路症状は神経有棘赤血球症の運動症状の中で最初に出現し、ハンチントン病で神経変性の進行を示唆していると言われている動作緩慢は通常病状が進行してきてから現れると言われています。
アマンタジンは神経有棘赤血球症の歩行障害に対して効果的であったという報告はありますが 、レボドパに関しては効果が薄いもしくは無いと言われており、このことはシナプス前後での神経変性が起きていることを示唆しているのではないか考えられています。
パーキンソン病に対して行われる脳深部刺激療法は神経有棘赤血球症の錐体外路症状に対して効果は見られませんでした。

チック症状に対しての治療

薬物療法としてはレベチラセタム (500mg/ 日 ) やクエチアピンが効果的であったという報告がありますが、症例報告のみ。

てんかんに対する治療

いずれも神経有棘赤血球症を対象とした報告のエビデンスレベルは低いとされます。
症例報告として、有棘赤血球舞踏病 (chorea-acanthocytosis; ChAc) ではレベチラセタムやカルバマゼピン、トピラマート、ラモトリギン等、McLeod 症候群(McLeod syndrome; MLS) ではカルバマゼピン、ラモトリギン、フェノバルビタール等があります。
ChAc の患者でてんかんに対して外科的治療を施行された報告がありますが、てんかん発作は減少せず、てんかん発作に対する外科的治療は効果が乏しい可能性が示唆されています。

精神症状に対する治療

抑うつ症状の治療

いずれも神経有棘赤血球症を対象とした臨床試験報告はない。症例報告として、抑うつ症状に対して SSRI、SNRI、ミルタザピンなどの新規抗うつ薬の使用が推奨されています。
三環系抗うつ薬の抗コリン作用が精神神経症状を増悪させ、加えて舞踏運動をも増悪させる可能性があるため、三環系抗うつ薬は推奨されていません。
二次性うつについてはそれぞれの原因に対しての加療が必要であり、運動症状の管理や本人の訴えや不安に対する支持的療法が有用とされています。

強迫症状の治療

神経有棘赤血球症では強迫症状を呈した報告例が多く、セロトニン作動性の治療薬が推奨されており、高用量の同薬を長期間にわたって必要とすることがあります。
また、強迫症状と抑うつ症状を呈した症例に対して SSRI のシタロプラム (40mg/ 日 ) 、非定型抗精神病薬のクエチアピン (600mg/ 日 ) が有効であるとの報告があるが、クエチアピンは保険適応外であり、本邦ではエスシタロプラムが販売されています。

幻覚妄想などの精神病症状の治療

幻聴や被害妄想が多く、様々な抗精神病薬による加療の報告が散見され、その中でも定型抗精神病薬ではハロペリドール、クロルプロマジンの報告、非定型抗精神病薬ではオランザピンやリスペリドンの報告が多くされています。
ただし薬物治療は難渋することがあり抗精神病薬の用量が高用量となりやすいことと、神経有棘赤血球症患者は抗精神病薬で副作用が出現しやすいことから、悪性症候群等の有無を確認しながら慎重に増量します。

原因遺伝子の機能に関しては、いまだ不明な点が多く、根治療法は開発されていません。
対症療法として舞踏運動に対しては抗精神病薬が使用され、てんかんに対しては抗てんかん薬を用います。

<神経有刺赤血球症>の日常生活の注意点

神経有刺赤血球症の進行期には筋力低下や、嚥下障害の進行を認めますが、不随意運動はむしろ減少する傾向にあります。
転倒や打撲に対する対策も必要です。
さらに進行すると寝たきりの状態となってきます。
栄養障害もきたしやすく、それに伴い体重減少も起きます。
現症状の状態に応じて内服用量の減量などが必要とされます。
とくに摂食、嚥下の障害により誤嚥性肺炎などを来たし致死的となることがあります。
食道造影では食道協調運動の障害がみられることがあり、それにともなう嚥下障害が考えられている。
進行期になると精神症状は背景化してくることもありますが、脱抑制に伴い食事摂取が困難な状態となっても、食事摂取を優先しなければなりません。
耳鼻咽喉科や言語聴覚士、歯科口腔外科等とも連携をとり、摂食訓練を慎重に行うことも1つの方法としてあります。
それでも経口から十分なカロリーを摂取することは困難となってくるため、胃瘻造設も選択肢の1つとなります。
また、口舌不随意運動のため発語発声の機能も低下します。
言語聴覚士によるリハビリテーションも有用ですが、他に電子辞書や文字盤、パソコンなどの活用が有用なことがあります。

<神経有刺赤血球症>の最新情報

ジストニアの診断とボツリヌス療法(2017)

参考

神経有刺赤血球症 診療の手引き

A Perspective from Japanese Blood Centers.In: Neuroacanthocytosis Syndromes II

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