シャルコー・マリー・トゥース病

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目次

<シャルコー・マリー・トゥース病>はどんな病気?

シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot Marie Tooth disease : CMT)は、遺伝子異常が原因とされる末梢神経疾患です。
CMTは、足や下腿(ふくらはぎの周辺)・手・前腕などの四肢遠位部の筋肉が萎縮し、感覚が鈍くなっていく緩やかに進行する末梢神経疾患です。
患者さんの多くに手足の指の変形や筋力低下(段差につまずきやすいなど)、鶏歩(太ももを大げさに上げてつま先に力を入れずに歩くなど)の兆候があります。

CMTは一般的に0歳~20歳までに発症しますが、まれに60歳以降に発症される方もおられます。
ただ進行がとても緩やかなので、いつ発症したのかが楽器理と判明しない例も多くあります。
病気の進行は患者さんごとにさまざまで、時に目が見えにくい、音が聞こえずらいなどの視覚・聴覚神経の障害等が合併する患者さんもおられます。
また、CMTの四股遠位部の筋肉が萎縮してしまう症状おについては、CMTが筋肉自体を変性させるのではありません。
運動神経からの信号が筋肉に伝わりにくくなるため、筋肉を動かす信号が来なくなり、筋肉自体は正常でも筋力は低下し、使われない筋肉は萎縮してしまうということです。

CMTに見られる合併症として、便秘、腰痛、関節拘縮などが多く見られます。
近年の原因遺伝子の解明によって、これまでにないとされていた様々な症状もみられることが分かってきました。
これまで四股遠位部に筋力低下や筋萎縮が見られることが示唆されていましたが、近位部でもみられる可能性が分かったのです。

遺伝子異常のタイプによっては声帯麻痺、視力障害、錐体路障害、自律神経障害(空咳、瞳孔異常、排尿障害)、脂質異常症、糖尿病など認めることもあります。
また重症のケースでは呼吸困難により、人工呼吸器が必要となる場合もあります。

このCMTは臨床症状や電気生理学的所見、神経病理所見から脱髄型と軸索型、どちらにも大別されない中間型に大別されます。

この脱髄型と軸索型はともに<ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)>の突然変異が関連しているとされています。
またこれに加え、CMTを引き起こすとされる代表的な原因遺伝子は<ミエリン関連タンパク質22(PMP22)>、<コネキシン32(Cx32)>そしてMPZがあります。
脱髄型CMT神経伝導速度(NCV)及び末梢神経の区分脱髄の顕著な減少をもたらします。

また軸索型CMTは主に軸索関与を示しており、正常またはわずかに減少したNCV、ならびに神経線維損失及び軸索発芽を有します。

臨床的に明らかな筋肉の消耗は機能している軸索の喪失に起因すると言われています。

<シャルコー・マリー・トゥース病>の人はどれくらい?

一般的に、まれな病気と言われていますが、欧米の疫学調査では1人/人口2500人、わが国でも1人/人口1万人との報告があります。
しかし、CMTの症状に類似した症状が出ていても、医療機関を受診しなかったり、受診していても専門医のいる医療機関ではなかったために別の病気と診断されたりして、この病気だと知らずに過ごす人もいると推定され、実際の患者さんはもっと多いのではないかといわれています。
遺伝子異常の種類やその他さまざまな要因により一概には定義できませんが、一般的に男女差はないと言われています。

<シャルコー・マリー・トゥース病>の原因は?

これまでに多くの原因遺伝子が同定され、新しい分類が定義され始めています。
しかし、原因遺伝子異常とCMT発症メカニズムの詳細の多くはまだ不明とされています。

脱髄性CMT1Aは、染色体17p11.2上の末梢神経PMP22遺伝子の遺伝子のヘテロ接合性の重複が確認されています。
CMTの約半数はPMP22重複によるCMT1Aと考えられています。
時折、CMT1A患者に重複ではなくPMP22遺伝子の点突然変異が見られます。
CMT1Bは、別の脱髄性形態であり、MPZ遺伝子の変異に起因することが判明しています。

ミトコンドリアGTPase mitofusinタンパク質をコードするミトフスチン2(MFN2)遺伝子の変異は近年、シャルコー-マリー-トゥース2A(CMT2A)と遺伝性運動および感覚神経障害VI(HMSN VI)の両方を引き起こすことが報告されています。
ドイツの研究では、巨大軸索神経障害の表現型を有する3人の患者にGAN1遺伝子の点突然変異を示しました。
その他にも、APTX、SETX、TDP1等、多くの遺伝子異常が関与していることが分かっています。

<シャルコー・マリー・トゥース病>は遺伝する?

CMTの遺伝様式には、 常染色体優性遺伝(両親のどちらかに症状があって、約50%の確率で子供に遺伝するもの)、常染色体劣性遺伝 (両親には症状がなくても子供に発症することがあるもの)、X染色体劣性遺伝(X染色体上の遺伝子の異常で、男性のみに発症するもの)などがあり、遺伝子が関係しているものの、親から子供に必ず遺伝するわけではないことに注意する必要があります。
CMTの特徴は、「遺伝的多様性」と言われています。「遺伝的多様性」とは、異なる遺伝子の異常によって、同じ症状が出現するということです。
つまり、遺伝子Aの異常でも、遺伝子Bの異常でも、区別がつきにくい同じような手足の筋力低下というCMTに共通した症状が出現するということです。
逆に、同じ遺伝子の異常でも異なる臨床症状を示す場合もあります。
もっとも多いとされるのはPMP22というタンパク質をコードしている遺伝子の異常です。
CMTの40%の患者さんは、CMT1A遺伝子の異常であることが知られています。

<シャルコー・マリー・トゥース病>の経過は?

CMTの生命予後は良く、この病気が原因で亡くなることはありません。
経過として、原因遺伝子にもよりますが、一般的に筋力の低下や感覚障害が緩やかに進行していきます。
多くの方は自力歩行・杖歩行が可能ですが、車いすを使用する方が約20%、寝たきりになる人は約1%となっています。

MPZ、Cx32およびPMP22遺伝子異常患者における病理学的所見、神経伝導データ、軸索及び脱髄重症度、関連する症状および予後に広い変動が示されています。

<シャルコー・マリー・トゥース病>の治療法は?

現在CMTの根治療法はありません。

日本でこれまでに行われてきたCMT1Aの非臨床試験ではアスコルビン酸(ビタミンC)やオナプリストン(抗ホルモン剤)、ビタミンB12、クルクミンなどの効果が報告されましたが、実際ヒトへの有効性は確認されていません。

神経栄養因子

被験者8人という小規模試験で有効性が認められたニュートロフィン-3(神経栄養因子の一つで、NT-3)のこれからの研究に期待されています。

プロゲステロン刺激薬及び阻害薬

これまでにCMTのマウスやイヌモデルへの選択的プロゲステロン受容体拮抗薬の投与はPMP22の過剰発現を減少させ、CMT表現型を改善させることが研究で分かっており、これからの更なる臨床試験に期待しています。

理学療法や作業療法として、患者さんの足に合った靴や下肢装具などを使用することで、機能的改善を期待することができます。
しかし、装具に頼り過ぎて筋力を低下させてしまうこともあるので、装具の調節と定期的な追跡支援必要とされています。

また、運動療法として適度な運動を日常生活の中に取り入れていくことで、筋力低下の防止や筋疲労耐性を維持する上で推奨されています。
運動として特に推奨しているものとして、関節への負荷が少ないサイクリングや水泳などが挙げられます。

ストレッチもできる限り、筋力低下や筋萎縮が起こる以前から始めておくことが大切です。

下垂足や、凹足などの変形が装具を使っても適切に調節できなくなり、歩きずらさや痛みが前面に出た場合には、機能改善のための手術を検討することもあります。

<シャルコー・マリー・トゥース病>の日常生活の注意点

一般的にCMTの患者さんは自分に合った靴や下肢装具など適切なフットケアを行うことで、機能的な改善を期待することができます。
また理学療法や適度の運動は、筋力と筋の耐性を維持する上で推奨されます。
手術療法が機能改善や機能維持に役立つ場合もあります。
一般的にCMTは致死的な疾患ではありませんし、また寿命に大きな影響を与える疾患でもありません。
CMTの患者さんの多くは仕事を続けることは可能であり、杖が必要になることは多いですが、車椅子のみの生活になることはまれです。

日常生活での注意点につては、太りすぎには注意してください。
CMTについて正しく理解して頂き、今後の研究成果を期待しながら、現在のADLを少しでも維持され、希望ある毎日をお送りいただければと考えています。

<シャルコー・マリー・トゥース病>の最新情報

2020.7 Paternal gender specificity and mild phenotypes in Charcot–Marie–Tooth type 1A patients with de novo 17p12 rearrangements
(シャルコー=マリー-トゥース1A型の母親の性別特異性と軽度の表現型)

参考

Neurological dysfunction and axonal degeneration in Charcot–Marie–Tooth disease type 1A (シャルコー・マリー・トゥース病1A型における神経機能障害と軸索変性)

難病情報センター

ミエリン関連タンパク質の変異を伴うシャルコー・マリー-歯病の脱髄と軸索特徴(PMP22、MPZおよびCx32):205人の日本人患者の臨床病理学的研究

Early onset severe and late-onset mild Charcot–Marie–Tooth disease with mitofusin 2 (MFN2) mutations

Treatment for Charcot‐Marie‐Tooth disease

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