クッシング病

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目次

<クッシング病>はどんな病気?

🔹 定義

  • クッシング病(Cushing disease) は、脳の 下垂体前葉にできたACTH産生腺腫 が原因で、副腎を過剰に刺激し、副腎皮質ホルモン(コルチゾール)が慢性的に過剰分泌される病気です。
  • なお、コルチゾール過剰状態をまとめて クッシング症候群 と呼び、その中で下垂体腺腫が原因のものを「クッシング病」と区別します。

🔹 原因

  • 主因は ACTH産生下垂体腺腫(多くは微小腺腫<10mm>)。
  • 女性にやや多く、20〜40代に好発します。

🔹 主な症状(コルチゾール過剰による特徴)

外見の変化

  • 満月様顔貌(丸い顔)
  • 中心性肥満(体幹・顔に脂肪がつき、手足は細い)
  • 水牛様脂肪沈着(buffalo hump)(うなじ・背中に脂肪沈着)
  • 皮膚が薄くなり、赤紫色の皮膚線条(striae) が腹部・大腿部に出現

代謝異常

  • 高血糖・糖尿病
  • 高血圧
  • 脂質異常症

筋骨格系

  • 筋力低下(特に大腿の近位筋)
  • 骨粗鬆症、骨折

免疫・精神神経系

  • 易感染性
  • 気分障害(うつ、イライラ)、認知機能低下

女性特有の症状

  • 月経異常、無月経、多毛、にきび

🔹 診断

  • 血液・尿・唾液でコルチゾール高値を確認
  • デキサメタゾン抑制試験で抑制不良を確認
  • ACTH高値を確認し、下垂体性か副腎性か鑑別
  • MRIで下垂体腺腫を確認

🔹 まとめ

<クッシング病>は、

  • 下垂体のACTH産生腫瘍が原因で、
  • コルチゾールが過剰分泌される病気。
  • 顔や体型の特徴的な変化、代謝異常、筋力低下、骨粗鬆症 など全身に影響が出る。
  • 放置すると心血管疾患・感染症などで生命予後が悪化するため、早期診断と治療が重要。

<クッシング病>の人はどれくらい?

🔹 有病率・発症頻度

世界的データ

  • クッシング病は 希少疾患(まれな病気) に分類されます。
  • 世界での推定発症率は、
    • 年間100万人あたり1〜2人 程度(人口100万人に1〜2人/年)。
  • 有病率(患者として生存している人の割合)は、
    • 人口100万人あたり30〜40人 と報告されています。

日本でのデータ

  • 日本国内の疫学調査でも、人口100万人あたり約2人/年の発症率 が報告されています。
  • 男女比は 女性:男性 = 約3〜5:1 で、特に 20〜40歳代の女性 に多いです。

クッシング症候群全体との比較

  • コルチゾール過剰をきたす「クッシング症候群」全体の中で、
    • 下垂体腺腫による「クッシング病」は約60〜70% を占めます。
    • 他は、副腎腫瘍(約20〜25%)、異所性ACTH産生腫瘍(約10〜15%)など。

✅ まとめ

  • <クッシング病>は 人口100万人あたり30〜40人程度が存在する、きわめてまれな病気。
  • 発症率は年間100万人に1〜2人。
  • 患者の多くは 20〜40代女性
  • クッシング症候群全体の中で最も多い原因。

<クッシング病>の原因は?

🔹 クッシング病の原因

1️⃣ 直接の原因

  • 下垂体前葉にできた ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)産生腺腫 が原因。
    • この腫瘍が ACTH を過剰に分泌する → 副腎皮質が刺激される → コルチゾールが過剰に分泌される。
  • 下垂体腺腫の多くは 微小腺腫(直径10mm以下)
  • 腺腫自体は良性腫瘍がほとんど。

2️⃣ 分子レベルでの要因

近年の研究で以下のような 遺伝子変異やシグナル異常 が関与することがわかっています。

  • USP8遺伝子変異
    • クッシング病患者のACTH産生腺腫の30〜60%で報告。
    • EGFR(上皮成長因子受容体)シグナルが過剰に活性化し、ACTH産生が促進される。
  • USP48、BRAF、TP53 などの変異も一部症例で報告。

3️⃣ 関連要因

  • 多くは 散発的(偶発的) に起こるが、まれに遺伝性疾患と関連。
    • 例:多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1) に合併するケース。
  • 性別では女性に多い(約3〜5倍)。

4️⃣ 鑑別すべき「クッシング症候群」の原因

  • クッシング病は「クッシング症候群」の一部。コルチゾール過剰の原因は以下にも分けられる。
    • 副腎性(副腎腺腫・副腎癌)
    • 異所性ACTH産生腫瘍(肺小細胞癌、カルチノイドなど)
    • 医原性(ステロイド薬の長期使用)

✅ まとめ

  • クッシング病の直接原因は 下垂体のACTH産生腺腫
  • 分子レベルでは USP8遺伝子変異 が代表的。
  • ほとんどが偶発的に発生するが、一部は遺伝性疾患(MEN1など)と関わる。

<クッシング病>は遺伝する?

🔹 基本的な考え方

  • 多くのクッシング病は遺伝しません。
    • 原因の大多数は 散発的に起こる下垂体ACTH産生腺腫 です。
    • 家族内に同じ病気が繰り返し発症することはまれです。

🔹 遺伝が関与するまれなケース

一部の症例では、遺伝性腫瘍症候群の一部として発症することがあります。

  1. 多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)
    • MEN1遺伝子変異による常染色体優性遺伝。
    • 副甲状腺腫瘍、膵・消化管神経内分泌腫瘍とともに、下垂体腺腫(まれにACTH産生)が生じる。
  2. Carney complex(カーニー複合)
    • PRKAR1A遺伝子変異に関連。
    • 皮膚の色素斑、心臓粘液腫、内分泌腫瘍などを伴い、クッシング病を起こすこともある。
  3. 家族性孤発性下垂体腺腫(FIPA)
    • AIP遺伝子変異などが関与。
    • 下垂体腺腫が家族内で複数例みられることがある。ACTH産生腫瘍は少数だが報告あり。

🔹 遺伝子変異と散発例

  • クッシング病腫瘍では USP8変異 が多く見られますが、これは 腫瘍内の体細胞変異 であって、親から子へ受け継がれる「遺伝」ではありません。
  • したがって、患者本人がクッシング病になったからといって、子どもに必ず遺伝するわけではない という点が重要です。

✅ まとめ

  • クッシング病は 基本的に遺伝しない
  • ごく一部で MEN1、Carney complex、FIPA など遺伝性腫瘍症候群と関連する場合がある。
  • 多くの患者は 散発的な体細胞変異による下垂体腺腫 が原因。

<クッシング病>の経過は?

1️⃣ 発症初期

  • 下垂体に ACTH産生微小腺腫 ができても、最初は症状が目立ちにくく、
    • 「体重が増えやすい」「月経不順」「疲れやすい」程度で見過ごされることが多い。
  • 診断がつくまでに 数年〜10年以上かかることもある

2️⃣ 進行すると

  • コルチゾール過剰による特徴的な身体変化
    • 満月様顔貌、中心性肥満、水牛様脂肪沈着、皮膚線条。
  • 代謝異常
    • 高血圧、糖尿病、脂質異常症が進行。
  • 骨・筋肉への影響
    • 骨粗鬆症、骨折、筋力低下。
  • 精神神経症状
    • 気分変動、抑うつ、不眠、認知機能低下。
  • 免疫抑制
    • 感染症にかかりやすく、治りにくくなる。

3️⃣ 放置した場合の経過

  • 治療せずに放置すると、
    • 心筋梗塞、脳卒中、感染症などの合併症で 寿命が10〜15年短縮すると報告あり。
  • 特に 心血管系の合併症 が主要な死亡原因。

4️⃣ 治療後の経過

  • 手術(経蝶形骨洞手術)で腫瘍が摘出できれば、多くは寛解
    • コルチゾールが正常化すれば、心血管リスク・代謝異常も改善していく。
  • ただし、
    • すでに生じた骨粗鬆症や関節障害は完全には戻らないことがある。
    • 精神症状や外見の変化が長期間続くこともある。
  • 再発率は約10〜20%。長期のホルモン検査・MRIフォローが必須。

5️⃣ 長期予後

  • 適切な治療でコルチゾールを正常化すれば、寿命は健常人とほぼ同等に回復
  • ただし、診断の遅れや治療不十分の場合、心血管系合併症の影響が残りやすい。

✅ まとめ

  • クッシング病は ゆっくり進行するが、放置すると命に関わる病気
  • 放置 → 心血管疾患や感染症で予後不良。
  • 手術で治療すれば多くは改善し、予後も大幅に良くなるが、再発に注意して長期管理が必要

<クッシング病>の治療法は?

1️⃣ 第一選択:手術療法

  • 経蝶形骨洞手術(TSS)
    • 鼻の奥から下垂体に到達して ACTH産生腺腫を摘出する方法。
    • 下垂体腺腫が小さい(微小腺腫)場合、治癒率は70〜90%
    • 再発例や腫瘍が大きい場合は治癒率が下がるため、追加治療が必要になることもある。

2️⃣ 薬物療法(手術が不可能/効果不十分な場合)

手術ができない場合、または再発例に使われる。

  • 副腎ステロイド合成阻害薬
    • メチラポン、ケトコナゾール、オシロドスタットなど。
    • コルチゾール産生を抑える。
  • 下垂体腫瘍に作用する薬
    • パシレオチド(ソマトスタチンアナログ):ACTH分泌を抑制。
    • カベルゴリン(ドパミン作動薬):一部の患者で有効。
  • グルココルチコイド受容体拮抗薬
    • ミフェプリストン:コルチゾール作用をブロック。

3️⃣ 放射線治療

  • 手術で取り切れない場合や再発例で用いられる。
  • 定位放射線治療(ガンマナイフなど) が多い。
  • 効果が出るまで数年かかるため、その間は薬物療法で補助する。
  • 晩期に 下垂体機能低下 を起こす可能性がある。

4️⃣ 両側副腎摘出(最終手段)

  • 他の治療が無効な場合、両側副腎を摘出してコルチゾール産生を遮断することがある。
  • ただし、ACTHが抑制されなくなり腫瘍が悪化する ネルソン症候群 を起こす可能性があるため慎重に選択。

5️⃣ 合併症への治療

  • 高血圧、糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症、精神症状などを並行して管理。
  • 感染予防や骨折予防も重要。

✅ まとめ

  • 第一選択は経蝶形骨洞手術での腫瘍摘出。
  • 不完全例・再発例には 薬物療法や放射線治療を組み合わせる。
  • 難治例では 両側副腎摘出が検討される。
  • 合併症管理を含めた 包括的治療 が必要。

<クッシング病>の日常生活の注意点

1️⃣ 定期的な通院と検査

  • 手術後や薬物療法中は、ホルモン(コルチゾール・ACTH)の定期測定が必須。
  • 再発率が10〜20%あるため、長期にわたるMRIと内分泌検査のフォローが必要。

2️⃣ 食生活の工夫

  • 高血圧・糖尿病・脂質異常症が合併しやすいため、生活習慣病対策が重要。
    • 塩分を控える(高血圧予防)。
    • 野菜・魚・食物繊維を多めに(糖尿病・脂質異常予防)。
    • 甘い物・脂っこい物・加工食品を控える。
  • 骨粗鬆症対策
    • カルシウム・ビタミンDをしっかり摂取。
    • アルコール・喫煙は骨密度低下を悪化させるため控える。

3️⃣ 運動・体力管理

  • 筋力低下が起こりやすいため、軽めの筋力トレーニングや有酸素運動を無理のない範囲で行う。
  • 骨が弱くなっているため、転倒予防(滑りにくい靴・手すりの活用)が大切。

4️⃣ 感染予防

  • コルチゾール過剰や治療薬の影響で免疫力が下がることがある。
    • 手洗い・うがい・マスクで感染予防。
    • 体調不良が長引くときは早めに受診。
    • ワクチン接種(インフルエンザ、肺炎球菌など)を検討。

5️⃣ 精神面・社会生活

  • 抑うつ・不安・記憶力低下などの精神症状が出ることがある。
    • 必要に応じて精神科や心療内科と連携。
    • 家族や周囲に病気の理解を得てサポートしてもらう。
  • 外見の変化(満月様顔貌・体型変化)による心理的負担が大きいため、カウンセリングや患者会も有効。

6️⃣ 薬の自己調整はしない

  • 副腎機能が抑制されることがあり、医師の指示なしに薬を中止・増減しない
  • 副腎不全を避けるため、手術後は一時的に副腎皮質ホルモン補充が必要な場合がある。

✅ まとめ

  • 再発予防と合併症管理のために定期通院が必須
  • 食事・運動で 高血圧・糖尿病・骨粗鬆症対策 を。
  • 感染予防と精神的サポートも大切。
  • 薬は必ず医師の指示通りに服用。

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