目次
<クッシング病>はどんな病気?
- 🔹 定義
- 🔹 原因
- 🔹 主な症状(コルチゾール過剰による特徴)
- 🔹 診断
- 🔹 まとめ
- 世界的データ
- 日本でのデータ
- クッシング症候群全体との比較
- 1️⃣ 直接の原因
- 2️⃣ 分子レベルでの要因
- 3️⃣ 関連要因
- 4️⃣ 鑑別すべき「クッシング症候群」の原因
- 1️⃣ 発症初期
- 2️⃣ 進行すると
- 3️⃣ 放置した場合の経過
- 4️⃣ 治療後の経過
- 5️⃣ 長期予後
- 1️⃣ 第一選択:手術療法
- 2️⃣ 薬物療法(手術が不可能/効果不十分な場合)
- 3️⃣ 放射線治療
- 4️⃣ 両側副腎摘出(最終手段)
- 5️⃣ 合併症への治療
- 1️⃣ 定期的な通院と検査
- 2️⃣ 食生活の工夫
- 3️⃣ 運動・体力管理
- 4️⃣ 感染予防
- 5️⃣ 精神面・社会生活
- 6️⃣ 薬の自己調整はしない
🔹 定義
- クッシング病(Cushing disease) は、脳の 下垂体前葉にできたACTH産生腺腫 が原因で、副腎を過剰に刺激し、副腎皮質ホルモン(コルチゾール)が慢性的に過剰分泌される病気です。
- なお、コルチゾール過剰状態をまとめて クッシング症候群 と呼び、その中で下垂体腺腫が原因のものを「クッシング病」と区別します。
🔹 原因
- 主因は ACTH産生下垂体腺腫(多くは微小腺腫<10mm>)。
- 女性にやや多く、20〜40代に好発します。
🔹 主な症状(コルチゾール過剰による特徴)
外見の変化
- 満月様顔貌(丸い顔)
- 中心性肥満(体幹・顔に脂肪がつき、手足は細い)
- 水牛様脂肪沈着(buffalo hump)(うなじ・背中に脂肪沈着)
- 皮膚が薄くなり、赤紫色の皮膚線条(striae) が腹部・大腿部に出現
代謝異常
- 高血糖・糖尿病
- 高血圧
- 脂質異常症
筋骨格系
- 筋力低下(特に大腿の近位筋)
- 骨粗鬆症、骨折
免疫・精神神経系
- 易感染性
- 気分障害(うつ、イライラ)、認知機能低下
女性特有の症状
- 月経異常、無月経、多毛、にきび
🔹 診断
- 血液・尿・唾液でコルチゾール高値を確認
- デキサメタゾン抑制試験で抑制不良を確認
- ACTH高値を確認し、下垂体性か副腎性か鑑別
- MRIで下垂体腺腫を確認
🔹 まとめ
<クッシング病>は、
- 下垂体のACTH産生腫瘍が原因で、
- コルチゾールが過剰分泌される病気。
- 顔や体型の特徴的な変化、代謝異常、筋力低下、骨粗鬆症 など全身に影響が出る。
- 放置すると心血管疾患・感染症などで生命予後が悪化するため、早期診断と治療が重要。
<クッシング病>の人はどれくらい?
🔹 有病率・発症頻度
世界的データ
- クッシング病は 希少疾患(まれな病気) に分類されます。
- 世界での推定発症率は、
- 年間100万人あたり1〜2人 程度(人口100万人に1〜2人/年)。
- 有病率(患者として生存している人の割合)は、
- 人口100万人あたり30〜40人 と報告されています。
日本でのデータ
- 日本国内の疫学調査でも、人口100万人あたり約2人/年の発症率 が報告されています。
- 男女比は 女性:男性 = 約3〜5:1 で、特に 20〜40歳代の女性 に多いです。
クッシング症候群全体との比較
- コルチゾール過剰をきたす「クッシング症候群」全体の中で、
- 下垂体腺腫による「クッシング病」は約60〜70% を占めます。
- 他は、副腎腫瘍(約20〜25%)、異所性ACTH産生腫瘍(約10〜15%)など。
✅ まとめ
- <クッシング病>は 人口100万人あたり30〜40人程度が存在する、きわめてまれな病気。
- 発症率は年間100万人に1〜2人。
- 患者の多くは 20〜40代女性。
- クッシング症候群全体の中で最も多い原因。
<クッシング病>の原因は?
🔹 クッシング病の原因
1️⃣ 直接の原因
- 下垂体前葉にできた ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)産生腺腫 が原因。
- この腫瘍が ACTH を過剰に分泌する → 副腎皮質が刺激される → コルチゾールが過剰に分泌される。
- 下垂体腺腫の多くは 微小腺腫(直径10mm以下)。
- 腺腫自体は良性腫瘍がほとんど。
2️⃣ 分子レベルでの要因
近年の研究で以下のような 遺伝子変異やシグナル異常 が関与することがわかっています。
- USP8遺伝子変異
- クッシング病患者のACTH産生腺腫の30〜60%で報告。
- EGFR(上皮成長因子受容体)シグナルが過剰に活性化し、ACTH産生が促進される。
- USP48、BRAF、TP53 などの変異も一部症例で報告。
3️⃣ 関連要因
- 多くは 散発的(偶発的) に起こるが、まれに遺伝性疾患と関連。
- 例:多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1) に合併するケース。
- 性別では女性に多い(約3〜5倍)。
4️⃣ 鑑別すべき「クッシング症候群」の原因
- クッシング病は「クッシング症候群」の一部。コルチゾール過剰の原因は以下にも分けられる。
- 副腎性(副腎腺腫・副腎癌)
- 異所性ACTH産生腫瘍(肺小細胞癌、カルチノイドなど)
- 医原性(ステロイド薬の長期使用)
✅ まとめ
- クッシング病の直接原因は 下垂体のACTH産生腺腫。
- 分子レベルでは USP8遺伝子変異 が代表的。
- ほとんどが偶発的に発生するが、一部は遺伝性疾患(MEN1など)と関わる。
<クッシング病>は遺伝する?
🔹 基本的な考え方
- 多くのクッシング病は遺伝しません。
- 原因の大多数は 散発的に起こる下垂体ACTH産生腺腫 です。
- 家族内に同じ病気が繰り返し発症することはまれです。
🔹 遺伝が関与するまれなケース
一部の症例では、遺伝性腫瘍症候群の一部として発症することがあります。
- 多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)
- MEN1遺伝子変異による常染色体優性遺伝。
- 副甲状腺腫瘍、膵・消化管神経内分泌腫瘍とともに、下垂体腺腫(まれにACTH産生)が生じる。
- Carney complex(カーニー複合)
- PRKAR1A遺伝子変異に関連。
- 皮膚の色素斑、心臓粘液腫、内分泌腫瘍などを伴い、クッシング病を起こすこともある。
- 家族性孤発性下垂体腺腫(FIPA)
- AIP遺伝子変異などが関与。
- 下垂体腺腫が家族内で複数例みられることがある。ACTH産生腫瘍は少数だが報告あり。
🔹 遺伝子変異と散発例
- クッシング病腫瘍では USP8変異 が多く見られますが、これは 腫瘍内の体細胞変異 であって、親から子へ受け継がれる「遺伝」ではありません。
- したがって、患者本人がクッシング病になったからといって、子どもに必ず遺伝するわけではない という点が重要です。
✅ まとめ
- クッシング病は 基本的に遺伝しない。
- ごく一部で MEN1、Carney complex、FIPA など遺伝性腫瘍症候群と関連する場合がある。
- 多くの患者は 散発的な体細胞変異による下垂体腺腫 が原因。
<クッシング病>の経過は?
1️⃣ 発症初期
- 下垂体に ACTH産生微小腺腫 ができても、最初は症状が目立ちにくく、
- 「体重が増えやすい」「月経不順」「疲れやすい」程度で見過ごされることが多い。
- 診断がつくまでに 数年〜10年以上かかることもある。
2️⃣ 進行すると
- コルチゾール過剰による特徴的な身体変化
- 満月様顔貌、中心性肥満、水牛様脂肪沈着、皮膚線条。
- 代謝異常
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症が進行。
- 骨・筋肉への影響
- 骨粗鬆症、骨折、筋力低下。
- 精神神経症状
- 気分変動、抑うつ、不眠、認知機能低下。
- 免疫抑制
- 感染症にかかりやすく、治りにくくなる。
3️⃣ 放置した場合の経過
- 治療せずに放置すると、
- 心筋梗塞、脳卒中、感染症などの合併症で 寿命が10〜15年短縮すると報告あり。
- 特に 心血管系の合併症 が主要な死亡原因。
4️⃣ 治療後の経過
- 手術(経蝶形骨洞手術)で腫瘍が摘出できれば、多くは寛解。
- コルチゾールが正常化すれば、心血管リスク・代謝異常も改善していく。
- ただし、
- すでに生じた骨粗鬆症や関節障害は完全には戻らないことがある。
- 精神症状や外見の変化が長期間続くこともある。
- 再発率は約10〜20%。長期のホルモン検査・MRIフォローが必須。
5️⃣ 長期予後
- 適切な治療でコルチゾールを正常化すれば、寿命は健常人とほぼ同等に回復。
- ただし、診断の遅れや治療不十分の場合、心血管系合併症の影響が残りやすい。
✅ まとめ
- クッシング病は ゆっくり進行するが、放置すると命に関わる病気。
- 放置 → 心血管疾患や感染症で予後不良。
- 手術で治療すれば多くは改善し、予後も大幅に良くなるが、再発に注意して長期管理が必要。
<クッシング病>の治療法は?
1️⃣ 第一選択:手術療法
- 経蝶形骨洞手術(TSS)
- 鼻の奥から下垂体に到達して ACTH産生腺腫を摘出する方法。
- 下垂体腺腫が小さい(微小腺腫)場合、治癒率は70〜90%。
- 再発例や腫瘍が大きい場合は治癒率が下がるため、追加治療が必要になることもある。
2️⃣ 薬物療法(手術が不可能/効果不十分な場合)
手術ができない場合、または再発例に使われる。
- 副腎ステロイド合成阻害薬
- メチラポン、ケトコナゾール、オシロドスタットなど。
- コルチゾール産生を抑える。
- 下垂体腫瘍に作用する薬
- パシレオチド(ソマトスタチンアナログ):ACTH分泌を抑制。
- カベルゴリン(ドパミン作動薬):一部の患者で有効。
- グルココルチコイド受容体拮抗薬
- ミフェプリストン:コルチゾール作用をブロック。
3️⃣ 放射線治療
- 手術で取り切れない場合や再発例で用いられる。
- 定位放射線治療(ガンマナイフなど) が多い。
- 効果が出るまで数年かかるため、その間は薬物療法で補助する。
- 晩期に 下垂体機能低下 を起こす可能性がある。
4️⃣ 両側副腎摘出(最終手段)
- 他の治療が無効な場合、両側副腎を摘出してコルチゾール産生を遮断することがある。
- ただし、ACTHが抑制されなくなり腫瘍が悪化する ネルソン症候群 を起こす可能性があるため慎重に選択。
5️⃣ 合併症への治療
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症、精神症状などを並行して管理。
- 感染予防や骨折予防も重要。
✅ まとめ
- 第一選択は経蝶形骨洞手術での腫瘍摘出。
- 不完全例・再発例には 薬物療法や放射線治療を組み合わせる。
- 難治例では 両側副腎摘出が検討される。
- 合併症管理を含めた 包括的治療 が必要。
<クッシング病>の日常生活の注意点
1️⃣ 定期的な通院と検査
- 手術後や薬物療法中は、ホルモン(コルチゾール・ACTH)の定期測定が必須。
- 再発率が10〜20%あるため、長期にわたるMRIと内分泌検査のフォローが必要。
2️⃣ 食生活の工夫
- 高血圧・糖尿病・脂質異常症が合併しやすいため、生活習慣病対策が重要。
- 塩分を控える(高血圧予防)。
- 野菜・魚・食物繊維を多めに(糖尿病・脂質異常予防)。
- 甘い物・脂っこい物・加工食品を控える。
- 骨粗鬆症対策
- カルシウム・ビタミンDをしっかり摂取。
- アルコール・喫煙は骨密度低下を悪化させるため控える。
3️⃣ 運動・体力管理
- 筋力低下が起こりやすいため、軽めの筋力トレーニングや有酸素運動を無理のない範囲で行う。
- 骨が弱くなっているため、転倒予防(滑りにくい靴・手すりの活用)が大切。
4️⃣ 感染予防
- コルチゾール過剰や治療薬の影響で免疫力が下がることがある。
- 手洗い・うがい・マスクで感染予防。
- 体調不良が長引くときは早めに受診。
- ワクチン接種(インフルエンザ、肺炎球菌など)を検討。
5️⃣ 精神面・社会生活
- 抑うつ・不安・記憶力低下などの精神症状が出ることがある。
- 必要に応じて精神科や心療内科と連携。
- 家族や周囲に病気の理解を得てサポートしてもらう。
- 外見の変化(満月様顔貌・体型変化)による心理的負担が大きいため、カウンセリングや患者会も有効。
6️⃣ 薬の自己調整はしない
- 副腎機能が抑制されることがあり、医師の指示なしに薬を中止・増減しない。
- 副腎不全を避けるため、手術後は一時的に副腎皮質ホルモン補充が必要な場合がある。
✅ まとめ
- 再発予防と合併症管理のために定期通院が必須。
- 食事・運動で 高血圧・糖尿病・骨粗鬆症対策 を。
- 感染予防と精神的サポートも大切。
- 薬は必ず医師の指示通りに服用。