下垂体性TSH分泌亢進症

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目次

<下垂体性TSH分泌亢進症>はどんな病気?

🔹 定義

  • 下垂体から分泌される 甲状腺刺激ホルモン(TSH) が異常に増えている状態を指します。
  • 本来、TSHは甲状腺を刺激して 甲状腺ホルモン(T3・T4) の分泌をコントロールしています。
  • 通常は「甲状腺ホルモンが多い → TSHが下がる」「少ない → TSHが上がる」という負のフィードバックで調整されています。
  • ところが下垂体に異常があると、この制御が効かずに TSHが過剰に分泌され、甲状腺機能亢進症(バセドウ病に似た症状) を引き起こします。

🔹 主な原因

  • TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)
    • 下垂体腺腫の1〜2%と非常にまれ。
    • 腫瘍がTSHを自律的に分泌してしまう。
  • 甲状腺ホルモン不応症(Resistance to thyroid hormone, RTH)
    • 甲状腺ホルモンの作用が全身で効きにくくなる遺伝性疾患。
    • 下垂体は「甲状腺ホルモンが足りない」と誤認し、TSHを分泌し続ける。
  • これらの鑑別は専門的なホルモン検査や画像検査で行われる。

🔹 症状(甲状腺機能亢進に伴うもの)

  • 動悸・息切れ
  • 発汗過多、暑がり
  • 体重減少(食欲はあるのに痩せる)
  • 手の震え、落ち着きがない
  • 月経異常
  • 甲状腺腫大(首が腫れて見える)
  • 腫瘍が大きい場合 → 頭痛、視野障害(下垂体腫瘍による圧迫症状)

🔹 検査の特徴

  • 血液検査で TSHが「正常〜高値」なのに、T3・T4も高い(通常の甲状腺中毒症と違う)。
  • MRIで下垂体腫瘍を確認することがある。
  • TRH負荷試験やαサブユニット測定などで原因をさらに精査。

<下垂体性TSH分泌亢進症>の人はどれくらい?

🔹 頻度・有病率

1️⃣ TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)

  • 下垂体腺腫全体のうち 約1〜2% と非常にまれ。
  • 欧米や日本の報告を合わせても、100万人あたり数人程度の発症とされる。
  • 発症年齢は 30〜50歳代が中心
  • 男女差は明確ではないが、やや女性に多いとする報告もある。

2️⃣ 甲状腺ホルモン不応症(RTH, Resistance to thyroid hormone)

  • 遺伝性疾患で、人口 3〜4万人に1人程度 と推定される。
  • 家族内に複数人の患者が出ることもある。
  • 多くは小児期から異常が見つかるが、軽症例は成人で偶然発見されることもある。

🔹 日本での規模感(推定)

  • TSHoma:数百人程度の診断例にとどまる。
  • RTH:数千人規模の患者が存在する可能性。

<下垂体性TSH分泌亢進症>の原因は?

1️⃣ TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)

  • 最も代表的な原因。
  • 下垂体前葉にできる腫瘍が 自律的にTSHを分泌 してしまう。
  • 結果として、甲状腺が刺激され続け、甲状腺ホルモン(T3・T4)が過剰になる。
  • 腫瘍の大きさによっては、頭痛や視野障害などの「圧迫症状」も伴う。

2️⃣ 甲状腺ホルモン不応症(Resistance to Thyroid Hormone, RTH)

  • 遺伝性の病気で、甲状腺ホルモン受容体(特にTRβ遺伝子)の異常によって、全身の細胞が甲状腺ホルモンに反応しにくくなる。
  • 下垂体も「甲状腺ホルモンが足りない」と誤認 → TSHを分泌し続ける
  • 血液検査では「TSH正常〜高値+T3・T4高値」となり、TSHomaと似ている。

3️⃣ 鑑別上考慮されるその他の要因

  • 甲状腺ホルモン測定のアーチファクト(検査干渉)
    • まれに自己抗体や薬剤によって誤った高値を示すことがある。
  • 下垂体の他の腫瘍や異常
    • 混合型腺腫(GH+TSHなど)でTSH過剰を呈することがある。

<下垂体性TSH分泌亢進症>は遺伝する?

🔹 基本的な考え方

  • <下垂体性TSH分泌亢進症>は、大きく 2つの病態 に分けられます。
    1. TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)
    2. 甲状腺ホルモン不応症(RTH, Resistance to Thyroid Hormone)

それぞれで「遺伝性かどうか」が異なります。


1️⃣ TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)

  • 下垂体にできる 腫瘍(良性腺腫) がTSHを過剰に出すもの。
  • 基本的には 遺伝しません
  • 外傷や生活習慣とは関係なく、散発的に発生する腫瘍性疾患。
  • ただし、ごく一部の家族性下垂体腫瘍症候群(MEN1、AIP遺伝子変異など)では合併例の報告あり。

2️⃣ 甲状腺ホルモン不応症(RTH)

  • 遺伝性疾患です。
  • 多くは 甲状腺ホルモン受容体β(THRB遺伝子) の変異によって起こる。
  • 常染色体優性遺伝が多く、家族内で複数人が発症することがある
  • RTHでは、末梢組織で甲状腺ホルモンが効きにくいため、下垂体が「もっと刺激しなければ」とTSHを分泌し続ける。

<下垂体性TSH分泌亢進症>の経過は?

🔹 1. TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)の経過

初期

  • 腺腫が小さい(微小腺腫)の時期は、動悸や発汗などの甲状腺機能亢進症状が主体。
  • 首の腫れ(甲状腺腫大)が出ることもある。

進行

  • 腺腫が大きくなると、**頭痛や視野障害(特に両耳側半盲)**などの下垂体腫瘍による圧迫症状が加わる。
  • 甲状腺ホルモン高値が続くことで、心房細動や骨粗鬆症などの合併症が進行。

長期経過・予後

  • 放置すれば 腫瘍増大+甲状腺機能亢進症による全身合併症 が悪化。
  • 適切に手術や薬物で治療すれば、長期予後は良好

🔹 2. 甲状腺ホルモン不応症(RTH)の経過

初期〜小児期

  • 発見契機は学校健診や不妊検査などの血液検査で「TSH正常〜高値+T3/T4高値」が見つかることが多い。
  • 症状は多様で、無症状〜甲状腺中毒症様〜甲状腺機能低下症様まで幅広い。

進行

  • 多くの患者は軽症で、日常生活に大きな支障をきたさないことも多い。
  • ただし、一部で動悸、不整脈、発達・学習の遅れなどが問題になることがある。

長期経過・予後

  • 遺伝性で一生続くが、多くは良好な予後
  • 症状が強い場合には薬物療法(β遮断薬など)でコントロール可能。

<下垂体性TSH分泌亢進症>の治療法は?

(代表的な ①TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)と ②甲状腺ホルモン不応症(RTH)に分けて説明します。)


🔹 1. TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)の治療

🎯 第一選択

  • 経蝶形骨洞手術(TSS)
    • 鼻の奥からアプローチして腫瘍を摘出する手術。
    • 下垂体腺腫の標準治療で、根治が期待できる。

💊 薬物療法(手術が困難・効果不十分な場合)

  • ソマトスタチンアナログ(オクトレオチド、ランレオチドなど)
    • TSH分泌を抑制。
    • 腫瘍の縮小効果も期待できる。
  • ドパミン作動薬(カベルゴリンなど)
    • 一部の腫瘍に有効。
  • チアマゾール(メルカゾール)・プロピルチオウラシル(PTU)
    • 甲状腺ホルモン過剰を抑えるための補助療法。

☢ 放射線療法

  • 手術ができない/再発例で行う。
  • 効果が出るまで時間がかかるため薬物と併用されることが多い。

🔹 2. 甲状腺ホルモン不応症(RTH)の治療

🔎 基本方針

  • 多くは軽症で治療不要。
  • 症状に応じて生活管理・対症療法を行う。

💊 薬物療法

  • β遮断薬(プロプラノロールなど)
    • 動悸・頻脈を抑える。
  • 甲状腺ホルモン製剤の投与(まれ)
    • 特殊なRTH亜型(下垂体優位型など)で使うことがある。

👪 遺伝カウンセリング

  • 家族性疾患なので、遺伝相談や家族スクリーニングが勧められる。

<下垂体性TSH分泌亢進症>の日常生活の注意点

(ここでも ①TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)と ②甲状腺ホルモン不応症(RTH)に分けて説明します。)


🏡 1. TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)の場合

💧 体調管理

  • 動悸・息切れ・手の震えなど、甲状腺機能亢進症状に注意。
  • 強い動悸や胸痛が出たら心臓疾患(心房細動など)の合併を疑って早めに受診。

🍴 食生活

  • カフェイン・アルコールは心拍数上昇を悪化させやすいので控えめに。
  • 骨粗鬆症予防のため、カルシウム・ビタミンDの摂取を意識。

🏃‍♂️ 運動

  • 激しい運動は動悸や心拍数の上昇を悪化させることがあるので、軽い有酸素運動やストレッチが望ましい。

🏥 通院・治療

  • 術後や薬物治療中はホルモン値(TSH・T3・T4)の定期チェックが必須。
  • 視野障害・頭痛など腫瘍圧迫症状が進んでいないか観察する。

🏡 2. 甲状腺ホルモン不応症(RTH)の場合

💧 体調管理

  • 多くは軽症で日常生活に大きな制限は不要。
  • 動悸・頻脈がある場合は、無理な運動や刺激物を避ける

🍴 食生活

  • 特別な食事制限は不要。
  • 心臓や骨への負担を軽減するため、バランスの良い食生活を心がける。

👪 家族への配慮

  • 遺伝性疾患なので、家族にも血液検査を勧めることがある
  • 遺伝カウンセリングを受けて、家族計画や生活の参考にする。

<下垂体性TSH分泌亢進症>の最新情報

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