目次
<大田原症候群>はどんな病気?
**<大田原症候群(Ohtahara syndrome)>は、新生児期〜乳児早期に発症する重症てんかん性脳症です。正式には早期乳児てんかん性脳症(Early Infantile Epileptic Encephalopathy:EIEE)**と呼ばれます。
- 発症時期:出生直後〜生後数週以内
- 主症状:頻回に起こる強直発作(体が硬直する発作)が中心
- 特徴的所見:脳波で**サプレッション・バースト(suppression-burst)**と呼ばれる特有の異常パターンを示します
- 重症度:非常に重く、発達への影響が大きい疾患です
- 主な症状
- 原因
- 経過と予後
- 診断
- 治療
- 重要なポイント
- 患者数・頻度の目安
- 日本における患者数の推定
- 数が把握しにくい理由
- 補足:近年の変化
- まとめ
- ① 脳の構造異常(最も多い原因の一つ)
- ② 遺伝子異常(近年、特に重要)
- ③ 代謝異常・その他(少数)
- 原因が重要な理由
- まとめ(要点)
- なぜ「遺伝しないことが多い」のか
- 遺伝が関与する可能性があるケース(少数)
- 脳構造異常が原因の場合
- 実際の臨床での考え方
- 重要なポイント
- 時期別の経過
- 発達・予後について
- 例外的な経過
- 重要なポイント(まとめ)
- 治療の基本的な考え方
- ① 薬物療法(治療の中心)
- ② ビタミンB6(ピリドキシン)試験投与
- ③ ケトン食療法
- ④ 外科治療(条件が合えば検討)
- ⑤ 原因に応じた治療(近年重要)
- ⑥ 支持療法・包括的ケア
- 治療の現実的な位置づけ
- まとめ(重要ポイント)
- 日常生活での基本方針
- ① 発作への備え・安全管理
- ② 呼吸・嚥下・栄養面の注意
- ③ 感染症予防
- ④ 睡眠・生活リズム
- ⑤ 医療との付き合い方
- ⑥ リハビリ・発達支援
- ⑦ ご家族への重要な注意点
- ⑧ 将来を見据えた準備
- まとめ(重要ポイント)
主な症状
- 強直発作(全身または部分的な体の硬直)
- 発作が昼夜を問わず頻発
- 発達の遅れ、または発達がほとんど進まない
- 筋緊張異常(低緊張または高緊張)
原因
大田原症候群は症候群名であり、原因は一つではありません。
主な原因
- 脳の構造異常
- 皮質形成異常、片側巨脳症など
- 遺伝子異常
- STXBP1、KCNQ2、SCN2A などの遺伝子変異
- 代謝異常
- 原因不明(現時点の検査で特定できない場合)
※多くは出生前から存在する要因が関与します。
経過と予後
- 発作は薬剤抵抗性であることが多いです
- 成長とともに
- ウエスト症候群
- レノックス・ガストー症候群
へ移行するケースが多くみられます
- 知的発達・運動発達ともに重度の障害を残すことが多いとされています
診断
以下を総合して診断されます。
- 臨床症状(新生児期からの強直発作)
- 脳波検査:サプレッション・バースト
- MRI:脳構造異常の評価
- 遺伝学的検査(近年は特に重要)
治療
根治療法はありませんが、発作の軽減と生活の質向上を目的に治療が行われます。
- 抗てんかん薬(複数併用が多い)
- ビタミンB6(ピリドキシン)反応性の確認
- ケトン食療法
- 脳の局所病変が明確な場合は外科手術を検討することもあります
- 多職種による包括的ケア(小児神経、リハビリ、在宅医療など)
重要なポイント
- 極めて早期に発症する重症てんかん性脳症
- 脳波所見が診断の決め手
- 原因検索(特に遺伝子検査)が治療方針や予後予測に重要
- 家族への心理的・社会的サポートが不可欠
<大田原症候群>の人はどれくらい?
患者数・頻度の目安
世界的な頻度
- 出生10万〜30万人に1人程度
と推定されています。 - てんかん全体の中でも最も稀な部類に入る疾患です。
新生児てんかんの中での割合
- 新生児期に発症するてんかん性脳症のうち
数%未満と考えられています。
日本における患者数の推定
- 日本では正確な全国患者数は把握されていません
- 年間出生数(約70〜80万人)から推定すると
年間数名〜10名未満程度と考えられます
※症例報告や専門施設ベースでの把握が中心で、
希少疾患ゆえに統計が非常に限られているのが現状です。
数が把握しにくい理由
- 発症が極めて早期(新生児期)
- 成長とともに
- ウエスト症候群
- レノックス・ガストー症候群
へ移行し、診断名が変わることが多い
- 原因が多様(遺伝子異常・脳構造異常など)
- 近年まで遺伝子診断が十分でなかった
これらにより、
👉 「大田原症候群としての患者数」を一生涯で正確に追跡することが困難です。
補足:近年の変化
- 遺伝子検査(STXBP1、KCNQ2 など)の普及により
診断される症例はやや増加傾向 - ただし、稀少疾患である事実は変わりません
まとめ
- 出生10万〜30万人に1人程度
- 日本では年間数名レベルと推定
- 非常に稀で、統計が限られている疾患
- 診断名が変化するため、正確な患者数の把握が難しい
<大田原症候群>の原因は?
大田原症候群は、単一の原因で起こる病気ではありません。
本質的には、出生前から存在する脳の重度の異常によって、脳の電気活動が正常に制御できなくなることで発症します。
原因は大きく ①脳構造異常、②遺伝子異常、③代謝・その他 に分けられます。
① 脳の構造異常(最も多い原因の一つ)
出生前の脳形成過程の異常により発症します。
代表的なもの
- 皮質形成異常(神経細胞の移動・配置異常)
- 片側巨脳症
- 脳回形成異常(滑脳症など)
- 脳出血・脳虚血後変化(胎児期)
▶ 発作が非常に早期から重症化しやすい特徴があります。
② 遺伝子異常(近年、特に重要)
現在では、遺伝子異常が原因と判明する症例が急増しています。
主な原因遺伝子(代表例)
- STXBP1
- KCNQ2
- SCN2A
- ARX
- CDKL5 など
ポイント
- 多くは新生突然変異(de novo)
- 両親に同じ病気がなくても発症します
- 発作型・経過・治療反応性に遺伝子ごとの特徴があります
③ 代謝異常・その他(少数)
- ビタミンB6(ピリドキシン)依存性てんかん
- 一部の先天代謝異常
- 明確な原因が特定できない症例も存在します
原因が重要な理由
原因を特定することは、単なる診断以上の意味を持ちます。
- 治療法選択(薬剤・食事療法・外科手術)
- 予後の見通し
- 将来のてんかん症候群への移行予測
- 家族への遺伝カウンセリング
特に遺伝子診断は現在の診療で極めて重要です。
まとめ(要点)
- 大田原症候群は症候群名であり原因は多様
- 主因は
① 脳構造異常
② 遺伝子異常 - 多くは出生前から存在
- 両親の育て方や出生後の環境が原因ではありません
<大田原症候群>は遺伝する?
多くの場合、遺伝しません。
ただし、一部のケースでは遺伝が関与する可能性があります。
なぜ「遺伝しないことが多い」のか
大田原症候群の原因として近年多いのは、遺伝子異常ですが、その内訳を見ると――
🔹 新生突然変異(de novo変異)
- 両親には存在しない遺伝子変異が、
胎児が作られる過程で偶然に発生したもの - 大田原症候群の大多数がこれに該当します
▶ この場合
- 両親は保因者ではありません
- 次のお子さんに同じ病気が起こる確率は非常に低い
(一般的には1%未満とされます)
遺伝が関与する可能性があるケース(少数)
① 遺伝形式をもつ遺伝子異常
一部の原因遺伝子では、以下のような遺伝形式が報告されています。
- 常染色体劣性遺伝
- X連鎖性遺伝(例:ARX など)
この場合は
- 両親のどちらかが無症状の保因者である可能性
- 次の子どもに再発するリスクが上がることがあります
② 親のモザイク変異
- 親自身は症状がないが
- 生殖細胞の一部にのみ変異を持つケース
▶ 非常に稀ですが、
再発リスクが完全にゼロではない理由の一つです。
脳構造異常が原因の場合
- 皮質形成異常や片側巨脳症などが原因の場合
- 多くは遺伝性ではなく、偶発的な発生異常です
実際の臨床での考え方
| 状況 | 遺伝の可能性 |
|---|---|
| 新生突然変異 | ほぼ遺伝しない |
| 遺伝形式のある遺伝子 | 低いがあり得る |
| 親が保因者 | 再発リスクあり |
| 原因不明 | 個別評価が必要 |
そのため現在は、
👉 遺伝学的検査と遺伝カウンセリングが強く推奨されています。
重要なポイント
- 大田原症候群は**「遺伝病」と決めつけられる疾患ではありません**
- 多くのご家族にとって
**「自分たちのせいではない」**ことが医学的に明確です - 再発リスクの評価は
原因遺伝子が分かって初めて正確に可能になります
<大田原症候群>の経過は?
大田原症候群は、発症からの経過が比較的一定のパターンをたどることが多い重症てんかん性脳症です。
- 発症:新生児期〜乳児早期
- 発作:非常に頻回・薬剤抵抗性
- 経過:他のてんかん症候群へ移行することが多い
時期別の経過
① 新生児期〜生後数か月
(大田原症候群の時期)
- 強直発作が昼夜を問わず頻発
- 抗てんかん薬に反応しにくい
- 脳波で
**サプレッション・バースト(suppression-burst)**を認めます - 発達はこの時期からすでに著しく抑制されることが多い
② 生後3〜6か月頃
(ウエスト症候群へ移行することが多い)
- 発作型が変化し、**点頭てんかん(スパズム)**が出現
- 脳波は
**ヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)**へ変化 - 診断名が
ウエスト症候群に変更されるケースが多くあります
※すべての症例が移行するわけではありませんが、非常に高頻度です。
③ 幼児期以降
(レノックス・ガストー症候群へ移行する場合)
- 複数の発作型(強直・脱力・非定型欠神など)が混在
- 脳波は
徐波棘徐波複合(slow spike-and-wave) - レノックス・ガストー症候群と診断されることがあります
発達・予後について
- 知的発達:重度障害を残すことが多い
- 運動発達:座位・歩行が困難なケースが多い
- 発語:獲得が難しい、または極めて限定的
ただし、
- 原因が遺伝子異常か脳構造異常か
- 発作コントロールの程度
- 早期介入の有無
によって個人差は大きいことが知られています。
例外的な経過
- 一部のKCNQ2関連てんかんなどでは
発作が軽減し、比較的良好な経過をとる報告もあります - 外科手術が適応となった症例では
発作頻度が大きく減少することもあります
重要なポイント(まとめ)
- 大田原症候群は
**単独で完結する疾患ではなく「経過の一段階」**であることが多い - 多くは
ウエスト症候群 → レノックス・ガストー症候群
という流れをたどります - 発達への影響は重いことが多いが、
原因・治療介入により幅がある
<大田原症候群>の治療法は?
治療の基本的な考え方
大田原症候群には、病気そのものを治す根治療法はありません。
治療の目的は以下の3点です。
- 発作をできる限り減らすこと
- 脳への二次的ダメージを抑えること
- 生活の質(QOL)を保つこと
そのため、複数の治療を組み合わせた集学的治療が行われます。
① 薬物療法(治療の中心)
抗てんかん薬
- 大田原症候群の発作は薬剤抵抗性であることが多く、
単剤での十分な効果は期待しにくいのが現実です。 - 実際には複数薬剤の併用が行われます。
よく使用される薬剤(例)
- バルプロ酸
- レベチラセタム
- フェニトイン
- ベンゾジアゼピン系薬剤
※症例・原因遺伝子により選択は異なります。
② ビタミンB6(ピリドキシン)試験投与
- 必ず早期に確認すべき治療です
- ピリドキシン依存性てんかんなど、
一部の代謝性てんかんでは劇的に改善する可能性があります
▶ 効果があれば、
発作が急速に軽減することもあります
③ ケトン食療法
- 高脂肪・低糖質の特殊な食事療法
- 薬剤抵抗性てんかんで一定の発作抑制効果が報告されています
- 乳児期から実施されることもありますが、
専門施設での厳密な管理が必須です
④ 外科治療(条件が合えば検討)
適応となるケース
- 発作の原因が
脳の一部に限局した構造異常である場合
(例:片側巨脳症、限局性皮質形成異常)
手術の目的
- 発作の大幅な減少
- 生活の質の改善
※すべての症例が対象になるわけではありません。
⑤ 原因に応じた治療(近年重要)
遺伝子異常が判明した場合
- 原因遺伝子によって
薬剤反応性や経過が異なることが分かっています - 一部では
遺伝子型に応じた治療選択が行われるようになっています
⑥ 支持療法・包括的ケア
発作治療と並行して、以下が極めて重要です。
- リハビリテーション(理学・作業・言語)
- 栄養管理・嚥下評価
- 呼吸管理
- 在宅医療・訪問看護
- 家族への心理的・社会的支援
治療の現実的な位置づけ
- 発作を完全に止めることは難しい場合が多い
- しかし
- 発作頻度の軽減
- 発作の重症度低下
- 合併症の予防
は十分に目指せます
まとめ(重要ポイント)
- 大田原症候群に根治療法はない
- 治療は
抗てんかん薬+代謝評価+食事療法+外科的検討 - 原因(特に遺伝子)を特定することが
治療選択・予後判断の鍵 - 長期的には医療・福祉を含めた包括的支援が不可欠
<大田原症候群>の日常生活の注意点
日常生活での基本方針
- 発作は予測不能・頻回である前提で環境を整える
- 発作そのものを完全に防ぐことより、事故と二次障害を防ぐことを重視
- 医療・福祉・在宅支援を早期から組み合わせることが重要です
① 発作への備え・安全管理
発作時の基本対応
- 無理に体を押さえつけない
- 呼吸を妨げないよう**横向き(回復体位)**にする
- 口の中に物を入れない
- 発作の時間・様子を記録する
生活環境の工夫
- ベッド・床周りは柔らかい素材を使用
- 角のある家具はクッションで保護
- 高所・入浴中・移動中の事故対策を徹底
② 呼吸・嚥下・栄養面の注意
- 嚥下障害や誤嚥のリスクが高いことがあります
- 食事形態は医師・ST(言語聴覚士)の評価に基づいて調整
- ミルク・経管栄養・胃ろうなどは
**「成長と安全を守る医療手段」**として前向きに検討されます
▶ 誤嚥性肺炎の予防は非常に重要です
③ 感染症予防
- 乳幼児期は発作悪化と感染症が連動しやすい
- 手洗い・換気・人混み回避など基本対策を重視
- 発熱時は発作頻度増加に注意し、早めに医療機関へ相談
④ 睡眠・生活リズム
- 睡眠不足は発作を誘発しやすい
- 昼夜逆転があっても
「眠れる時間を確保する」ことを優先 - 無理な生活リズム矯正は不要なことも多いです
⑤ 医療との付き合い方
定期的なフォロー
- 小児神経専門医による継続診療が必須
- 脳波・画像・薬剤調整を成長に合わせて見直し
薬の管理
- 飲み忘れ・過量投与を防ぐ
- 副作用(眠気、呼吸、肝機能など)に注意
- 自己判断で中止しない
⑥ リハビリ・発達支援
- 発達促進というより
拘縮予防・姿勢保持・快適さの維持が目的 - 理学療法・作業療法を無理のない頻度で継続
⑦ ご家族への重要な注意点
- 「親の育て方が原因ではありません」
- 24時間の緊張状態が続きやすいため
- レスパイト入院
- 訪問看護
- 福祉サービス
を遠慮なく利用することが重要です
- 介護者の疲弊は、結果的にご本人の安全にも影響します
⑧ 将来を見据えた準備
- 成長とともに
ウエスト症候群・レノックス・ガストー症候群へ移行することがあります - 医療費助成、小児慢性特定疾病、障害福祉サービスの
早期申請・継続更新が大切です
まとめ(重要ポイント)
- 発作は完全に防げなくても、事故は防げる
- 日常生活では
安全・呼吸・栄養・感染・睡眠が最優先 - 医療と生活は切り離さず、在宅支援を含めたチーム対応が不可欠
- ご家族のケアも「治療の一部」です
<大田原症候群>の最新情報
KCNQ2(loss of function)やSCN2A/SCN8A(gain of function)などで、ナトリウムチャネル遮断薬を(しばしば高用量で)検討(2025)

