目次
<全身性強皮症>はどんな病気?
全身性強皮症とは?
全身性強皮症は 自己免疫性の膠原病 の一つで、皮膚や内臓に線維化(硬化)が進行することを特徴とする慢性疾患です。
- 免疫の異常によって自己抗体が産生され、血管障害や線維芽細胞の異常な活性化が起こります。
- その結果、皮膚が硬く厚くなる「皮膚硬化」や、肺・心臓・腎臓・消化管などの臓器にも線維化が進み、機能障害をきたします。
主な症状
- 皮膚症状:皮膚が硬くなり、つっぱり感や指の屈伸困難。顔もマスク様表情になる。
- 血管症状:レイノー現象(寒冷やストレスで指先が白→紫→赤に変化)。
- 消化器症状:食道運動低下による逆流性食道炎、便秘や吸収不良。
- 肺症状:間質性肺疾患(ILD)や肺高血圧症(PAH)。
- 心・腎症状:不整脈、心不全、強皮症腎クリーゼ(急激な高血圧・腎不全)。
分類
全身性強皮症は皮膚の硬化範囲によって2つに分類されます:
- 限局皮膚型(lcSSc)
- 皮膚硬化は手指や顔に限局。
- 肺高血圧症を起こしやすい。
- びまん皮膚型(dcSSc)
- 皮膚硬化が広範囲(手指・顔・体幹まで)。
- 進行が速く、間質性肺疾患や腎クリーゼを合併しやすい。
関連する自己抗体
- 抗セントロメア抗体 → lcSScに多い。肺高血圧症リスク。
- 抗トポイソメラーゼⅠ抗体(Scl-70抗体) → dcSScに多い。間質性肺疾患リスク。
- 抗RNAポリメラーゼⅢ抗体 → 腎クリーゼリスク。
👉 全身性強皮症は、単なる皮膚の病気ではなく 「血管障害」と「線維化」が全身に及ぶ全身性の自己免疫疾患 です。
<全身性強皮症>の人はどれくらい?
<全身性強皮症(systemic sclerosis, SSc)>の患者さんの頻度について説明します。
世界的な有病率・発症率
- 有病率(既に病気を持つ人の割合)
世界全体で 人口10万人あたり約50〜300人程度 とされています。
(地域差が大きく、北米や北欧では比較的多く、アジアでは少なめです) - 発症率(年間に新しく発症する人の割合)
年間 人口100万人あたり10〜20人程度 とされています。
日本での頻度
- 日本では有病率は 人口10万人あたり20〜50人程度 と推定され、比較的まれな病気です。
- 男女比は 女性が圧倒的に多く(約7〜10倍)、発症年齢は 30〜50歳代 にピークがあります。
まとめ
- 全身性強皮症は 希少疾患(難病) に分類されます。
- 世界で数十万人、日本では数万人規模の患者さんがいると考えられています。
- 特に女性の中年期に多いのが特徴です。
<全身性強皮症>の原因は?
<全身性強皮症(systemic sclerosis, SSc)>の原因について説明します。
✅ 全身性強皮症の原因(なぜ起こるのか)
全身性強皮症の「単一の原因」はまだ分かっていませんが、自己免疫反応・遺伝的素因・環境要因が複雑に関わると考えられています。
1. 自己免疫の異常
- 自分の体を攻撃してしまう 自己免疫反応 が中心的な役割を果たします。
- 強皮症では特有の 自己抗体(例:抗トポイソメラーゼI抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体など)が出現します。
- これにより血管や線維芽細胞が刺激され、異常な線維化(コラーゲン過剰沈着)を起こします。
2. 血管障害
- 強皮症は「血管の病気」ともいわれ、血管内皮細胞の障害が初期に起こると考えられています。
- その結果、末梢血管の収縮(レイノー現象)や血管新生の異常が起こり、組織が慢性的に虚血になります。
3. 線維化(コラーゲン過剰沈着)
- 免疫異常と血管障害の刺激で、線維芽細胞が活性化されます。
- コラーゲンなどの細胞外マトリックスが過剰に産生され、皮膚や内臓が硬くなります。
4. 遺伝的要因
- 家族内での発症はまれですが、**HLA遺伝子(HLA-DRB1, DQB1など)**が関与していることが報告されています。
- ただし「直接遺伝する病気」ではなく、あくまで「なりやすい体質」が遺伝的に影響する程度です。
5. 環境要因
発症の引き金となる可能性があるもの:
- シリカ粉塵、塩化ビニル、溶剤などの化学物質への曝露
- ウイルス感染(サイトメガロウイルス、パルボウイルスなどが研究対象)
- 喫煙
- ホルモン(女性に多い理由の一因と考えられる)
🔑 まとめ
- 全身性強皮症の原因は「自己免疫異常」「血管障害」「線維化」の三本柱。
- 遺伝的素因に環境因子が加わることで発症リスクが高まる。
- 単一の原因ではなく、多因子的に発症する「自己免疫性線維化疾患」と理解されています。
<全身性強皮症>は遺伝する?
<全身性強皮症(systemic sclerosis, SSc)>は、自己免疫の異常によって皮膚や内臓の線維化や血管障害を起こす病気ですが、遺伝病そのものではありません。
🔹 遺伝との関係
- 一部の遺伝的素因が病気の発症リスクに関与すると考えられています。
- 免疫関連遺伝子(HLAクラスII領域など)がリスク因子として知られています。
- 例えば、HLA-DRB1、HLA-DQA1、HLA-DQB1 などが欧米や日本の患者で関連報告あり。
- ただし 「家族性に多数発症する」ことは非常にまれ であり、遺伝だけで発症するものではありません。
🔹 遺伝以外の要因
- 環境要因:シリカ粉塵や有機溶剤、化学物質の曝露
- 性差:女性に多い(特に20~50歳代)
- 免疫異常:自己抗体(抗トポイソメラーゼI抗体、抗セントロメア抗体など)
✅ まとめ
- 全身性強皮症は遺伝性疾患ではなく、多因子性疾患(遺伝的素因+環境因子+免疫異常が関与)。
- 血縁者に患者がいると、一般人口より発症リスクはやや高いですが、遺伝確率は低いため「遺伝する病気」とは言えません。
<全身性強皮症>の経過は?
<全身性強皮症(systemic sclerosis, SSc)>の経過は、皮膚の硬化の進行度と内臓病変の有無・重症度によって大きく異なります。一般に「慢性に経過するが、合併症の有無で予後が左右される」病気です。
🔹 経過の特徴
1. 初期(前駆期~発症早期)
- レイノー現象が最初に出ることが多い(手指が寒冷刺激で白→紫→赤に変色)。
- 手指の腫れ(puffy fingers)、関節のこわばり。
- 自己抗体(抗セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼI抗体など)が陽性になることもある。
2. 皮膚病変の進展
- 限局皮膚硬化型(lcSSc):顔や手指中心、進行は緩やか。
- びまん皮膚硬化型(dcSSc):体幹や四肢近位にも硬化が広がり、早期から内臓障害が起こりやすい。
- 皮膚は硬くなったあと、数年で柔らかくなることもある(「burn out」現象)。
3. 内臓病変の出現(数年以内に合併しやすい)
- 肺:間質性肺疾患(肺線維症)、肺高血圧症 → 呼吸困難・労作時息切れ。
- 心臓:不整脈、心筋障害。
- 腎臓:強皮症腎クリーゼ(急激な高血圧+腎不全、ACE阻害薬で治療)。
- 消化管:食道蠕動低下による逆流性食道炎、腸管運動障害。
4. 慢性期
- 病気の進行が落ち着き、皮膚の硬さが軽減することもある。
- ただし肺・心臓・腎臓の合併症が持続または進行する場合があり、予後は内臓病変の有無と重症度に依存。
🔹 予後
- 限局皮膚硬化型(lcSSc):進行は比較的緩やか、予後は良い。
- びまん皮膚硬化型(dcSSc):発症後数年で内臓障害が出やすく、注意が必要。
- 特に肺高血圧症と強皮症腎クリーゼは予後を悪化させる要因。
✅ まとめ
- 経過は 数年単位で皮膚硬化の進行 → 内臓合併症の出現 → 慢性安定期 という流れが多い。
- 個人差が非常に大きく、抗体の種類や皮膚硬化の範囲で将来のリスクをある程度予測できる。
- 定期的な心臓・肺・腎の検査(心エコー、呼吸機能検査、尿・血圧チェック)が経過観察に必須。
<全身性強皮症>の治療法は?
<全身性強皮症(systemic sclerosis, SSc)>の治療法は、病気そのものを根治させる治療は現時点ではなく、症状の進行や臓器障害を抑えること、生活の質を保つことが中心になります。臓器ごとに治療戦略が異なり、多職種チーム医療が重要です。
🔹全身性強皮症の治療法
1. 免疫抑制療法
- シクロホスファミド:間質性肺疾患(SSc-ILD)に有効とされる。
- ミコフェノール酸モフェチル(MMF):肺障害や皮膚硬化に使用、シクロホスファミドより副作用が少ない。
- リツキシマブ(抗CD20抗体):皮膚硬化や肺病変の改善が報告されている。
- トシリズマブ(抗IL-6受容体抗体):皮膚硬化・肺線維症に対して臨床試験で有効性が示され、承認されている国もある。
2. 血管病変に対する治療
- レイノー現象・指尖潰瘍
- カルシウム拮抗薬(ニフェジピンなど)
- PDE-5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)
- エンドセリン受容体拮抗薬(ボセンタン) → 難治性デジタル潰瘍に有効
- プロスタサイクリン誘導体(イロプロスト静注)
- 肺高血圧症(SSc-PAH)
- エンドセリン受容体拮抗薬(ボセンタン、アンブリセンタン)
- PDE-5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)
- 可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬(リオシグアト)
- プロスタサイクリン誘導体(エポプロステノールなど)
3. 線維化に対する治療
- 抗線維化薬
- ニンテダニブ(抗線維化薬) → SSc関連間質性肺疾患に対して承認済み(肺機能低下を遅らせる)。
- ピルフェニドンも研究中。
4. 消化管病変に対する治療
- 胃食道逆流(GERD) → プロトンポンプ阻害薬(PPI)
- 蠕動低下 → プロキネティクス(モサプリドなど)
- 小腸細菌異常増殖(SIBO) → 抗菌薬周期投与(リファキシミンなど)
5. 皮膚症状に対する治療
- 外用薬(保湿剤)
- 光線療法(UVA1など) → 一部の皮膚硬化に有効とされる。
- 免疫抑制剤の全身投与。
6. 造血幹細胞移植(HSCT)
- 重症例(急速進行性皮膚硬化や重度臓器障害)では自己造血幹細胞移植が行われる。
- 欧米で臨床試験(ASTIS, SCOT trial)により有効性が示されているが、治療関連死亡リスクもあり、慎重な適応判断が必要。
7. 支持療法・リハビリ
- 皮膚硬化に伴う関節拘縮 → 理学療法
- 栄養管理
- 定期的な臓器スクリーニング(心エコー、肺機能検査など)
✅まとめ
全身性強皮症の治療は「臓器別」「症状別」に行われ、免疫抑制薬・抗線維化薬・血管拡張薬・生物学的製剤などの併用が中心です。近年は リツキシマブ・トシリズマブ・ニンテダニブ などの分子標的薬が導入され、予後改善が期待されています。
<全身性強皮症>の日常生活の注意点
<全身性強皮症(systemic sclerosis, SSc)>は自己免疫疾患で、皮膚や内臓に線維化・血管障害を起こすため、日常生活でも注意が必要です。以下の点が重要です。
🌿 日常生活の注意点
1. 寒さ対策(レイノー現象の予防)
- 手足の血流が悪くなりやすいため、冬場や冷房下では手袋・靴下・カイロで保温する。
- 急激な温度変化を避ける。
- 喫煙は血管収縮を悪化させるため禁煙が望ましい。
2. 皮膚・関節のケア
- 皮膚乾燥を防ぐため保湿剤を毎日使用。
- 拘縮予防のためストレッチや関節の可動域訓練を行う。
- 硬化部位に外傷ができやすいので注意(特に手指)。
3. 消化器症状への対応
- 胃食道逆流症(GERD)が多いため、
- 就寝前2〜3時間は飲食を避ける。
- 頭を高くして寝る。
- 脂っこい食事やアルコールを控える。
- 少量頻回食が推奨されることもある。
4. 肺・心臓の合併症への配慮
- 階段や坂道での息切れ・動悸・むくみなどに注意し、症状があれば早めに医師へ相談。
- 定期的に心エコーや肺機能検査を受ける。
5. 腎臓合併症の予防
- 高血圧は腎クリーゼのリスクとなるため、自宅で血圧を測定。
- 急な頭痛・高血圧・視覚異常があればすぐ受診。
6. 感染予防
- ステロイドや免疫抑制薬を使うことが多いため、風邪や肺炎に注意。
- ワクチン接種(インフルエンザ、肺炎球菌など)は医師と相談。
7. メンタル・生活支援
- 慢性疾患によるストレスや抑うつへの対応が大切。
- 難病指定(指定難病「強皮症」)により医療費助成制度が利用可能。