目次
<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>はどんな病気?
<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>(MTLE-HS)は、脳の内側側頭葉、とくに海馬に硬化(萎縮・瘢痕化)が生じることで起こる、代表的な局在関連てんかんです。
成人てんかんの中で最も頻度が高いタイプの一つで、発作が薬に効きにくい(薬剤抵抗性)ことが少なくありません。


- 病態の要点
- 主な原因・背景
- 発作の特徴(とても重要)
- 診断のポイント
- 治療の基本方針
- 記憶・認知機能への影響
- まとめ
- 全体像を一言で言うと
- 📊 てんかん全体の中での割合
- 📉 薬剤抵抗性てんかんの中では?
- 🌍 一般人口あたりでは?
- 🇯🇵 日本ではどのくらい?
- なぜ「多い」のに目立ちにくいのか
- まとめ
- <海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>の原因は?
- 原因を一言でまとめると
- ① 最も重要な原因:乳幼児期の長引く発作
- ② てんかん重積状態(非熱性)
- ③ 脳炎・感染症
- ④ 低酸素・虚血
- ⑤ 頭部外傷
- ⑥ 原因不明(特発例)も少なくない
- ⑦ なぜ「海馬」だけが硬化しやすいのか
- ⑧ 遺伝は原因か?
- まとめ
- 基本的な考え方
- なぜ「遺伝しない」と言われるのか
- ② 家族内発症はまれ
- ただし例外的に考えられている点
- 特殊なケース(まれ)
- お子さんや家族に遺伝する可能性は?
- まとめ
- <海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>の経過は?
- ① 発症前(前駆・潜伏期)
- ② 発症期(思春期〜成人初期が多い)
- ③ 慢性期(治療下でも続く時期)
- ④ 外科治療を行わない場合の長期経過
- ⑤ 外科治療後の経過(重要)
- ⑥ 年齢を重ねたあとの経過
- 経過を左右する要因
- まとめ
- <海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>の治療法は?
- ① 抗てんかん薬による治療(第一段階)
- ② 外科治療(非常に重要)
- ③ 低侵襲治療(近年の選択肢)
- ④ 外科が難しい場合の補助療法
- ⑤ 治療のタイミングが非常に重要
- まとめ
- <海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>の日常生活の注意点は?
- ① 発作を起こしにくくする生活管理
- ② 発作時の安全対策
- ③ 服薬管理(極めて重要)
- ④ 記憶・認知面への配慮(この病気特有の注意点)
- ⑤ 精神・心理面への配慮
- ⑥ 仕事・学校・運転について
- ⑦ 外科治療を受けた後の日常生活
- まとめ(重要ポイント)
病態の要点
- 海馬は記憶や情動に関わる重要な部位です
- 何らかの原因で海馬の神経細胞が脱落・変性し(=海馬硬化)、
- その結果、発作を起こしやすい異常な神経回路が形成されます
主な原因・背景
はっきりした原因が特定できないことも多いですが、次のような背景が知られています。
- 乳幼児期の長引く熱性けいれん
- てんかん重積状態
- 低酸素・虚血
- 脳炎・髄膜炎
- 頭部外傷
これらを契機に、年単位の時間をかけて海馬硬化が進み、思春期〜成人期に発症するケースが典型的です。
発作の特徴(とても重要)
よくみられる発作症状
- 前兆(アウラ)
- 胃からこみ上げる感じ
- 強い既視感・未視感
- 急な恐怖感、不安感、においの錯覚
- 意識障害を伴う自動症
- 口をもぐもぐする
- 手を無意識に動かす
- ぼんやりして反応が鈍くなる
- 発作後の
- 強い眠気
- 記憶が抜け落ちる感じ
※ 全身けいれんに移行することもあります。
診断のポイント
1️⃣ MRI(非常に重要)
- 海馬の萎縮
- T2/FLAIRでの高信号
→ 海馬硬化の典型所見
2️⃣ 脳波検査
- 側頭葉由来のてんかん波
3️⃣ 病歴
- 小児期の熱性けいれん歴などが参考になります
治療の基本方針
薬物療法
- 抗てんかん薬がまず試されます
- しかし 薬剤抵抗性 になる例が多いのが特徴です
外科治療(重要な選択肢)
- 薬で十分に抑えられない場合、
内側側頭葉切除術や選択的海馬切除術が検討されます - 適切に選ばれた症例では
👉 60〜80%以上で発作消失または大幅改善
が報告されています
記憶・認知機能への影響
- 海馬は記憶中枢のため
- 病変側の記憶障害
- 手術後の記憶変化
が問題になることがあります
- そのため、手術前には
詳細な神経心理検査・言語優位半球の評価が必須です
まとめ
- <海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>は
最も代表的な焦点性てんかん - 海馬の硬化が原因で
**特徴的な部分発作(自動症・前兆)**を起こす - 薬が効きにくいことが多い
- 条件が合えば
外科治療で根治に近い改善が期待できる
<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>の人はどれくらい?
<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>(MTLE-HS)は、てんかんの中では比較的頻度の高いタイプとして知られています。2025年時点までの疫学研究・総説論文をもとに、規模感を整理いたします。
全体像を一言で言うと
👉 「てんかん患者さんの中ではかなり多い」
👉 「難治性てんかんの中では最も代表的」
という位置づけです。
📊 てんかん全体の中での割合
■ てんかん患者全体の中で
- 内側側頭葉てんかん(MTLE)は
全てのてんかん患者の約20〜30% - そのうち
約60〜70%が海馬硬化を伴うタイプ(MTLE-HS)
と報告されています
▶ つまり
てんかん全体の約15〜20%前後 が
<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん> に相当します
📉 薬剤抵抗性てんかんの中では?
ここが非常に重要なポイントです。
- 薬が効きにくい「薬剤抵抗性てんかん」患者の中では
約30〜40% を
MTLE-HS が占めるとされています
👉 外科治療の候補になる患者さんの中で、最も多い原因疾患
と考えられています。
🌍 一般人口あたりでは?
一般人口を基準にした推定では:
- てんかん全体の有病率:
約0.5〜1% - その約15〜20%が MTLE-HS とすると、
👉 人口10万人あたり 約75〜200人前後
👉 人口1万人あたり 約7〜20人程度
と推定されます。
※ 地域・診断体制・年齢構成によって幅があります。
🇯🇵 日本ではどのくらい?
日本の人口規模(約1億2,000万人)から推定すると:
- 日本のてんかん患者数:約 100万人前後
- その 15〜20% が MTLE-HS と仮定すると、
👉 約15万〜20万人程度 が
<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん> を有している可能性があります。
※ 実際には
- 未診断例
- 他の側頭葉てんかんとして扱われている例
も含まれるため、正確な人数は把握困難です。
なぜ「多い」のに目立ちにくいのか
- 発作が
- ぼんやりする
- 自動的な動作だけ
に見えることがあり、見逃されやすい
- 小児期の熱性けいれんから
何年も経って成人してから発症する例が多い - 「記憶障害」「精神症状」と誤解されることがある
そのため、実際の患者数は推定より多い可能性も指摘されています。
まとめ
- <海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>は
- てんかん全体の 約15〜20%
- 薬剤抵抗性てんかんの 約30〜40%
- 日本では
十数万人規模 と推定される - 外科治療で改善が期待できる患者さんが多い、極めて重要な疾患
<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>の原因は?
<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>の原因は?
**<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん(MTLE-HS)>**は、
単一の原因で起こる病気ではなく、
👉 「脳への強い負荷(発作・炎症・低酸素など)」+「時間をかけた変化」
によって、海馬硬化が形成され、発症すると考えられています。
原因を一言でまとめると
幼少期などの脳へのダメージをきっかけに、長い年月をかけて海馬が変性(硬化)し、発作を起こしやすい回路が固定化される
というのが、現在最も支持されている考え方です。
① 最も重要な原因:乳幼児期の長引く発作
● 熱性けいれん重積
- 乳幼児期の長時間の熱性けいれん(特に30分以上)
- MTLE-HS患者さんの30〜60%前後で既往があると報告されています
- 発作による
- 神経細胞障害
- 炎症反応
が海馬に集中して起こりやすい
👉 最もよく知られた原因因子です。
② てんかん重積状態(非熱性)
- 乳幼児期・小児期・成人期を問わず
発作が止まらない状態(てんかん重積) - 特に側頭葉発作が長引いた場合、
海馬が選択的に障害されやすいことが知られています。
③ 脳炎・感染症
- ウイルス性脳炎(特に単純ヘルペス脳炎)
- 髄膜炎
- 炎症が
- 海馬
- 扁桃体
に及ぶことで、直接的な神経細胞脱落が起こります。
👉 発症時は急性脳炎でも、
数年後にMTLE-HSとして顕在化することがあります。
④ 低酸素・虚血
- 出生時仮死
- 心停止・重症呼吸障害
- 重篤な循環不全
海馬は酸素不足に極めて弱い部位のため、
短時間でも障害を受けやすいとされています。
⑤ 頭部外傷
- 重症頭部外傷
- 側頭葉を直接損傷した外傷
ただし、頻度としては上記原因より低めです。
⑥ 原因不明(特発例)も少なくない
- 明確な既往がまったく見つからない方もいます
- その場合は、
- 軽微な発作
- 気づかれなかった炎症
- 個人差(脆弱性)
が関与した可能性が考えられます
👉 「原因が特定できない=珍しい」わけではありません。
⑦ なぜ「海馬」だけが硬化しやすいのか
海馬には以下の特徴があります。
- 興奮性神経が多い
- 発作時に電気的ストレスが集中しやすい
- 低酸素・炎症に弱い
- 可塑性(変化しやすさ)が高い
そのため、
👉 発作や炎症が繰り返されると、選択的に障害されやすい
と考えられています。
⑧ 遺伝は原因か?
- 基本的に遺伝性疾患ではありません
- 単一遺伝子異常が原因になることはほぼありません
- ただし、
- 発作を起こしやすい体質
- 熱性けいれんを起こしやすい体質
などの**「なりやすさ」**に、遺伝要因が関与する可能性は示唆されています
まとめ
- MTLE-HSの原因は
後天的な脳へのダメージが中心 - 特に重要なのは
- 乳幼児期の長引く熱性けいれん
- てんかん重積
- 脳炎
- 海馬は発作や低酸素に弱く、
時間をかけて硬化が形成される - 遺伝病ではないが、
個人差(脆弱性)が関与する可能性はある
<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>は遺伝する?
👉 原則として「遺伝する病気ではありません」
👉 ただし、ごく一部で「遺伝的ななりやすさ(素因)」が関与する可能性はあります。
基本的な考え方
**<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>(MTLE-HS)**は、
- 海馬の神経細胞脱落・瘢痕化(海馬硬化)
- それに伴う異常な神経回路形成
によって起こる 「後天性要素が強い焦点性てんかん」 と考えられています。
そのため、
- 単一の遺伝子異常が直接原因になる病気ではありません
- 多くの患者さんで 家族歴はありません
なぜ「遺伝しない」と言われるのか
① 原因の多くが後天的
MTLE-HS の背景には、次のような 後天的イベント が関与することが多いです。
- 乳幼児期の 長引く熱性けいれん
- てんかん重積状態
- 脳炎・髄膜炎
- 低酸素・虚血
- 頭部外傷
これらがきっかけとなり、
何年もかけて海馬硬化が形成され、思春期〜成人期に発症します。
👉 したがって
「生まれつき決まっている病気」ではありません。
② 家族内発症はまれ
- 一般的な MTLE-HS では
家族内に同じ病気の方がいることはまれ - 一卵性双生児でも
片方のみ発症する例が多く報告されています
これも、遺伝単独では説明できないことを示しています。
ただし例外的に考えられている点
🔹 遺伝的「素因」が関与する可能性
近年の研究では、
- 発作を起こしやすい体質
- 神経の興奮性の個人差
- 熱性けいれんを起こしやすい体質
などに、複数の遺伝因子が関与する可能性が示唆されています。
これは
👉 「遺伝する病気」ではなく
👉 「遺伝的になりやすい体質が、環境因子と組み合わさって発症する」
という位置づけです。
特殊なケース(まれ)
家族性側頭葉てんかんとの違い
- 「家族性内側側頭葉てんかん」という疾患群がありますが、
- 海馬硬化を伴わないことが多い
- 臨床像・経過が異なる
- MTLE-HS とは別の疾患概念です
お子さんや家族に遺伝する可能性は?
- 一般的な MTLE-HS の場合
👉 お子さんに同じ病気が起こる確率は
一般人口とほぼ同等(極めて低い) と考えられています - 特別な遺伝カウンセリングが必要になるケースは 通常ありません
まとめ
- <海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>は
基本的に遺伝する病気ではない - 多くは
後天的要因+個人差 により発症 - ごく一部で
遺伝的な「なりやすさ」が関与する可能性はあるが、
親から子へ直接伝わる病気ではない - 家族への再発リスクは
非常に低い
<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>の経過は?
<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>の経過は?
<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん(MTLE-HS)>は、
ゆっくりとした長期経過をとることが多い焦点性てんかんで、
発症までの「前段階」→「発症後の慢性期」→「治療介入後」という段階的な経過を示すのが特徴です。
① 発症前(前駆・潜伏期)
背景として多い出来事
- 乳幼児期の長引く熱性けいれん
- てんかん重積状態
- 脳炎・髄膜炎
- 低酸素・虚血
- 頭部外傷
これらを契機に、時間をかけて
海馬硬化(海馬の神経細胞脱落・萎縮)
が進行すると考えられています。
👉 この時期は症状がまったく出ないことも多く、
数年〜10年以上の無症候期間が存在することがあります。
② 発症期(思春期〜成人初期が多い)
発作が出現
- 胃部不快感、恐怖感、既視感などの前兆(アウラ)
- 意識がぼんやりする
- 口をもぐもぐする、手を動かすなどの自動症
- 発作後の強い眠気・記憶の抜け
が繰り返し起こるようになります。
この時点で診断される方が多いです。
③ 慢性期(治療下でも続く時期)
薬物治療の経過
- 抗てんかん薬で
- 発作が減る方
- 一時的に止まる方
もいますが、
- 約30〜50%は薬剤抵抗性となり、
発作が持続・再燃します
この時期の特徴
- 発作が年単位で持続
- 発作頻度は
- 多いまま安定
- ゆっくり増える
- 波を打ちながら続く
など個人差が大きい
- 病側の記憶障害や
不安・抑うつなどの精神症状を伴うことがあります
👉 自然に治癒することはまれです。
④ 外科治療を行わない場合の長期経過
- 発作は
数十年にわたり持続することがあります - 発作による
- 生活の制限
- 就労・学業への影響
- 転倒・事故リスク
が問題になります
- 海馬硬化そのものが
急激に悪化することは少ないですが、
発作は慢性的に残存しやすいです
⑤ 外科治療後の経過(重要)
手術適応がある場合
- 内側側頭葉切除術
- 選択的海馬扁桃体切除術
術後経過
- 60〜80%以上で
- 発作消失
- または著明改善
- 効果は長期(10年以上)持続する例が多い
- 術後早期に発作が消失した場合、
予後は非常に良好
注意点
- 病側が言語・記憶優位半球の場合、
記憶機能の変化が問題になることがあり、
術前評価が極めて重要です
⑥ 年齢を重ねたあとの経過
- 発作が続く方では
- 加齢とともに転倒・誤嚥リスクが上昇
- 手術で発作が止まった方は
- 社会復帰・就労が可能になる例も多い
- 生命予後自体は
一般人口と大きく変わらないとされています
(ただし発作事故には注意が必要)
経過を左右する要因
- 発症年齢
- 発作頻度・重積の有無
- 薬剤抵抗性かどうか
- 外科治療を適切な時期に受けられたか
- 病変側(優位半球かどうか)
まとめ
- MTLE-HS は
ゆっくり発症し、慢性化しやすい - 自然寛解はまれ
- 薬が効かない場合でも
外科治療で大きく改善できる可能性が高い - 早期に専門施設で評価されることが
長期予後を大きく左右する
<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>の治療法は?
<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>の治療法は?
<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん(MTLE-HS)>の治療は、
① 抗てんかん薬による内科治療を基本とし、
② 薬で十分に抑えられない場合は外科治療を積極的に検討する、
という二段構えが国際的な標準です。
この疾患は「外科治療で根治(発作消失)を目指せる代表的てんかん」である点が最大の特徴です。
① 抗てんかん薬による治療(第一段階)
目的
- 発作頻度・重症度を下げる
- 日常生活の安全性を確保する
よく用いられる薬剤
- カルバマゼピン
- ラモトリギン
- レベチラセタム
- ラコサミド
※ 患者さんの年齢、併存症、妊娠希望などを考慮して選択されます。
薬物治療の限界
- **約30〜50%**の方は
👉 薬剤抵抗性てんかん(2剤以上を適切に使っても発作が止まらない)
になります。 - この時点で、治療の主軸は外科治療へ移行します。
② 外科治療(非常に重要)
外科治療が強く勧められる理由
- 海馬硬化は構造的な病変
- 発作焦点が比較的限局
- 手術成績が極めて良好
主な手術方法
1️⃣ 内側側頭葉切除術(ATL)
- 側頭葉内側部(海馬・扁桃体など)を切除
- 最も長い実績がある方法
2️⃣ 選択的海馬扁桃体切除術(SAH)
- 海馬と扁桃体のみを選択的に切除
- 側頭葉皮質を温存し、認知機能への影響を抑える目的
手術成績
- 発作消失:60〜80%以上
- 効果は10年以上持続する例が多い
- 発作が消失すると
- 就労・学業復帰
- 運転再開(条件付き)
が可能になることもあります
手術前に必須の評価
- 長時間ビデオ脳波
- 高分解能MRI
- 神経心理検査(記憶・言語)
- 機能的MRI/Wadaテスト(施設による)
👉 病変側が言語・記憶の優位半球かどうかが、治療選択に直結します。
③ 低侵襲治療(近年の選択肢)
レーザー焼灼術(LITT)
- MRIガイド下に海馬を焼灼
- 開頭せずに治療可能
- 発作抑制効果はやや劣るが
- 低侵襲
- 回復が早い
という利点があります
※ 日本では実施施設が限られます。
④ 外科が難しい場合の補助療法
神経刺激療法
- 迷走神経刺激療法(VNS)
- 脳深部刺激療法(DBS)
👉 発作を減らす目的で使用されますが、
根治療法ではありません。
⑤ 治療のタイミングが非常に重要
- 薬が効かない状態を何年も続ける必要はありません
- 国際ガイドラインでは
👉 薬剤抵抗性と判断された時点で、早期に外科評価を行う
ことが推奨されています
遅れるほど
- 認知機能低下
- 精神症状
- 社会的影響
が蓄積する可能性があります。
まとめ
- MTLE-HSの治療は
抗てんかん薬 → 外科治療 が基本 - 薬が効かない場合、外科治療が最も有効
- 発作消失率は 60〜80%以上
- 適切な時期に専門施設で評価することが、
長期予後を大きく左右します
<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>の日常生活の注意点
<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>の日常生活の注意点は?
**<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん(MTLE-HS)>**では、
「発作の予防」「発作時の安全確保」「記憶・精神面への配慮」「長期的な生活設計」
の4つが日常生活の大きな柱になります。
この疾患は命に直結する制限が多い病気ではありませんが、生活の質に影響しやすいため、適切な工夫が重要です。
① 発作を起こしにくくする生活管理
● 睡眠の確保(最重要)
- 睡眠不足は最大の発作誘因の一つです
- 毎日できるだけ
- 同じ時間に寝る
- 同じ時間に起きる
- 夜更かし・徹夜・不規則な生活は避ける
👉 発作が安定している方でも、睡眠不足で再発することがあります。
● ストレス管理
- 強い精神的ストレス・疲労は発作を誘発します
- 無理な予定を詰め込まない
- 休憩を「治療の一部」と考えることが大切です
● 飲酒・嗜好品
- 少量でも発作を誘発する方がいます
- 飲酒は
- 原則「控えめ」
- 発作が不安定な場合は「避ける」
が望ましいです
- 市販薬(風邪薬・抗ヒスタミン薬など)は、
必ず主治医・薬剤師に確認してください
② 発作時の安全対策
● 転倒・事故の予防
- 発作時に意識が途切れることがあるため、
- 高所作業
- 危険な機械操作
- 一人での入浴・水泳
には注意が必要です
- 入浴は
- 短時間
- 可能であれば家族が在宅時に行う
● 外出時の備え
- 医療情報カード(てんかんであること・服薬内容)を携帯
- スマートフォンの緊急連絡先設定
- 発作が頻回な方は、同行者に発作時対応を伝えておく
③ 服薬管理(極めて重要)
- 決められた時間に確実に服薬
- 飲み忘れは発作再発の大きな原因になります
- 自己判断での減量・中止は絶対に避けてください
- 新しい薬(市販薬・サプリ含む)を使う前は必ず相談
👉 MTLE-HS では
「薬が効いている状態」を安定して維持することが非常に重要です。
④ 記憶・認知面への配慮(この病気特有の注意点)
海馬は記憶に関わるため、以下のような工夫が役立ちます。
- スマートフォン・手帳・メモの活用
- 予定や約束は「書いて残す」
- 重要な説明は
- その場で復唱
- メモを取る
- 無理に「覚えよう」としない
👉 これは能力低下ではなく、病気の性質への合理的な対応です。
⑤ 精神・心理面への配慮
- MTLE-HS では
- 不安
- 抑うつ
- イライラ
が合併しやすいことが知られています
- 「性格の問題」ではありません
- 気分の落ち込みが続く場合は、
早めに主治医へ相談してください
⑥ 仕事・学校・運転について
● 就労・学業
- 多くの方が通常の仕事・学業を継続可能です
- 発作頻度・内容に応じて
- 勤務形態
- 業務内容
を調整することで、長く続けやすくなります
● 自動車運転
- 発作がある場合は
一定期間の発作消失が必要です(法令に基づく) - 主治医と必ず相談してください
⑦ 外科治療を受けた後の日常生活
- 発作が消失した場合
- 生活制限は大きく緩和されます
- 就労・運転再開が可能になる例も多い
- ただし
- 定期通院
- 服薬継続(段階的調整)
は必要です
まとめ(重要ポイント)
- 睡眠・服薬・ストレス管理が最重要
- 発作時の安全対策を生活に組み込む
- 記憶障害には「道具で補う」発想が有効
- 精神面の変化も病気の一部として対応する
- 多くの方が適切な管理で安定した日常生活を送れます
<海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん>の最新情報
発作時VEEGが取れない場合でも、間欠期(非発作時)VEEG+臨床所見+MRI所見が一致していれば、発作消失率が発作時VEEG群と同等(約64%)になり得る(2025)

