リンパ脈管筋腫症(LAM)

遺伝子 ニューロン ゲノム 神経 指定難病 甲状腺ホルモン不応症 リンパ脈管筋腫症 先天性ミオパチー ブラウ症候群 指定難病

目次

<リンパ脈管筋腫症>はどんな病気?

🔹 定義

  • <リンパ脈管筋腫症>(LAM)は、肺を中心に異常な平滑筋様細胞が増殖するまれな病気
  • 特に 女性(主に妊娠可能年齢)に多い
  • 肺に嚢胞(穴)が多数でき、**呼吸困難や気胸(肺が破れて空気が漏れる)**を繰り返す。
  • またリンパ管や腎臓(腎血管筋脂肪腫, AML)に病変ができることもある。

🔹 原因・病態

  • LAM細胞と呼ばれる異常な平滑筋様細胞が肺やリンパ管に広がり、嚢胞を形成する。
  • 遺伝子レベルでは TSC1/TSC2遺伝子変異 → mTOR経路の異常活性化 が関与。
  • そのため 結節性硬化症(Tuberous Sclerosis Complex, TSC) に合併することがある(TSC-LAM)。一方、単独で発症する孤発例(sporadic LAM)もある。

🔹 主な症状

  • 労作時の呼吸困難
  • 繰り返す気胸
  • 慢性の咳や喘鳴
  • 乳び胸(リンパ液が胸にたまる)
  • 腹部腫瘤(腎血管筋脂肪腫など)

🔹 疫学

  • 非常にまれな病気
  • 世界的にみても人口100万人あたり 3〜8人程度。
  • 圧倒的に女性に多く、発症年齢は 20〜40歳代 が中心。

🔹 経過

  • ゆっくり進行するが、肺の嚢胞が増えることで徐々に呼吸機能が低下。
  • 進行すると日常生活での息切れが強くなり、酸素療法が必要になる。
  • 肺移植が必要になるケースもある。

✅ まとめ

<リンパ脈管筋腫症>は:

  • 若い女性に多いまれな疾患
  • 肺に嚢胞が多数でき、呼吸困難・気胸・乳び胸を起こす
  • 原因は TSC遺伝子異常とmTOR経路の活性化
  • 進行性だが、治療により進行を抑えることができる

<リンパ脈管筋腫症>の人はどれくらい?

🔹 世界での頻度

  • LAM は 非常にまれな病気(希少疾患)
  • 世界的な推定有病率は 人口100万人あたり約3〜8人
  • 男女比 → 圧倒的に女性に多く、発症はほとんどが 妊娠可能年齢の女性(20〜40代)

🔹 日本での患者数

  • 日本では 指定難病(No.93) に登録されています。
  • 厚生労働省の難病情報センターの報告によると、
    登録患者数は 約400〜500人程度(実際には診断されていない例を含めればもう少し多いと推定)。
  • 日本呼吸器学会の推定では、人口100万人あたり2〜5人程度とされています。

🔹 結節性硬化症との関連

  • LAM には2つのタイプがあります:
    1. 孤発性LAM(sporadic LAM):全体の約80〜90%
    2. 結節性硬化症(TSC)に合併するLAM(TSC-LAM):10〜20%
  • TSC患者の約3〜4割に LAM が合併するとされます。

🔹 まとめ

  • 世界全体での有病率は 100万人あたり3〜8人
  • 日本では 数百人規模(約400〜500人の登録患者) が確認されている。
  • 女性(特に20〜40代)が圧倒的多数を占める。
  • 孤発性が大半だが、結節性硬化症に合併する例もある。

<リンパ脈管筋腫症>の原因は?

🔹 基本的な考え方

  • LAMは 遺伝子レベルの異常により平滑筋様細胞(LAM細胞)が異常に増殖し、肺やリンパ管に嚢胞や閉塞をつくる病気
  • 主な背景は TSC遺伝子(TSC1, TSC2)の変異 → mTORシグナル経路の異常活性化
  • その結果、細胞が過剰に増殖し、嚢胞形成やリンパ流障害を引き起こします。

🔹 詳細な原因・病態

1. 遺伝子変異(TSC1/TSC2)

  • TSC1(ハマルチン)、TSC2(チューベリン)は細胞増殖を抑制する働きを持つ。
  • これらに変異が起きると mTOR経路が暴走し、細胞増殖が止まらなくなる
  • この変異は
    • 結節性硬化症(Tuberous Sclerosis Complex, TSC)に合併する場合(TSC-LAM)
    • 孤発性に起きる場合(sporadic LAM)
      の2パターンがある。

2. 性ホルモン(エストロゲン)の影響

  • LAMは ほぼ女性だけ に発症することから、**エストロゲン(女性ホルモン)**が病態進展に関与すると考えられている。
  • 妊娠やエストロゲン投与で悪化するケースがある。

3. その他の要因

  • 免疫や炎症因子、リンパ管内皮との相互作用も進行に関与しているとされる。

🔹 まとめ

<リンパ脈管筋腫症>の原因は:

  1. TSC1/TSC2遺伝子変異による mTOR経路の異常活性化(最も本質的)
  2. エストロゲンの影響により、女性に多く発症・進行しやすい
  3. 炎症・免疫・リンパ管の関与も病態を修飾する

<リンパ脈管筋腫症>は遺伝する?

🔹 基本的な結論

  • 孤発性LAM(sporadic LAM)遺伝しません
    • 患者さん本人だけに偶発的に TSC1/TSC2遺伝子の変異 が生じて発症します。
    • 家族に同じ病気が出ることは基本的にありません。
  • 結節性硬化症(Tuberous Sclerosis Complex, TSC)に合併するLAM(TSC-LAM) は、
    • TSCが 常染色体優性遺伝するため、LAMも間接的に遺伝する可能性があります。
    • ただし「LAMそのもの」が必ず遺伝するわけではなく、TSCを持つ女性の一部がLAMを発症します。

🔹 ポイント整理

  1. 孤発性LAM(sporadic LAM)
    • 全体の 80〜90%を占める
    • 遺伝性なし(家族内発症はほぼない)
  2. TSC-LAM
    • 全体の 10〜20%
    • TSCは遺伝する疾患なので、結果的に家族性にLAMが出現することもある
  3. 性ホルモン依存性
    • 発症や進行は 女性ホルモン(エストロゲン) の影響を強く受けるため、女性に圧倒的に多い
    • これは遺伝ではなく、性差に基づく特徴

✅ まとめ

  • LAMの大多数(孤発性)は 遺伝しない
  • ただし、結節性硬化症に合併するLAM の場合は、基礎疾患であるTSCが遺伝性疾患であるため、家族性にみられることがある。

<リンパ脈管筋腫症>の経過は?

🔹 病気の進行の特徴

  • LAMは ゆっくり進行する慢性疾患
  • 肺に嚢胞が増えていき、時間をかけて 呼吸機能が低下 していく。
  • ただし進行スピードは人によって大きく異なる(数年で進む人もいれば、何十年も軽度の人もいる)。

🔹 主な経過の段階

1. 初期

  • 労作時の息切れや慢性的な咳。
  • 繰り返す気胸(肺が破れる)。
  • 腹水や胸水(特に乳び胸=リンパ液が胸にたまる)を起こすこともある。
  • この時点では日常生活はある程度可能。

2. 進行期

  • 肺嚢胞の増加により、肺活量や酸素交換能が低下
  • 安静時でも息切れが出たり、酸素吸入が必要になる人もいる。
  • 腎血管筋脂肪腫(AML)が大きくなり、出血を起こすこともある。

3. 末期

  • 慢性的な呼吸不全に進行。
  • 在宅酸素療法が必要。
  • 重症例では 肺移植 が検討される。

🔹 合併症

  • 気胸の再発:多くの患者が経験(50%以上)。
  • 乳び胸・乳び腹水:リンパ管の閉塞による。
  • 腎血管筋脂肪腫(AML):出血リスクあり。
  • 肺高血圧症 を合併する例もある。

🔹 生命予後

  • かつては「診断から10年で多くが重症化」とされていたが、
  • 現在は mTOR阻害薬(シロリムスなど) の登場により、進行を大幅に遅らせられるようになった。
  • 治療介入により、10年以上安定して生活できるケースも増えている。

✅ まとめ

<リンパ脈管筋腫症>の経過は:

  • ゆっくり進行するが、個人差が大きい
  • 気胸・乳び胸・腎腫瘍などの合併症を繰り返しやすい
  • 進行すると呼吸不全に至り、酸素療法や肺移植が必要になる
  • mTOR阻害薬の導入で進行を抑え、予後は改善傾向にある

<リンパ脈管筋腫症>の治療法は?

🔹 治療の基本方針

  • LAMは根治が難しい病気ですが、進行を抑える治療・合併症への対処 が中心。
  • 近年は 分子標的薬(mTOR阻害薬) が導入されて、治療成績が大きく改善しています。

🔹 主な治療法

1. 薬物療法

🧪 mTOR阻害薬(シロリムス / ラパマイシン)

  • LAM細胞の増殖に関わる mTOR経路 を抑える薬。
  • 臨床試験(MILES試験など)で 肺機能低下を抑制・安定化 する効果が示されている。
  • 胸水(乳び胸)の改善にも有効。
  • 日本でも標準治療として用いられる。

🧪 他の薬

  • エベロリムス(mTOR阻害薬の一種)も研究対象。
  • ホルモン療法(抗エストロゲン、プロゲステロンなど)はかつて試されたが、現在は有効性が乏しいとされ、標準治療ではない。

2. 合併症への対処

  • 気胸:再発が多いため、胸膜癒着術や外科的処置が検討される。
  • 乳び胸・乳び腹水:食事制限(中鎖脂肪酸食)、胸膜癒着術、シロリムス投与が有効。
  • 腎血管筋脂肪腫(AML):出血リスクが高い場合、塞栓術や手術。

3. 呼吸管理

  • 呼吸機能が進行して酸素交換が低下した場合、在宅酸素療法(HOT) を導入。
  • 呼吸リハビリテーションも有効。

4. 外科的治療

  • 肺移植:末期の呼吸不全に進行した場合の選択肢。
  • 日本でも実施されており、移植後の生存率は良好。

🔹 治療の流れ(一般的ステップ)

  1. 診断確定後 → mTOR阻害薬(シロリムス)を開始
  2. 合併症(気胸・乳び胸など)に対処
  3. 呼吸機能低下が進めば酸素療法
  4. 末期例には肺移植

✅ まとめ

<リンパ脈管筋腫症>の治療は:

  • mTOR阻害薬(シロリムス)が第一選択で、肺機能低下を抑えられる
  • 合併症(気胸・乳び胸・腎腫瘍)は個別に治療
  • 呼吸不全に進めば酸素療法、最終的には肺移植
  • 近年は薬物治療により 進行がかなりコントロール可能 になってきている

<リンパ脈管筋腫症>の日常生活の注意点

🔹 基本方針

LAMは進行性の肺疾患であり、
👉 「呼吸機能を守る」「合併症(気胸・乳び胸・腎腫瘍)を防ぐ」「生活の質を維持する」ことが大切です。


🔹 具体的な注意点

1. 気胸(肺の破れ)予防

  • 繰り返し起こしやすいので 気圧変化・胸への強い負担を避ける
    • 飛行機搭乗や高地登山は医師と相談。
    • 激しい運動(スキューバダイビング、重量挙げなど胸に圧をかける動作)は控える。

2. 感染予防

  • 肺の感染症は進行を早めるので注意。
    • 定期的な ワクチン接種(インフルエンザ、肺炎球菌)
    • 手洗い・マスクなど基本的な感染対策。
    • 風邪や気管支炎の症状があれば早めに受診。

3. 呼吸機能の維持

  • 無理のない有酸素運動(ウォーキングなど) は呼吸リハビリに有効。
  • ただし過度な運動や息が切れるほどの負荷は避ける。
  • 十分な休養と睡眠で体力を維持。

4. 栄養と生活習慣

  • 禁煙は絶対必須(病気を悪化させる)。
  • アルコールは肝臓や腎臓への負担を考え控えめに。
  • バランスの取れた食事を心がけ、特に乳び胸があるときは 中鎖脂肪酸(MCT)食 など制限食を医師指導のもとで行う。

5. 女性特有の注意

  • エストロゲンが病態を悪化させるため、エストロゲン製剤(経口避妊薬やホルモン補充療法)は避けるのが基本。
  • 妊娠はリスクが高く、慎重に医師と相談。

6. 治療と定期管理

  • mTOR阻害薬(シロリムス)を服用している場合は、定期的な血液検査で副作用(感染、口内炎、高脂血症など)をチェック。
  • 定期的に 呼吸機能検査・CT を受けて進行度を評価。
  • 腎血管筋脂肪腫の経過観察も必要。

✅ まとめ

<リンパ脈管筋腫症>の日常生活では:

  • 飛行機・ダイビング・重労働など気胸リスクを避ける
  • 感染予防(ワクチン・手洗い・早期受診)
  • 禁煙・適度な運動・バランスのよい食事
  • ホルモン治療や妊娠は必ず専門医と相談
  • 定期検査と服薬管理を徹底

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