全身性アミロイドーシス

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目次

<全身性アミロイドーシス>はどんな病気?

<全身性アミロイドーシス>とは、「アミロイド」と呼ばれる異常なタンパク質が全身の臓器や組織に沈着することで、臓器の機能障害を引き起こす病気です。まれな疾患ですが、進行すると命に関わることもあるため、早期発見・早期治療が重要です。


◆ アミロイドとは?

本来は可溶性であるはずのタンパク質が、構造異常を起こして不溶性の線維状構造(アミロイド)に変化し、組織にたまるものです。


◆ 種類

全身性アミロイドーシスには主に以下のタイプがあります:

種類原因・特徴
AL型(免疫グロブリン軽鎖型)多発性骨髄腫などの血液疾患に関連し、最も多いタイプ。
AA型(続発性アミロイドーシス)慢性炎症性疾患(関節リウマチなど)に伴って起こる。
ATTR型(トランスサイレチン型)肝臓で作られるトランスサイレチンというタンパク質が原因。遺伝性のものと高齢に伴うもの(野生型)がある。

◆ 主な症状

沈着する臓器によって異なります:

  • 心臓:心不全、不整脈、息切れ
  • 腎臓:タンパク尿、腎機能低下、むくみ
  • 神経:しびれ、手足の脱力、立ちくらみ(自律神経障害)
  • 消化器:便秘・下痢、体重減少
  • 舌や皮膚:舌の肥大、紫斑(内出血のようなあざ)

◆ 診断方法

  • 血液検査、尿検査(タンパク質の検出)
  • 生検(組織を採ってアミロイドの沈着を確認)
  • 心エコー、MRI、骨髄検査など

◆ 治療法

  • 原因疾患の治療(例:AL型なら化学療法で骨髄腫を治療)
  • アミロイド沈着の抑制(ATTR型ではトランスサイレチン安定化薬など)
  • 臓器機能のサポート(心不全や腎不全の対症療法)

◆ まとめ

  • アミロイドが体中の臓器にたまって機能障害を引き起こす。
  • 原因やタイプに応じて治療法が異なる。
  • 進行性だが、早期治療で生活の質を保てる可能性あり

<全身性アミロイドーシス>の人はどれくらい?

<全身性アミロイドーシス>の人はどれくらい?

<全身性アミロイドーシス>は非常にまれな病気で、日本でも年間に新たに診断される人は数百人〜1,000人程度と推定されています。ただし、年齢や背景疾患によって発症リスクが異なります。


◆ 日本での推定患者数

  • ALアミロイドーシス(免疫グロブリン軽鎖型)
    → 日本での年間新規発症数は約400〜600人程度と考えられています。
  • ATTRアミロイドーシス(トランスサイレチン型)
    → 遺伝性(家族性)は日本では特定の地域(長崎県五島列島など)に集積があり、患者数は数百人程度。
    → 野生型(加齢に伴うもの)は高齢男性に多く、70歳以上の男性のうち数%にみられるとも言われ、近年「高齢心不全の原因」として注目されています。
  • AAアミロイドーシス(慢性炎症に続発)
    → 慢性関節リウマチや慢性炎症性腸疾患を背景に発症しますが、生物学的製剤の普及で発症頻度は減少傾向です。

◆ 世界的には?

全世界でも年間数千〜1万人程度の発症が推定されており、依然として「希少疾患(オーファン病)」に分類されています。


◆ 高齢化とともに増加傾向

特にATTRアミロイドーシスの野生型(加齢性心アミロイドーシス)は、今後高齢者の心不全や失神、不整脈の原因として増えてくると予測されており、「見逃されている潜在患者」も多いとされています。

<全身性アミロイドーシス>の原因は?

<全身性アミロイドーシス>の原因は、体内で異常なタンパク質(アミロイド)が作られ、それが分解されずに全身の臓器に沈着してしまうことです。ただし、「なぜそのタンパク質が異常になるか」はアミロイドーシスの型によって異なります


◆ 主なタイプ別の原因

タイプ原因背景となる病気・要因
AL型(免疫グロブリン軽鎖型)骨髄の異常な形質細胞が、免疫グロブリンの「軽鎖」というタンパク質を過剰につくり、それがアミロイド化する。・多発性骨髄腫
・形質細胞異常症(MGUSなど)
AA型(続発性)慢性的な炎症により肝臓が作るSAA(血清アミロイドA)というタンパク質が異常に増え、アミロイドになる。・関節リウマチ
・クローン病などの慢性炎症性疾患
ATTR型(トランスサイレチン型)肝臓で作られるトランスサイレチンというタンパク質が異常に折りたたまれ、沈着する。・【遺伝性】:トランスサイレチン遺伝子の変異
・【野生型】:加齢による自然変性(特に高齢男性)
β2ミクログロブリン型長期透析で体外に排出されにくくなったβ2ミクログロブリンがたまり、アミロイド化する。・長期の人工透析(15年以上)

◆ アミロイドが沈着しやすい臓器と理由

  • 血液をよく通す臓器(心臓、腎臓、肝臓、神経、消化管など)は特に沈着しやすいです。
  • 沈着したアミロイドは組織を圧迫・変性させて機能を障害します。

◆ まとめ

  • 原因は「異常タンパク質の産生」で、その背景には血液疾患、炎症性疾患、遺伝、加齢、透析などがあります。
  • タイプによって治療法も異なるため、正確な診断が非常に重要です。

<全身性アミロイドーシス>は遺伝する?

<全身性アミロイドーシス>は、タイプによっては遺伝することがありますが、多くの場合は遺伝しません。以下に、遺伝との関係をタイプ別に整理します。


◆ 遺伝するタイプ

✅【ATTR型アミロイドーシス(遺伝性)】
  • **遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシス(hATTR)**と呼ばれます。
  • トランスサイレチン(TTR)遺伝子の変異が原因。
  • 常染色体優性遺伝のため、片方の親からの遺伝で発症する可能性があります。
  • 発症年齢や症状は家系によって異なります。
    • 神経障害型(手足のしびれ・脱力)
    • 心筋障害型(心不全・不整脈)

日本では、特に長崎県五島列島・熊本県天草地方などに集積が見られます。


◆ 遺伝しないタイプ(ほとんどがこちら)

タイプ遺伝との関係
AL型(免疫グロブリン軽鎖型)✕ 遺伝しない(血液のがんや異常が原因)
AA型(続発性)✕ 遺伝しない(慢性炎症性疾患が原因)
ATTR型(野生型)✕ 遺伝しない(加齢に伴う自然な変性)
透析関連型(β2ミクログロブリン)✕ 遺伝しない(長期人工透析が原因)

◆ 遺伝性が疑われる場合は?

  • 遺伝子検査家族歴の確認が重要になります。
  • 発症前にリスクを知っておく「プレシンポマティック診断」も可能です(専門医による慎重なカウンセリングが必要です)。

◆ まとめ

  • 遺伝するのは「遺伝性ATTR型」のみ
  • 他のタイプは遺伝性ではなく、環境や基礎疾患によって発症します。
  • 心配な方は、アミロイドーシス専門医(大学病院など)で相談するのがおすすめです。

<全身性アミロイドーシス>の経過は?

<全身性アミロイドーシス>の経過は、アミロイドがどの臓器にどの程度沈着するかによって大きく異なります。進行性の病気であり、早期発見と治療開始が予後(病気の見通し)を大きく左右します


◆ 一般的な病気の経過(自然経過)

  1. 初期(無症状〜軽度)
    • 疲れやすさ、軽いむくみ、しびれなど非特異的な症状で見逃されやすい
    • アミロイドの沈着が進む前段階
  2. 中期(臓器障害の出現)
    • 心臓:息切れ、むくみ、不整脈(心アミロイドーシス)
    • 腎臓:タンパク尿、腎機能低下
    • 神経:手足のしびれ、立ちくらみ、便秘・下痢の交互出現
    • 消化管:体重減少、栄養吸収不良
  3. 後期(多臓器不全〜命に関わる状態)
    • 心不全、腎不全、重度の自律神経障害など
    • 対応が遅れると予後不良(死亡リスク高)

◆ タイプ別の進行と予後

タイプ進行速度特徴・予後
AL型速い(数か月〜数年)最も進行が速く、未治療なら予後不良(平均生存1〜2年)
治療で長期生存も可能。
AA型中程度原因疾患のコントロールが鍵。
炎症が抑えられれば進行が遅くなる。
ATTR(遺伝型)ややゆっくり発症年齢や変異型により差がある。治療で進行を抑えられる。
ATTR(野生型)非常にゆっくり高齢者に多く、進行は緩徐。心不全や不整脈の原因になるが、治療次第でQOL維持可。

◆ 治療を受けた場合の経過

  • アミロイドの沈着を減らす・止める治療が中心
  • 早期であれば臓器障害の進行を抑え、生活の質(QOL)を維持できる
  • 新しい薬(例:ATTR型のタファミジスなど)により長期生存が可能に

◆ 重要なポイント

  • 進行性疾患だが、早期発見+適切な治療で予後は大きく改善
  • 初期症状があいまいなため、疑わしい場合は専門医受診が重要
  • 定期的な臓器機能のモニタリングが必要

<全身性アミロイドーシス>の治療法は?

<全身性アミロイドーシス>の治療法は、病気のタイプ(原因となるアミロイドの種類)によって大きく異なります。共通の目標は、「アミロイドの産生を抑え、沈着を減らし、臓器障害を食い止めること」です。


◆ タイプ別の主な治療法

タイプ治療法の概要
AL型(免疫グロブリン軽鎖型)血液のがんに似た治療:
化学療法(ボルテゾミブ+ステロイドなど)
自家末梢血幹細胞移植(若年者・状態良好な人)
・多発性骨髄腫に準じた治療
AA型(続発性アミロイドーシス)原因となる慢性炎症の治療
・リウマチなら抗TNF薬・IL-6阻害薬など
・感染症の場合は適切な抗菌治療
ATTR型(トランスサイレチン型)沈着抑制薬が中心:
タファミジス(Vyndaqel):TTR安定化薬(心アミロイドーシスに保険適用)
・パチシラン、インオテシラン(RNA干渉薬:hATTRに使用)
・【進行例】では心臓移植や肝移植の選択もある
透析関連型(β2ミクログロブリン)・透析方法の改善(高透過性膜への変更)
・可能であれば腎移植が根本治療

◆ 補助療法(対症療法)

アミロイドが沈着した臓器の症状を緩和する治療も非常に重要です:

  • 心不全:利尿薬、β遮断薬(ただし注意が必要)
  • 腎不全:腎臓保護薬、透析
  • 神経障害:痛み止め、自律神経障害への薬
  • 消化器症状:整腸剤、下痢止め、栄養管理

◆ 治療の流れ

  1. 正確な診断(病型分類)
    → 生検や血液検査・遺伝子検査などでタイプを特定
  2. 病型に合わせた治療開始
  3. 臓器機能のモニタリング・副作用の管理
  4. 長期的フォローアップ(再発・進行チェック)

◆ 期待される新しい治療法(研究中)

  • アミロイドそのものを溶かす薬剤(抗アミロイド抗体など)
  • より効果的なRNA干渉療法
  • 遺伝子治療(hATTRに対して)

◆ まとめ

  • 治療は病型ごとに異なるため、専門医による正確な分類と対応が不可欠です。
  • 最近は新薬の登場により、「治らない病気」ではなく「治療で長く安定を目指せる病気」になってきています。

<全身性アミロイドーシス>の日常生活の注意点

<全身性アミロイドーシス>の患者さんが日常生活で気をつけるべき点は、アミロイドの沈着によって障害された臓器の負担を減らし、体調の変化に早く気づくことです。以下に、臓器別の注意点や全体的な生活の工夫をまとめます。


◆ 全体的な注意点(共通)

  1. 疲れすぎない生活リズム
    • 無理のないペースで活動を。
    • 疲労が蓄積しやすいので、昼寝や休憩をこまめに取る
  2. 感染症に注意
    • 特に免疫抑制薬(AL型などの化学療法)を使っている場合は、風邪やインフルエンザに注意
    • 手洗い・マスク・人混みを避けるなど基本対策を徹底。
  3. 体重・むくみのチェック
    • 心不全や腎不全の兆候として重要。
    • 毎日体重を測り、急な増減に注意。
  4. 定期通院と検査
    • 血液検査、心電図、腎機能、神経機能などのモニタリングが必要。

◆ 臓器別の生活の工夫

臓器具体的な注意点
💓 心臓(心アミロイドーシス)塩分・水分制限(医師の指示に従う)
・過労・ストレスを避ける
・体を冷やさない
💧 腎臓(腎アミロイドーシス)タンパク質制限や水分管理が必要な場合あり
・むくみや尿量を観察
🧠 神経(末梢・自律神経)・立ちくらみ対策:急に立ち上がらない、足を組まない
・食後のめまい対策に少量頻回食
🍽 消化器便秘や下痢への対策:整腸剤や食事の調整
・体重減少を防ぐため、高カロリー・高たんぱくの食事を工夫
👅 舌・皮膚・舌が腫れる人は食事の飲み込みに注意
・内出血しやすいため打撲・転倒に注意

◆ 精神的なサポートも大切

  • 長期の治療や不安が続く病気なので、うつ症状や孤立を防ぐ支援も重要。
  • 家族や支援団体とのつながり、患者会の利用もおすすめです。

◆ まとめ

分野工夫・対策
食事減塩・栄養バランス、誤嚥・むくみの対策
運動軽い散歩など体調に合わせて、無理は禁物
睡眠規則正しい生活と十分な休養
通院治療継続と定期的な臓器機能チェック

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