肺静脈閉塞症(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)

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目次

<肺静脈閉塞症(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)>はどんな病気?

🔹 定義

  • 肺静脈閉塞症(PVOD)
    • 肺の小静脈(肺静脈)が線維化・閉塞して、肺から心臓への血流が妨げられる病気。
    • 結果として肺動脈圧が上昇し、肺動脈性肺高血圧症(PAH)の特殊型 とされる。
  • 肺毛細血管腫症(PCH)
    • 肺の毛細血管が異常に増殖し、肺の血流障害や肺高血圧を引き起こす病気。
    • 臨床的にはPVODと非常に似ており、病理学的に区別されるが、同じスペクトラム疾患と考えられることもある。

🔹 主な症状

  • 労作時の息切れ、呼吸困難
  • 咳、疲労感
  • 低酸素血症(チアノーゼ)
  • 浮腫(右心不全による)
  • 時に喀血

🔹 特徴的な臨床像

  • 肺動脈性肺高血圧症(PAH)のように見えるが、治療反応性が異なる
  • 肺血管拡張薬(エンドセリン受容体拮抗薬、PDE5阻害薬など)を投与すると、
    👉 肺の毛細血管がうっ血して 肺水腫を起こしやすい のが大きな特徴。

🔹 原因・背景

  • 多くは原因不明(特発性)。
  • 一部は EIF2AK4遺伝子の変異 が原因と判明しており、遺伝性PVOD/PCH がある。
  • 抗がん剤、放射線、感染症、自己免疫疾患との関連が報告されることもある。

🔹 疫学

  • 非常にまれな疾患。
  • 肺動脈性肺高血圧症の中でも1〜10%程度とされる。
  • 発症年齢は若年〜中年が多い。

🔹 経過

  • 徐々に進行し、右心不全や呼吸不全に至る。
  • 進行は比較的早く、数年以内に重症化することが多い。
  • 有効な薬物療法は限られ、根本的治療は肺移植

✅ まとめ

  • 肺の静脈や毛細血管の異常で 肺高血圧を起こす希少疾患
  • 症状はPAHと似るが、血管拡張薬で肺水腫を起こす点が特徴
  • 一部は EIF2AK4遺伝子異常による遺伝性
  • 進行が早く、最終的には肺移植が唯一の根治療法

<肺静脈閉塞症(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)>の人はどれくらい?

🔹 世界での頻度

  • どちらも 極めてまれな病気
  • 肺動脈性肺高血圧症(PAH)の中の1〜10%程度を占めると報告されています。
  • 年間発症率は明確ではありませんが、
    → 欧米では 年間数百万人に1人程度 と推定されるほど稀。

🔹 日本での頻度

  • 日本でも 指定難病(No. 92) に含まれています。
  • 難病情報センターの報告では、登録されている患者数は 数十〜百数十人規模 にとどまる。
  • 実際の患者数は診断困難なため、未診断例を含めてもごく少数と考えられています。

🔹 年齢・性別の傾向

  • 発症は 若年〜中年(20〜40代) が多い。
  • 男女差は明確ではないが、若干女性に多いとされる報告もある。

🔹 遺伝性の割合

  • EIF2AK4遺伝子変異による遺伝性PVOD/PCH があり、特に若年発症例では遺伝性が強く疑われます。
  • 欧州の報告では、若年発症PVODの約半数にEIF2AK4変異が確認されています。

✅ まとめ

  • <PVOD/PCH>は 極めてまれ(希少疾患)
  • 全肺高血圧症の 1〜10%程度に過ぎない。
  • 日本では 数十〜百人規模 の患者数と推定。
  • 特に 若年発症例では遺伝性(EIF2AK4変異)が関与することがある。

<肺静脈閉塞症(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)>の原因は?

🔹 基本的な病態

  • PVOD:肺の小静脈が線維化して閉塞 → 肺から心臓への血流障害 → 肺高血圧
  • PCH:肺の毛細血管が異常に増殖 → 血流障害・肺水腫 → 肺高血圧
  • どちらも結果的に 肺動脈性肺高血圧症(PAH)の特殊型 として扱われます。

🔹 主な原因・背景因子

1. 遺伝的要因

  • EIF2AK4遺伝子変異
    • 遺伝性PVOD/PCHの確立した原因。
    • 常染色体劣性遺伝形式で発症。
    • 特に若年発症例では高頻度に確認される。
    • EIF2AK4はタンパク合成やストレス応答に関与しており、その異常が血管内皮の増殖・線維化につながると考えられている。

2. 薬剤・環境要因

  • 抗がん剤(アルキル化剤:ブスルファン、シクロホスファミドなど)
  • 放射線治療
  • 有機溶剤・毒物曝露
    → これらは肺血管内皮を障害し、線維化・増殖の引き金になるとされる。

3. 感染症や自己免疫

  • ウイルス感染(EBウイルスなど)が関与する可能性が報告されているが、確証は弱い。
  • 自己免疫疾患(膠原病など)に合併する例もある。

4. 特発性

  • 多くは明らかな誘因が見つからず、特発性PVOD/PCH とされる。
  • この場合も分子病態の背景にはEIF2AK4変異や血管内皮細胞の異常が疑われている。

🔹 まとめ

  1. 遺伝性(EIF2AK4遺伝子変異) → 若年発症例で重要
  2. 薬剤・放射線・毒物曝露 → 環境因子として関与
  3. 感染・自己免疫疾患 が一部関与
  4. 多くは 特発性 であり、依然として不明な点が多い

<肺静脈閉塞症(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)>は遺伝する?

🔹 基本的な結論

  • 多くのPVOD/PCHは散発例(特発性)であり、遺伝しない。
  • しかし、一部には 遺伝性のタイプが存在する

🔹 遺伝性PVOD/PCH

  • 原因遺伝子
    • EIF2AK4遺伝子の変異 が確認されている。
    • この遺伝子は細胞のタンパク合成制御やストレス応答に関与。
  • 遺伝形式
    • 常染色体劣性遺伝(両親からそれぞれ変異を受け継ぐと発症)。
  • 特徴
    • 若年発症例に多い。
    • 家族内で複数例が見られることがある。

🔹 散発例(非遺伝性)

  • 大半のPVOD/PCHは 散発例
  • 薬剤(抗がん剤、特にアルキル化剤)、放射線、環境曝露(有機溶剤など)が原因のこともある。
  • この場合、家族に遺伝することはない。

✅ まとめ

  • <PVOD/PCH>は基本的には 遺伝しない(散発例が大多数)
  • ただし EIF2AK4遺伝子変異による遺伝性PVOD/PCH が存在し、若年発症や家族発症では遺伝性が強く疑われる。

<肺静脈閉塞症(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)>の経過は?

🔹 病気の進行の特徴

  • どちらも 肺高血圧症(PAH)の特殊型 に分類され、
    肺の血管(小静脈・毛細血管)が障害されるため 肺血管抵抗が上昇 → 右心不全に進行 します。
  • 経過は 進行性で予後不良
  • 多くは診断から数年で進行し、治療が難しいのが特徴です。

🔹 経過の典型的な段階

1. 初期

  • 労作時の息切れ、疲れやすさ
  • 徐々に呼吸困難が目立つようになる
  • 肺高血圧症に似た臨床像を示す

2. 進行期

  • 安静時でも息苦しさ
  • 低酸素血症 → チアノーゼ
  • 胸水や喀血を伴うことがある
  • 肺血管拡張薬を使用すると肺水腫を起こすリスクが高い(PVOD/PCHの特徴的経過)

3. 末期

  • 右心不全(浮腫、腹水、肝腫大など)
  • 呼吸不全の進行により在宅酸素療法が必要
  • 最終的には 肺移植以外に根治療法はない

🔹 予後

  • 一般的に、未治療の自然経過では 数年以内に重症化・致死的 になる。
  • PAHと比べても進行が速い。
  • 肺移植を受けられた場合は、長期生存が期待できる。

✅ まとめ

<肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症>の経過は:

  • 進行性で予後不良
  • 初期はPAHと似た症状(息切れ)だが、治療薬で肺水腫を起こす特徴がある
  • 数年以内に呼吸不全・右心不全に進むことが多い
  • 肺移植が唯一の根本治療

<肺静脈閉塞症(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)>の治療法は?

🔹 治療の基本的な考え方

  • PVOD / PCH は 肺動脈性肺高血圧症(PAH)の特殊型
  • しかし、一般的な肺高血圧治療薬(血管拡張薬)を使うと
    👉 肺水腫(肺に水がたまる)を誘発するリスクが高い のが大きな特徴。
  • そのため、薬物治療は限定的であり、最終的には肺移植が唯一の根治療法 とされます。

🔹 薬物治療(慎重に使用)

  1. 抗凝固療法
    • 静脈閉塞に伴う血栓リスクを下げるために使われることがある。
  2. 利尿薬
    • 浮腫や右心不全の症状を和らげる。
  3. 酸素療法
    • 低酸素血症を改善し、生活の質を維持。
  4. 肺高血圧治療薬(エンドセリン受容体拮抗薬、PDE5阻害薬、プロスタサイクリン製剤など)
    • 原則的には慎重投与。
    • 一部の患者では低用量で症状改善が得られる報告があるが、肺水腫の危険があるため専門施設でのみ使用

🔹 外科的治療

  • 肺移植
    • 唯一の根治的治療。
    • 両側肺移植が基本。
    • 成功すれば長期生存が可能。
    • 移植までの待機期間をどう乗り切るかが重要。

🔹 治療の流れ(一般的ステップ)

  1. 診断確定
  2. 生活指導・酸素療法・利尿薬で支持療法
  3. 肺高血圧薬は原則禁忌だが、移植待機中に専門医が慎重に使用する場合あり
  4. 肺移植を検討・準備

🔹 新しい研究動向(補足)

  • EIF2AK4遺伝子異常が原因の一部を占めるため、将来的には遺伝子治療や分子標的治療の可能性が研究されています。
  • ただし2025年時点では実用化されておらず、臨床では移植が唯一の確立した根治療法です。

✅ まとめ

<肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症>の治療は:

  • 基本は 支持療法(酸素・利尿薬・抗凝固薬)
  • 一般的な肺高血圧薬は 肺水腫リスクが高く、原則禁忌
  • 最終的に肺移植が唯一の根治療法

<肺静脈閉塞症(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)>の日常生活の注意点

🔹 基本方針

この疾患は 肺高血圧症の特殊型 で、進行が早く薬物治療に限界があるため、
👉 「心肺への負担を減らす」「感染や悪化因子を避ける」「移植までの体調維持」が日常生活の柱になります。


🔹 具体的な注意点

1. 身体活動

  • 激しい運動や無理な労作は右心不全や低酸素を悪化させるため 軽度〜中等度の活動に制限
  • 階段や坂道など、急激に心肺に負担がかかる動作は避ける。
  • 可能なら定期的なリハビリ指導を受け、適度な運動量を維持する。

2. 酸素管理

  • 低酸素は進行を早めるため、酸素療法を処方された場合は必ず遵守
  • 睡眠中の無呼吸や低酸素に注意し、必要なら夜間酸素も使用。

3. 食生活・体調管理

  • 塩分は控えめに(浮腫・右心不全予防)。
  • 水分制限は医師指示に従う(利尿薬使用中や浮腫が強い場合)。
  • 栄養バランスを保ち、体重増減を毎日チェック。

4. 感染予防

  • 肺炎や呼吸器感染は急速に状態悪化を招くため 予防が重要
    • インフルエンザ・肺炎球菌ワクチンは必須。
    • 手洗い・マスク・人混み回避。
  • 発熱や咳があれば早めに受診。

5. 薬剤・合併症管理

  • 一般的な肺高血圧薬は原則禁忌(肺水腫リスク)。自己判断での服薬は禁止。
  • 抗凝固薬・利尿薬などは必ず医師の指示通りに服用。

6. 日常生活の工夫

  • 高地や飛行機など低酸素環境は避ける(急激な悪化を招く可能性あり)。
  • 妊娠は母体・胎児ともに高リスクのため、原則として推奨されない
  • 定期的に専門医の診察を受け、移植適応を早めに相談することが大切。

✅ まとめ

<PVOD/PCH>の日常生活の注意点は:

  • 激しい運動を避け、軽度な活動にとどめる
  • 酸素療法を守り、低酸素を防ぐ
  • 減塩・体重管理で右心不全を予防
  • 感染予防(ワクチン・衛生管理・早期受診)
  • 高地・飛行機・妊娠は危険
  • 定期通院と肺移植の準備を意識する

<肺静脈閉塞症(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)>の最新情報

肺移植後の再発を経験した症例報告(2025)

PVOD の遺伝的要因(特に EIF2AK4 変異)・環境曝露因子(薬剤、トリクロロエチレンなど)を整理(2025)

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