目次
<慢性血栓塞栓性肺高血圧症>はどんな病気?
- 🔹 定義
- 🔹 病態のメカニズム
- 🔹 主な症状
- 🔹 原因・背景因子
- 🔹 疫学(頻度)
- 🔹 経過・重症化
- ✅ まとめ
- 🔹 世界全体での発症頻度
- 🔹 日本での患者数(2025年時点推定)
- 🔹 患者の特徴
- 🔹 なぜ日本に多いのか?
- ✅ まとめ
- 🔹 基本の発症メカニズム
- 🔹 原因(リスク因子)
- 🔹 病態の進行メカニズム
- 🔹 注意点
- ✅ まとめ
- 🔹 結論:CTEPHは「遺伝病」ではない
- 🔹 遺伝が関与する可能性があるケース(=血栓性素因)
- 🔹 HLA関連の報告(日本での研究)
- 🔹 遺伝しない部分:発症に大きく影響する環境要因
- ✅ まとめ
- 🔹 病気の進み方(発症から進行まで)
- 🔹 治療による経過の違い
- 🔹 再発と長期経過
- 🔹 予後(生存率の目安)
- ✅ まとめ
- 🔹 基本方針
- 🔸 ① 外科手術:肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)
- 🔸 ② カテーテル治療:BPA(Balloon Pulmonary Angioplasty)
- 🔸 ③ 薬物療法(内科的治療)
- 🔸 ④ 抗凝固療法(再血栓予防)
- 🔸 ⑤ 補助療法
- 🔸 ⑥ 治療戦略の流れ(2025年標準)
- ✅ まとめ
- 🔹 基本の考え方
- 🔸 ① 身体活動と運動
- 🔸 ② 食事と水分管理
- 🔸 ③ 感染予防
- 🔸 ④ 服薬管理(特に抗凝固薬)
- 🔸 ⑤ 睡眠・ストレス管理
- 🔸 ⑥ 女性の注意点
- 🔸 ⑦ 通院・フォローアップ
- ✅ まとめ
🔹 定義
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH) は、
➡️ 肺の血管(肺動脈)にできた血栓が長期間残って線維化し、血流を妨げることで、肺高血圧を引き起こす病気 です。
- 通常、肺血栓塞栓症(いわゆる肺塞栓症)は血栓が溶けて治りますが、
一部の人では血栓が完全に溶けず、「器質化(固くなる)」して慢性的な閉塞・狭窄を起こします。 - その結果、**肺動脈の圧が上昇(肺高血圧)**し、右心室に負担がかかります。
🔹 病態のメカニズム
- 血栓残存部が線維化して肺動脈を物理的に閉塞
- その後、閉塞していない肺動脈にも二次的な血管病変(リモデリング)が起こる
- 結果として 肺血管抵抗が上昇 → 右心不全に進行
🔹 主な症状
- 労作時の息切れ・動悸
- 疲れやすさ
- 胸の圧迫感
- 浮腫(足のむくみ)や腹水(右心不全による)
- 咳や喀血を伴うこともある
🔹 原因・背景因子
- 以前に発症した 急性肺血栓塞栓症の後遺症 が多い
- ただし、実際には「自覚のない小さな血栓」が長年かけて進行する場合も多い
- 血栓を作りやすくする要因(血液凝固異常、手術・外傷・長期臥床、悪性腫瘍、カテーテル留置など)も関連
🔹 疫学(頻度)
- 肺血栓塞栓症を発症した人のうち、約1〜4% がCTEPHへ移行
- 日本では 指定難病(No. 96) に登録
- 推定患者数は 数千人規模(約3000〜5000人)
🔹 経過・重症化
- ゆっくり進行し、放置すると 右心不全 → 呼吸不全 → 死亡 に至る
- ただし近年は手術・カテーテル治療・薬物治療の進歩により、予後は大きく改善
✅ まとめ
<慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)>は:
- 肺の血栓が慢性化・線維化して、肺動脈を塞ぐ病気
- 肺高血圧症の一種で、右心不全を引き起こす
- 治療すれば改善が期待できる“治せる肺高血圧症” とも呼ばれる
- 外科手術(肺動脈血栓内膜摘除術:PEA)やカテーテル治療(BPA)が有効
<慢性血栓塞栓性肺高血圧症>の人はどれくらい?
🔹 世界全体での発症頻度
- 急性肺血栓塞栓症(PE)を発症した人のうち、約1〜4%がCTEPHへ移行。
- 一般人口での発症率は
→ 年間100万人あたり約3〜5人 とされています。 - 欧州では推定患者数は 約5,000〜10,000人。
- 男女比は やや女性に多い 傾向があります(約1.2〜1.5倍)。
🔹 日本での患者数(2025年時点推定)
日本はCTEPHの診断率・治療率が世界トップクラスで、報告データも多い国です。
- 厚生労働省の「指定難病」データ(No. 96)および日本循環器学会の登録研究(J-CTEPH Registry)によると:
- 登録患者数は 約3,000〜5,000人前後。
- 年間新規診断数は 200〜300人程度。
- 有病率はおおよそ 人口10万人あたり3〜4人。
🔹 患者の特徴
項目 | 傾向 |
---|---|
性別 | 女性がやや多い(約60%) |
平均発症年齢 | 約60歳前後(中高年が中心) |
既往歴 | 約50〜60%で急性肺塞栓症の既往あり |
血栓性素因 | 約20〜30%で何らかの凝固異常を持つ |
🔹 なぜ日本に多いのか?
- 欧米に比べ、診断技術の向上・BPA治療の普及により発見率が高い。
- 日本は BPA(バルーン肺動脈形成術) の臨床実績が世界最多で、軽症例の発見も進んでいるため、
患者数が「相対的に多く見える」傾向があります。
✅ まとめ
- 世界では人口100万人あたり約3〜5人、
- 日本では人口10万人あたり約3〜4人(推定3,000〜5,000人)。
- 中高年女性にやや多く、約半数は急性肺塞栓症の既往あり。
- 日本は世界の中でも診断・治療体制が最も整っている国の一つです。
<慢性血栓塞栓性肺高血圧症>の原因は?
🔹 基本の発症メカニズム
CTEPH(Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension)は、
肺の血管(肺動脈)にできた血栓が、溶けずに固まってしまい、長期間残ることで発症します。
流れとしては:
- 深部静脈血栓症(DVT)や急性肺血栓塞栓症(PE)が起きる
- 通常なら血栓は溶けて治るが、
- 一部の人では血栓が器質化(線維化)して、血管壁に癒着
- その結果、肺動脈の血流が慢性的に妨げられ、肺高血圧が進行します。
🔹 原因(リスク因子)
① 血栓ができやすくなる体質・病態
分類 | 具体例 |
---|---|
血液の凝固異常 | 抗リン脂質抗体症候群、プロテインC欠乏、プロテインS欠乏、アンチトロンビンⅢ欠乏など |
慢性炎症性疾患 | 潰瘍性大腸炎、クローン病、膠原病(SLEなど) |
がん | 特に消化器系・婦人科系の悪性腫瘍 |
脾摘後(脾臓を取った後) | 血小板数上昇による血栓リスク増加 |
② 血流のうっ滞・外的要因
状況 | 説明 |
---|---|
長期臥床・手術後 | 下肢静脈に血栓ができやすくなる |
妊娠・出産・経口避妊薬使用 | ホルモン変化により凝固能が上昇 |
中心静脈カテーテル留置・ペースメーカーリード | 血流の乱れによる局所血栓形成 |
慢性的な静脈疾患(下肢静脈瘤など) | 血流が滞り、血栓リスク上昇 |
③ 特殊な誘因
- 感染症(特に慢性の炎症性肺疾患)
- 甲状腺機能亢進症(血栓傾向が強まることがある)
- 造影剤・抗がん剤などの薬剤曝露
- 遺伝的素因(HLA-B52やHLA-DPB1の関連が報告)
🔹 病態の進行メカニズム
血栓が線維化して残るだけでなく、
非閉塞部位の肺動脈にも「二次的な血管リモデリング(硬化・狭窄)」が起こります。
その結果:
- 肺全体の血管抵抗が上昇
- 肺動脈圧が持続的に上がり
- 最終的に右心不全に至ります。
🔹 注意点
- 約半数の患者は「急性肺塞栓症の自覚がない」まま進行します。
- つまり、「知らないうちに小さな血栓が何度もできて残っていた」ケースが多いのです。
✅ まとめ
<慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)>の原因:
- 主因:肺動脈に残った血栓が線維化して血流を妨げること
- 誘因:血栓体質・慢性炎症・外科手術・カテーテル・がんなど
- 特徴:急性肺塞栓症の後遺症とは限らず、無症候性の血栓が原因のことも多い
<慢性血栓塞栓性肺高血圧症>は遺伝する?
🔹 結論:CTEPHは「遺伝病」ではない
- CTEPHは基本的に遺伝性の疾患ではありません。
- つまり、親から子へ直接遺伝する病気ではない とされています。
- ただし、「血栓ができやすい体質(血栓傾向)」を家族的に受け継ぐことがあるため、
“間接的な遺伝的素因” が関わることはあります。
🔹 遺伝が関与する可能性があるケース(=血栓性素因)
CTEPHの背景には、次のような**先天的な凝固異常(血栓を作りやすい体質)**が存在することがあります。
遺伝性異常 | 内容 | 特徴 |
---|---|---|
プロテインC欠乏症 | 血液凝固を抑える因子が不足 | 静脈血栓を繰り返す |
プロテインS欠乏症 | プロテインCの補助因子が不足 | 若年発症の血栓 |
アンチトロンビンⅢ欠乏症 | 血液凝固の抑制が効かない | 深部静脈血栓→肺塞栓へ |
第V因子ライデン変異(欧米型) | 凝固抑制が効かない変異 | 欧米では多いが、日本では稀 |
プロトロンビン遺伝子変異 | 凝固促進因子が過剰 | 血栓傾向 |
➡️ これらはいずれも「CTEPHそのもの」ではなく、CTEPHの“きっかけ”となる血栓ができやすくなる遺伝要因です。
🔹 HLA関連の報告(日本での研究)
- 日本の研究では、CTEPH患者にHLA-B52やHLA-DPB1*02:01が多いという報告があります。
- これらは自己免疫的反応や慢性炎症との関連を示唆するもので、
「遺伝的素因+環境因子」 が複合して発症に関わると考えられています。
🔹 遺伝しない部分:発症に大きく影響する環境要因
CTEPHは「生活歴」や「環境因子」による影響が大きい病気です。
- 手術や外傷・長期臥床などによる血流の停滞
- 妊娠・ホルモン治療
- がんや感染症
- カテーテルやペースメーカーの留置
など、後天的要因が主要な原因です。
✅ まとめ
項目 | 内容 |
---|---|
遺伝性 | ❌ 直接遺伝はしない |
間接的関与 | 血栓ができやすい遺伝体質(凝固異常)は関与しうる |
日本での傾向 | HLA関連遺伝子が背景素因の一部として報告 |
主な原因 | 血栓の器質化・環境因子・手術や炎症など |
📘 結論:
<慢性血栓塞栓性肺高血圧症>は「遺伝病」ではないが、
「血栓を作りやすい遺伝的体質」が関与することがある。
<慢性血栓塞栓性肺高血圧症>の経過は?
🔹 病気の進み方(発症から進行まで)
① 初期(無症状〜軽症期)
- 最初の段階では 血栓が部分的に肺動脈をふさいでいるだけ で、
まだ呼吸困難などの症状はほとんど出ません。 - しかしこの時点でもすでに肺の一部では血流が減少し、右心室に負担がかかり始めます。
- 多くの人は「少し動くと息が切れる」「階段で疲れる」など軽度の運動制限で気づきます。
② 進行期(慢性期)
- 器質化した血栓が 広範囲の肺動脈を塞ぐ ようになり、肺動脈圧が上昇します。
- 血流が減った部分を補うために、残った血管に過剰な圧がかかり、
二次的な血管病変(リモデリング) が起こります。 - 結果として、全身に以下のような症状が現れます:
- 労作時呼吸困難(息切れ)
- 易疲労感
- 胸部圧迫感
- めまい・失神(低酸素)
- 下肢のむくみ、腹水(右心不全の兆候)
③ 末期(右心不全期)
- 肺血管抵抗がさらに上昇し、右心室が拡張して機能低下します。
- 酸素濃度が下がり、安静時でも息苦しくなる。
- 血液のうっ滞により、浮腫・肝腫大・体重増加が起こる。
- 放置すると 右心不全 → 不整脈 → 心停止 に至ることがあります。
🔹 治療による経過の違い
治療内容 | 経過・予後の変化 |
---|---|
外科手術(PEA) | 肺動脈の血栓を除去できれば、肺動脈圧が劇的に改善。 術後5年生存率は 約90%。 |
カテーテル治療(BPA) | 手術不能例にも有効。段階的に血管を広げて肺血流を改善。 日本ではBPAにより 予後が大幅に改善。 |
薬物療法(リオシグアトなど) | 手術・BPAの補助療法として使用。 肺血管抵抗を下げて症状を緩和。 |
無治療・診断遅延 | 右心不全が進行し、5年生存率は約30%以下。 進行性で自然寛解はほぼない。 |
🔹 再発と長期経過
- 手術後も一部の患者では、再閉塞や微小血管病変により肺高血圧が再燃することがあります。
- 定期的な心エコー・右心カテーテル・CTなどのフォローが必須。
- 治療後の生活管理(再血栓予防、抗凝固療法継続)が重要。
🔹 予後(生存率の目安)
状況 | 5年生存率 |
---|---|
手術可能例(PEA後) | 約90%前後 |
BPA治療例 | 約85〜90% |
薬物療法のみ | 約60%前後 |
無治療 | 約30%以下 |
👉 適切な治療を受ければ、「治せる肺高血圧症」 と呼ばれるほど、予後は劇的に改善します。
✅ まとめ
<慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)>の経過:
- 初期は無症状 → 徐々に労作時息切れ → 右心不全へ進行
- 放置すると致死的だが、早期発見と適切な治療でほぼ寛解可能
- 外科手術(PEA)・BPA・抗凝固療法の進歩により、
近年は5年生存率が90%近くにまで向上
<慢性血栓塞栓性肺高血圧症>の治療法は?
🔹 基本方針
CTEPHは「治せる肺高血圧症(curable pulmonary hypertension)」とも呼ばれ、
適切な治療を行えば完治または長期生存が十分可能です。
治療の柱は以下の3本です:
① 外科的治療(肺動脈血栓内膜摘除術:PEA)
② カテーテル治療(BPA:バルーン肺動脈形成術)
③ 薬物療法(リオシグアトなど)+抗凝固療法
🔸 ① 外科手術:肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)
概要
- CTEPH治療の 第一選択で唯一の根治的治療。
- 肺動脈内に固着した線維化血栓を外科的に取り除く手術。
特徴
項目 | 内容 |
---|---|
対象 | 肺動脈の「中枢側(太い部分)」に血栓がある患者 |
方法 | 人工心肺+低体温循環停止下で血栓を除去 |
効果 | 肺動脈圧・右心負荷が大幅に改善、症状が消失 |
成功率 | 手術死亡率 3〜5%以下(経験施設) |
長期予後 | 5年生存率 約90%、10年生存率 約80% |
🩺 日本・欧米ともに経験豊富な専門施設で行うことが必須。
🔸 ② カテーテル治療:BPA(Balloon Pulmonary Angioplasty)
概要
- 手術が難しい「末梢型CTEPH(細い血管に病変がある)」のための低侵襲治療。
- カテーテルを肺動脈内に入れ、バルーンで血管を少しずつ広げて再開通させる方法。
特徴
項目 | 内容 |
---|---|
適応 | 手術不能例・高齢者・再発例など |
手技 | 通常1回で一部のみ処置 → 数回に分けて実施 |
効果 | 肺動脈圧が平均で20〜30mmHg低下、息切れ改善 |
合併症 | 肺出血・肺水腫(慎重操作で回避可能) |
成績 | 日本の多施設データでは5年生存率 約90% |
🌏 日本は世界的にBPAの臨床実績が最も多く、世界標準をリードする国です。
🔸 ③ 薬物療法(内科的治療)
手術やBPAができない場合、または補助療法として以下の薬剤が使われます。
薬剤分類 | 代表薬 | 作用・特徴 |
---|---|---|
可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬 | リオシグアト(アデムパス®) | 肺血管拡張+リモデリング抑制。唯一CTEPH適応薬。 |
PDE5阻害薬 | シルデナフィルなど | 肺血管拡張。PAHと併用例あり。 |
エンドセリン受容体拮抗薬 | マシテンタンなど | 血管収縮抑制。 |
プロスタサイクリン誘導体 | ベラプロストなど | 微小循環改善。経口・吸入あり。 |
💊 ただし薬物療法のみでの完治は難しく、
PEA・BPAとの併用や橋渡し治療として行われます。
🔸 ④ 抗凝固療法(再血栓予防)
- 全患者に必須(生涯継続が原則)。
- ワルファリン or DOAC(エドキサバンなど)を使用。
- INR目標:2.0〜3.0程度。
- 再発・再閉塞を防ぐため、途絶しない管理が重要。
🔸 ⑤ 補助療法
治療 | 内容 |
---|---|
酸素療法 | 低酸素血症の改善、右心負荷軽減 |
利尿薬 | 浮腫や右心不全の緩和 |
生活指導 | 減塩・安静・感染予防・禁煙・過労回避 |
🔸 ⑥ 治療戦略の流れ(2025年標準)
- 診断確定(CT・V/Qシンチ・右心カテーテル)
- 外科適応評価(PEAが可能なら最優先)
- PEA不能ならBPAを検討
- 薬物療法+抗凝固で補助管理
- 定期フォローアップ・再発予防
✅ まとめ
治療法 | 概要 | 成功率・効果 |
---|---|---|
肺動脈血栓内膜摘除術(PEA) | 根治的外科治療 | 5年生存率 約90% |
バルーン肺動脈形成術(BPA) | 手術不能例に有効 | 5年生存率 約85〜90% |
薬物療法(リオシグアト等) | 補助・維持療法 | 血管抵抗↓、症状改善 |
抗凝固療法 | 全例に必要 | 再発防止 |
💡 PEA+BPA+薬物療法の組み合わせにより、
2025年現在、CTEPHの予後は劇的に改善しています。
<慢性血栓塞栓性肺高血圧症>の日常生活の注意点
🔹 基本の考え方
CTEPHは「血栓が再びできないようにする」「肺と心臓に負担をかけない」「低酸素を防ぐ」の3点が生活管理の軸になります。
治療後でも再発や右心不全を防ぐために、毎日の体調・生活リズムが非常に重要です。
🔸 ① 身体活動と運動
ポイント | 内容 |
---|---|
過度な運動は避ける | 激しい運動・重量物の持ち上げは右心負荷を増やすためNG。 |
軽い有酸素運動は◎ | 医師が許可すれば、ウォーキング・ストレッチ・軽いヨガなどが推奨。 |
体調変化に敏感になる | 少しの息切れ・めまい・むくみを感じたらすぐ休む。 |
高地・飛行機注意 | 低酸素環境で症状が悪化する可能性あり。必要時は酸素ボンベの指示を受ける。 |
💡 「無理せず続けられる運動」がベストです。
🔸 ② 食事と水分管理
項目 | 内容 |
---|---|
塩分制限 | 浮腫・右心不全を防ぐため1日6g以下が目安。 |
水分管理 | 医師の指示に従う(利尿薬使用中は飲みすぎ注意)。 |
ビタミンK含有食(納豆・青汁など) | ワルファリン服用中は摂取制限が必要。DOAC服用中は影響少。 |
アルコール | 心拍・血圧に影響するため、控えめ〜禁酒推奨。 |
体重測定 | 毎日同じ時間に計測し、急激な体重増加=浮腫悪化を早期発見。 |
🔸 ③ 感染予防
内容 | 理由 |
---|---|
風邪・肺炎を防ぐ | 感染で肺血管炎症や血栓リスクが上昇。 |
ワクチン接種 | インフルエンザ・肺炎球菌・新型コロナワクチンは推奨。 |
手洗い・うがい・マスク | 感染源を避ける基本対策。 |
特に呼吸器感染症はCTEPHの増悪因子となるため、季節ごとに注意が必要です。
🔸 ④ 服薬管理(特に抗凝固薬)
注意点 | 内容 |
---|---|
抗凝固薬は中断しない | ワルファリン・DOACなどは「再血栓予防の生命線」。自己判断中止は厳禁。 |
他の薬との飲み合わせ | サプリ・抗生物質などで作用が変わる場合あり。服用前に必ず医師へ確認。 |
定期採血・INRチェック | ワルファリン使用中は必須。 |
出血時の対応 | 鼻血・血尿・便潜血などが続く場合はすぐ受診。 |
🔸 ⑤ 睡眠・ストレス管理
- 睡眠不足・過労・強いストレスは血圧・心拍変動を引き起こし、右心への負担を増やします。
- 睡眠時無呼吸の疑いがある場合は検査・CPAPなども検討。
- 深呼吸・瞑想などでストレスを和らげましょう。
🔸 ⑥ 女性の注意点
- 妊娠は原則禁忌:妊娠中は血栓が増え、心肺への負担が大きくなるため。
- 避妊方法:ホルモン系ピルは血栓リスクを高めるため、避妊具やIUDが推奨されます。
🔸 ⑦ 通院・フォローアップ
- 定期的な心エコー・CT・右心カテーテル検査で経過観察。
- 治療後も再発や血栓形成が起こることがあるため、半年〜1年ごとに専門医でチェック。
✅ まとめ
カテゴリ | 生活上のポイント |
---|---|
運動 | 無理のない軽運動。高地・飛行機は注意。 |
食事 | 減塩・適水分・ワルファリン管理。 |
感染 | ワクチン・衛生習慣を徹底。 |
薬 | 抗凝固薬を切らさない。副作用を観察。 |
睡眠・ストレス | 睡眠確保・精神的安定を保つ。 |
女性 | 妊娠は原則避ける。 |
フォロー | 定期通院・血液・心エコー検査を継続。 |
💡 日常生活は「血栓を作らない・心肺に優しい生活」が基本です。
過度な制限よりも「安定した生活リズムを保つ」ことが長期予後を良くします。