目次
<下垂体性TSH分泌亢進症>はどんな病気?
- 🔹 定義
- 🔹 主な原因
- 🔹 症状(甲状腺機能亢進に伴うもの)
- 🔹 検査の特徴
- 1️⃣ TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)
- 2️⃣ 甲状腺ホルモン不応症(RTH, Resistance to thyroid hormone)
- 1️⃣ TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)
- 2️⃣ 甲状腺ホルモン不応症(Resistance to Thyroid Hormone, RTH)
- 3️⃣ 鑑別上考慮されるその他の要因
- 1️⃣ TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)
- 2️⃣ 甲状腺ホルモン不応症(RTH)
- 初期
- 進行
- 長期経過・予後
- 初期〜小児期
- 進行
- 長期経過・予後
- 🎯 第一選択
- 💊 薬物療法(手術が困難・効果不十分な場合)
- ☢ 放射線療法
- 🔎 基本方針
- 💊 薬物療法
- 👪 遺伝カウンセリング
- 💧 体調管理
- 🍴 食生活
- 🏃♂️ 運動
- 🏥 通院・治療
- 💧 体調管理
- 🍴 食生活
- 👪 家族への配慮
🔹 定義
- 下垂体から分泌される 甲状腺刺激ホルモン(TSH) が異常に増えている状態を指します。
- 本来、TSHは甲状腺を刺激して 甲状腺ホルモン(T3・T4) の分泌をコントロールしています。
- 通常は「甲状腺ホルモンが多い → TSHが下がる」「少ない → TSHが上がる」という負のフィードバックで調整されています。
- ところが下垂体に異常があると、この制御が効かずに TSHが過剰に分泌され、甲状腺機能亢進症(バセドウ病に似た症状) を引き起こします。
🔹 主な原因
- TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)
- 下垂体腺腫の1〜2%と非常にまれ。
- 腫瘍がTSHを自律的に分泌してしまう。
- 甲状腺ホルモン不応症(Resistance to thyroid hormone, RTH)
- 甲状腺ホルモンの作用が全身で効きにくくなる遺伝性疾患。
- 下垂体は「甲状腺ホルモンが足りない」と誤認し、TSHを分泌し続ける。
- これらの鑑別は専門的なホルモン検査や画像検査で行われる。
🔹 症状(甲状腺機能亢進に伴うもの)
- 動悸・息切れ
- 発汗過多、暑がり
- 体重減少(食欲はあるのに痩せる)
- 手の震え、落ち着きがない
- 月経異常
- 甲状腺腫大(首が腫れて見える)
- 腫瘍が大きい場合 → 頭痛、視野障害(下垂体腫瘍による圧迫症状)
🔹 検査の特徴
- 血液検査で TSHが「正常〜高値」なのに、T3・T4も高い(通常の甲状腺中毒症と違う)。
- MRIで下垂体腫瘍を確認することがある。
- TRH負荷試験やαサブユニット測定などで原因をさらに精査。
<下垂体性TSH分泌亢進症>の人はどれくらい?
🔹 頻度・有病率
1️⃣ TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)
- 下垂体腺腫全体のうち 約1〜2% と非常にまれ。
- 欧米や日本の報告を合わせても、100万人あたり数人程度の発症とされる。
- 発症年齢は 30〜50歳代が中心。
- 男女差は明確ではないが、やや女性に多いとする報告もある。
2️⃣ 甲状腺ホルモン不応症(RTH, Resistance to thyroid hormone)
- 遺伝性疾患で、人口 3〜4万人に1人程度 と推定される。
- 家族内に複数人の患者が出ることもある。
- 多くは小児期から異常が見つかるが、軽症例は成人で偶然発見されることもある。
🔹 日本での規模感(推定)
- TSHoma:数百人程度の診断例にとどまる。
- RTH:数千人規模の患者が存在する可能性。
<下垂体性TSH分泌亢進症>の原因は?
1️⃣ TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)
- 最も代表的な原因。
- 下垂体前葉にできる腫瘍が 自律的にTSHを分泌 してしまう。
- 結果として、甲状腺が刺激され続け、甲状腺ホルモン(T3・T4)が過剰になる。
- 腫瘍の大きさによっては、頭痛や視野障害などの「圧迫症状」も伴う。
2️⃣ 甲状腺ホルモン不応症(Resistance to Thyroid Hormone, RTH)
- 遺伝性の病気で、甲状腺ホルモン受容体(特にTRβ遺伝子)の異常によって、全身の細胞が甲状腺ホルモンに反応しにくくなる。
- 下垂体も「甲状腺ホルモンが足りない」と誤認 → TSHを分泌し続ける。
- 血液検査では「TSH正常〜高値+T3・T4高値」となり、TSHomaと似ている。
3️⃣ 鑑別上考慮されるその他の要因
- 甲状腺ホルモン測定のアーチファクト(検査干渉)
- まれに自己抗体や薬剤によって誤った高値を示すことがある。
- 下垂体の他の腫瘍や異常
- 混合型腺腫(GH+TSHなど)でTSH過剰を呈することがある。
<下垂体性TSH分泌亢進症>は遺伝する?
🔹 基本的な考え方
- <下垂体性TSH分泌亢進症>は、大きく 2つの病態 に分けられます。
- TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)
- 甲状腺ホルモン不応症(RTH, Resistance to Thyroid Hormone)
それぞれで「遺伝性かどうか」が異なります。
1️⃣ TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)
- 下垂体にできる 腫瘍(良性腺腫) がTSHを過剰に出すもの。
- 基本的には 遺伝しません。
- 外傷や生活習慣とは関係なく、散発的に発生する腫瘍性疾患。
- ただし、ごく一部の家族性下垂体腫瘍症候群(MEN1、AIP遺伝子変異など)では合併例の報告あり。
2️⃣ 甲状腺ホルモン不応症(RTH)
- 遺伝性疾患です。
- 多くは 甲状腺ホルモン受容体β(THRB遺伝子) の変異によって起こる。
- 常染色体優性遺伝が多く、家族内で複数人が発症することがある。
- RTHでは、末梢組織で甲状腺ホルモンが効きにくいため、下垂体が「もっと刺激しなければ」とTSHを分泌し続ける。
<下垂体性TSH分泌亢進症>の経過は?
🔹 1. TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)の経過
初期
- 腺腫が小さい(微小腺腫)の時期は、動悸や発汗などの甲状腺機能亢進症状が主体。
- 首の腫れ(甲状腺腫大)が出ることもある。
進行
- 腺腫が大きくなると、**頭痛や視野障害(特に両耳側半盲)**などの下垂体腫瘍による圧迫症状が加わる。
- 甲状腺ホルモン高値が続くことで、心房細動や骨粗鬆症などの合併症が進行。
長期経過・予後
- 放置すれば 腫瘍増大+甲状腺機能亢進症による全身合併症 が悪化。
- 適切に手術や薬物で治療すれば、長期予後は良好。
🔹 2. 甲状腺ホルモン不応症(RTH)の経過
初期〜小児期
- 発見契機は学校健診や不妊検査などの血液検査で「TSH正常〜高値+T3/T4高値」が見つかることが多い。
- 症状は多様で、無症状〜甲状腺中毒症様〜甲状腺機能低下症様まで幅広い。
進行
- 多くの患者は軽症で、日常生活に大きな支障をきたさないことも多い。
- ただし、一部で動悸、不整脈、発達・学習の遅れなどが問題になることがある。
長期経過・予後
- 遺伝性で一生続くが、多くは良好な予後。
- 症状が強い場合には薬物療法(β遮断薬など)でコントロール可能。
<下垂体性TSH分泌亢進症>の治療法は?
(代表的な ①TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)と ②甲状腺ホルモン不応症(RTH)に分けて説明します。)
🔹 1. TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)の治療
🎯 第一選択
- 経蝶形骨洞手術(TSS)
- 鼻の奥からアプローチして腫瘍を摘出する手術。
- 下垂体腺腫の標準治療で、根治が期待できる。
💊 薬物療法(手術が困難・効果不十分な場合)
- ソマトスタチンアナログ(オクトレオチド、ランレオチドなど)
- TSH分泌を抑制。
- 腫瘍の縮小効果も期待できる。
- ドパミン作動薬(カベルゴリンなど)
- 一部の腫瘍に有効。
- チアマゾール(メルカゾール)・プロピルチオウラシル(PTU)
- 甲状腺ホルモン過剰を抑えるための補助療法。
☢ 放射線療法
- 手術ができない/再発例で行う。
- 効果が出るまで時間がかかるため薬物と併用されることが多い。
🔹 2. 甲状腺ホルモン不応症(RTH)の治療
🔎 基本方針
- 多くは軽症で治療不要。
- 症状に応じて生活管理・対症療法を行う。
💊 薬物療法
- β遮断薬(プロプラノロールなど)
- 動悸・頻脈を抑える。
- 甲状腺ホルモン製剤の投与(まれ)
- 特殊なRTH亜型(下垂体優位型など)で使うことがある。
👪 遺伝カウンセリング
- 家族性疾患なので、遺伝相談や家族スクリーニングが勧められる。
<下垂体性TSH分泌亢進症>の日常生活の注意点
(ここでも ①TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)と ②甲状腺ホルモン不応症(RTH)に分けて説明します。)
🏡 1. TSH産生下垂体腺腫(TSHoma)の場合
💧 体調管理
- 動悸・息切れ・手の震えなど、甲状腺機能亢進症状に注意。
- 強い動悸や胸痛が出たら心臓疾患(心房細動など)の合併を疑って早めに受診。
🍴 食生活
- カフェイン・アルコールは心拍数上昇を悪化させやすいので控えめに。
- 骨粗鬆症予防のため、カルシウム・ビタミンDの摂取を意識。
🏃♂️ 運動
- 激しい運動は動悸や心拍数の上昇を悪化させることがあるので、軽い有酸素運動やストレッチが望ましい。
🏥 通院・治療
- 術後や薬物治療中はホルモン値(TSH・T3・T4)の定期チェックが必須。
- 視野障害・頭痛など腫瘍圧迫症状が進んでいないか観察する。
🏡 2. 甲状腺ホルモン不応症(RTH)の場合
💧 体調管理
- 多くは軽症で日常生活に大きな制限は不要。
- 動悸・頻脈がある場合は、無理な運動や刺激物を避ける。
🍴 食生活
- 特別な食事制限は不要。
- 心臓や骨への負担を軽減するため、バランスの良い食生活を心がける。
👪 家族への配慮
- 遺伝性疾患なので、家族にも血液検査を勧めることがある。
- 遺伝カウンセリングを受けて、家族計画や生活の参考にする。