目次
<下垂体性ゴナドトロピン分泌亢進症>はどんな病気?
🔹 定義
- 脳の下垂体前葉にできた腫瘍(下垂体腺腫)などが原因で、
ゴナドトロピン(LH:黄体形成ホルモン、FSH:卵胞刺激ホルモン)が過剰に分泌される病気。 - これにより、性腺(精巣・卵巣)が異常に刺激され、性ホルモンのバランスが崩れる状態です。
🔹 原因
- 最も多いのは ゴナドトロピン産生下垂体腺腫(LH産生腺腫、FSH産生腺腫、または混合型)。
- まれに、下垂体腫瘍ではなく、下垂体の調節異常や視床下部の異常が関わることもあります。
🔹 主な症状
症状は性別・年齢によって異なります。
🧑🦱 男性
- 精巣腫大(思春期前に発症すると「思春期早発症」)
- 不妊症(精子形成異常)
- 性欲の変化
👩 女性
- 卵巣腫大(卵巣過剰刺激症候群様の状態になることがある)
- 月経異常(過多月経や無排卵周期)
- 不妊症
共通症状(腫瘍の圧迫によるもの)
- 頭痛
- 視野障害(両耳側半盲など)
🔹 診断
- 血液検査で LH・FSHの高値 を確認。
- 性ホルモン(エストロゲン、テストステロン)の異常。
- MRIで下垂体腫瘍の存在を確認。
🔹 治療
- 第一選択は経蝶形骨洞手術による腫瘍摘出。
- 腫瘍が完全に取れない場合や再発例には:
- 放射線治療
- 薬物治療(ゴナドトロピン分泌を抑える薬は限定的で、ソマトスタチンアナログやドパミン作動薬が一部で使われる)
- 不妊や性腺機能異常に対しては、補助的なホルモン治療も行われます。
✅ まとめ
<下垂体性ゴナドトロピン分泌亢進症>は、主に 下垂体腺腫によりLH・FSHが過剰分泌される病気です。
- 男性では精巣腫大や不妊、女性では卵巣腫大・月経異常・不妊が特徴。
- 腫瘍が大きい場合は頭痛や視野障害を伴う。
- 治療は手術が基本で、必要に応じて放射線や薬物治療が加わる。
<下垂体性ゴナドトロピン分泌亢進症>の人はどれくらい?
🔹 世界的な頻度
- 「ゴナドトロピン産生下垂体腺腫」によって起こるのが典型です。
- 下垂体腺腫の中で最も多いのはプロラクチノーマ(約40〜50%)、次いで非機能性腺腫、GH産生腺腫ですが、LH・FSH産生腺腫は非常にまれ(全体の約1〜3%程度) とされています。
- そのため、人口100万人あたり数人〜十数人レベルの希少疾患に分類されます。
🔹 日本での状況
- 日本でも正式な統計は限られていますが、下垂体腺腫全体の約2%前後がゴナドトロピン産生型と報告されています。
- 日本の下垂体腺腫の有病率が人口10万人あたり約50〜60人とされることから、ゴナドトロピン産生型はその 数百人規模 にとどまると推定されます。
🔹 発症年齢・性差
- 発症は 成人(特に中年以降) に多い。
- 男女差は大きくありませんが、女性では月経異常、不妊、卵巣腫大として見つかり、男性では精巣腫大や不妊で見つかることが多いです。
✅ まとめ
- <下垂体性ゴナドトロピン分泌亢進症>は 非常にまれな病気。
- 下垂体腺腫全体の 1〜3%程度を占めるにすぎず、人口レベルでは数万人に1人以下。
- 日本全体でも 数百人程度の患者がいると推定される。
<下垂体性ゴナドトロピン分泌亢進症>の原因は?
🔹 主な原因
- ゴナドトロピン産生下垂体腺腫
- 下垂体前葉に発生する良性腫瘍(下垂体腺腫)が、
LH(黄体形成ホルモン)やFSH(卵胞刺激ホルモン)を過剰に分泌する。 - 下垂体腺腫の中では 非常にまれ(全体の1〜3%程度)。
- 腫瘍が大きくなると、ホルモン過剰だけでなく、視神経圧迫などの局所症状も出る。
- 下垂体前葉に発生する良性腫瘍(下垂体腺腫)が、
- 混合型腺腫
- GHやプロラクチンなど、ゴナドトロピン以外のホルモンも同時に分泌する腺腫。
- 複数ホルモン過剰による症状が重なる場合がある。
🔹 まれな原因
- 視床下部の腫瘍や異常
- 視床下部から分泌されるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)が異常に増えると、二次的に下垂体からLH・FSHが過剰に出ることがある。
- ただし、報告はきわめて少ない。
- 遺伝的要因
- 多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)などの遺伝性疾患の一部として下垂体腺腫が発生することがあるが、ゴナドトロピン分泌亢進症として発症するのは非常にまれ。
🔹 まとめ
- 主因は LH・FSHを産生する下垂体腺腫。
- ごくまれに、視床下部異常や遺伝性疾患(MEN1など)が関与。
- 多くは偶発的に発生する腫瘍であり、家族性に起こることはほとんどない。
<下垂体性ゴナドトロピン分泌亢進症>は遺伝する?
🔹 基本的な考え方
- ほとんどの症例は遺伝しません。
- 主な原因である ゴナドトロピン産生下垂体腺腫(LH・FSH産生腺腫)は散発的(偶発的)に発生する良性腫瘍です。
- したがって、多くの場合、家族内で同じ病気が繰り返されることはありません。
🔹 遺伝と関係するまれなケース
一部の患者さんでは、遺伝性の内分泌腫瘍症候群の一部として発症することがあります。
- FIPA(家族性孤発性下垂体腺腫)
- AIP遺伝子変異が関与。
- 家系内で若年から下垂体腺腫が複数発生。ゴナドトロピン産生型は少ないが報告あり。
- 多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)
- MEN1遺伝子の変異による常染色体優性遺伝。
- 副甲状腺腫瘍、膵・消化管神経内分泌腫瘍とともに、下垂体腺腫を合併する。
- 下垂体腺腫の中にはゴナドトロピン産生型が含まれる場合もある。
- Carney complex(カーニー複合)
- PRKAR1A遺伝子の異常により発症。
- 皮膚の色素斑、心臓粘液腫、内分泌腫瘍などを合併。まれに下垂体腺腫も含まれる。
🔹 まとめ
- 大部分は遺伝せず、偶発的な下垂体腺腫が原因。
- ごく一部に、MEN1・Carney complex・FIPAなど遺伝性疾患に関連して発症するケースがある。
- 若年での発症や家族内に下垂体腺腫が複数ある場合は、遺伝子検査や遺伝カウンセリングが推奨される。
<下垂体性ゴナドトロピン分泌亢進症>の経過は?
🔹 経過の全体像
- 多くは 下垂体前葉にできるゴナドトロピン産生腺腫(LH・FSH産生腺腫) が原因。
- 腫瘍の増大による 局所症状 と、ホルモン過剰による 全身症状 の両面で進行していきます。
1️⃣ 発症初期
- 腫瘍が小さいうちは自覚症状が乏しく、健診や不妊検査などで偶然見つかることもあります。
- 血液検査では LH・FSHの高値 が確認されることが多い。
2️⃣ 進行期(腫瘍の拡大・ホルモン過剰)
- 腫瘍による圧迫症状
- 頭痛
- 視野障害(特に両耳側半盲)
- 性腺への影響
- 男性:精巣腫大、不妊、性欲の低下
- 女性:卵巣腫大、月経異常、不妊
- 思春期前に発症した場合、思春期早発症のような症状(男児では精巣肥大、女児では卵巣腫大)が出ることがあります。
3️⃣ 放置した場合の経過
- 腫瘍がさらに大きくなり、視神経や下垂体周囲を圧迫 → 視力低下や下垂体機能低下(他ホルモンの不足)。
- 性腺機能異常が進み、不妊やホルモンバランス異常が固定化する。
- 巨大腺腫になると、治療が難しくなる。
4️⃣ 治療後の経過
- 手術で腫瘍を摘出できれば、ホルモン値も改善し予後良好。
- ただし、完全摘出できない場合や再発するケースもあり、長期のMRI・ホルモン検査フォローが必要。
- 薬物療法や放射線治療を併用することで、ホルモンコントロールは可能な場合が多い。
✅ まとめ
- 経過は 腫瘍の大きさ・ホルモン産生量 によって大きく変わる。
- 放置すると 視覚障害や不妊・ホルモン異常が進行。
- 適切に治療すれば 予後は良好 だが、再発リスクがあるため 長期フォロー必須。
<下垂体性ゴナドトロピン分泌亢進症>の治療法は?
🔹 治療の基本方針
- 主因は ゴナドトロピン産生下垂体腺腫(LH・FSH産生腺腫)。
- そのため、治療は 腫瘍の制御(摘出・縮小)とホルモン過剰の抑制 が中心になります。
1️⃣ 手術療法(第一選択)
- 経蝶形骨洞手術(TSS) が基本。
- 鼻からアプローチして腫瘍を切除。
- 小さな腺腫では根治が期待でき、LH・FSHも正常化しやすい。
- 腫瘍が大きく完全に取り切れない場合も、腫瘍量を減らすことで症状やホルモン値の改善が期待できる。
2️⃣ 薬物療法
- ゴナドトロピン分泌腺腫に対する特効薬は確立されていませんが、補助的に以下が用いられることがあります:
- ソマトスタチンアナログ(オクトレオチドなど):一部でLH/FSH抑制効果。
- ドパミン作動薬(カベルゴリンなど):プロラクチン共分泌腺腫では有効。
- GnRHアゴニスト/アンタゴニスト:性腺からの反応を抑えるために応用される場合あり。
3️⃣ 放射線治療
- 手術不能例、手術後に腫瘍が残存・再発した場合に検討。
- 定位放射線治療(ガンマナイフなど)が選ばれることが多い。
- 効果が出るまで時間がかかるため、薬物療法と併用されることもある。
4️⃣ 合併症への対応
- 不妊治療:排卵誘発や補助生殖医療。
- ホルモン補充療法:手術や腫瘍の圧迫で他の下垂体ホルモンが低下した場合に必要。
- 腫瘍の圧迫で視力障害がある場合は、早期治療が視力予後を改善する。
✅ まとめ
- 第一選択は 経蝶形骨洞手術での腫瘍摘出。
- 残存腫瘍や再発例では 薬物療法や放射線治療を組み合わせて管理。
- 不妊やホルモン異常への対症療法も重要。
- 長期的に MRI・ホルモン検査によるフォローアップが必須。
<下垂体性ゴナドトロピン分泌亢進症>の日常生活の注意点
1️⃣ 定期的な通院と検査
- 腫瘍の残存・再発やホルモンの再上昇を確認するために MRIとホルモン検査を定期的に受ける。
- 治療後も長期にわたりフォローが必要。
2️⃣ 視力・視野のチェック
- 腫瘍の大きさによっては視神経を圧迫するため、視野異常や視力低下の自覚があれば早めに受診。
- 運転や機械作業など、安全に関わる生活習慣は眼科的評価をふまえて調整。
3️⃣ 性腺機能・妊娠に関する配慮
- 女性:月経異常や不妊が続く場合は、婦人科と内分泌科の連携で管理。
- 男性:精子形成不全や不妊につながることがあるので、泌尿器科での精液検査やホルモン治療が必要になることもある。
- 妊娠を希望する場合は、治療計画を主治医と相談。
4️⃣ 合併症への対応
- 手術や放射線治療後に下垂体全体の働きが低下することがあるため、
- 副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモン、性ホルモンの ホルモン補充療法 が必要になる場合がある。
- 日常的に強い疲労感や低血糖症状があれば、内分泌機能低下のサインかもしれないので早めに相談。
5️⃣ 生活習慣の工夫
- 睡眠や食生活を整え、体力を温存。
- 無理のない範囲で運動を続けることで、代謝や骨の健康を維持。
- ホルモンの乱れがあると代謝異常(肥満・骨粗鬆症)につながるため、体重管理と骨のケア(カルシウム・ビタミンD摂取など)も大切。
6️⃣ 精神面・社会生活
- 外見の変化や不妊の悩みなど、精神的負担が大きくなることもあるため、カウンセリングや患者会の活用も有効。
- 職場や学校には病気の特性を理解してもらい、検査や治療のための通院に配慮を受けると安心。
✅ まとめ
- 定期検査と長期フォローが生活の基本。
- 視力・性腺機能・ホルモンバランスに注意して、異変があれば早めに相談。
- 体調管理・精神的サポートを取り入れることで、安定した生活が可能。