目次
<血栓性血小板減少性紫斑病>はどんな病気?
- 🔹 基本的な特徴
- 🔹 なぜ起こる?
- 🔹 主な症状
- 🔹 診断
- 🔹 治療
- 🔹 世界での発症頻度
- 🔹 日本での患者数
- 🔹 年齢・性別分布
- 🔹 基本メカニズム
- 🔹 原因の分類
- 🔹 まとめ
- 🔹 基本的な考え方
- 1) 後天性TTP(acquired TTP)
- 2) 先天性TTP(congenital TTP / Upshaw-Schulman症候群)
- ✅ まとめ
- 🔹 発症〜急性期
- 🔹 治療による経過
- 🔹 再発と慢性経過
- 🔹 長期的な合併症・予後
- 🔹 急性期治療(標準治療)
- 🔹 先天性TTP(Upshaw-Schulman症候群)
- 🔹 支持療法
- 1️⃣ 再発予防と早期発見
- 2️⃣ 感染予防
- 3️⃣ 出血への配慮
- 4️⃣ 妊娠・出産
- 5️⃣ 生活習慣
- 6️⃣ 精神面・社会生活
🔹 基本的な特徴
- 血小板が著しく減少するのに加え、全身の小血管に血栓(血のかたまり)ができやすくなる病気です。
- その結果、臓器の血流が妨げられ、神経症状・腎障害・発熱・溶血性貧血などが起こります。
- 発症は急激で、放置すると致命的になるため緊急の治療が必要な血液の難病です。
🔹 なぜ起こる?
- 通常、血液中には ADAMTS13 という酵素があり、血液凝固に関わる**フォン・ヴィレブランド因子(vWF)**を細かく切って過剰な血栓形成を防いでいます。
- TTPでは、このADAMTS13の働きがほぼ失われます。
- 自己免疫によるADAMTS13阻害抗体ができる(後天性TTP)
- または 遺伝子異常でADAMTS13が欠損・低下している(先天性TTP:Upshaw-Schulman症候群)
🔹 主な症状
古典的には「TTPの五徴」と呼ばれる症状があります。
- 血小板減少 → 紫斑、出血傾向
- 溶血性貧血(細かい血栓で赤血球が壊れる)→ 倦怠感、黄疸
- 神経症状 → 頭痛、意識障害、けいれん、脳梗塞様症状
- 腎障害 → 尿量減少、血尿
- 発熱
ただし全てが揃うわけではなく、特に血小板減少+溶血性貧血が特徴的です。
🔹 診断
- 血液検査:著しい血小板減少、破砕赤血球、LDH上昇、間接ビリルビン上昇
- ADAMTS13活性の低下と阻害抗体の存在を確認すると確定
🔹 治療
- **血漿交換療法(PE:Plasma Exchange)**が最優先 → 抗体を除去し、ADAMTS13を補充する
- 副腎皮質ステロイド:免疫抑制
- リツキシマブ(抗CD20抗体):再発予防や難治例に有効
- カプラシズマブ(抗vWF抗体薬):新しい分子標的薬として欧米・日本で承認、発症直後からの血栓抑制に有効
- 先天性TTPでは定期的な新鮮凍結血漿輸注
✅ まとめ
- 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は、ADAMTS13酵素の働きが失われることで、小血管に血栓が多発 → 出血・溶血・臓器障害を来す難病。
- 急性で致命的になり得るため、血漿交換+免疫抑制+新規分子標的薬が治療の中心。
- 先天性(遺伝性)と後天性(自己免疫性)に分けられる。
<血栓性血小板減少性紫斑病>の人はどれくらい?
🔹 世界での発症頻度
- 後天性TTP(自己免疫性)は、年間 100万人あたり 2〜6人程度の稀な病気。
- 先天性TTP(Upshaw-Schulman症候群)はさらに少なく、100万人に1人未満とされます。
🔹 日本での患者数
- 厚生労働省の指定難病(「血栓性微小血管症」枠)に含まれています。
- 登録患者数はおおよそ 数百〜千数百人規模 と推定されます。
- 年間の新規発症は 人口100万人あたり 2〜3人(=全国で200〜300人前後)と考えられています。
🔹 年齢・性別分布
- 発症年齢は 30〜50歳代に多い。
- 男女比は女性にやや多い傾向(自己免疫疾患と同様)。
- 先天性TTPは乳幼児〜若年で診断されることが多い。
✅ まとめ
- TTPは 希少疾患で、後天性は人口100万人あたり 2〜6人/年、先天性はさらにまれ。
- 日本では 数百〜千数百人程度の患者さんがいると推定され、年間発症は200〜300人程度。
- 年齢は成人中年層中心、やや女性に多い。
<血栓性血小板減少性紫斑病>の原因は?
🔹 基本メカニズム
- TTPは ADAMTS13 という酵素の働きが極端に低下 することで起こります。
- ADAMTS13は血液中の フォン・ヴィレブランド因子(vWF) を細かく切断して、血小板が無駄に集まらないようにする役割。
- 酵素が欠損すると 巨大なvWFが残り、血小板が小血管の中で異常に固まる → 全身に微小血栓ができる。
- その結果、血小板が消費されて減少し、赤血球も血管内で壊れて溶血性貧血を起こします。
🔹 原因の分類
1. 後天性TTP( acquired TTP )
患者の 約9割以上がこちら。
- 自己免疫反応でADAMTS13に対する自己抗体ができ、酵素活性が阻害される。
- 誘因:
- 感染症(ウイルス、細菌)
- 妊娠・出産
- 自己免疫疾患(SLEなど)
- 一部の薬剤(チクロピジン、クロピドグレル、抗がん剤など)
- 発症は突然で、急激に進行。
2. 先天性TTP( congenital TTP / Upshaw-Schulman症候群 )
- ADAMTS13遺伝子の変異により、生まれつき酵素が欠損または不活性。
- 非常にまれ(人口100万人に1人未満)。
- 乳幼児期に発症することもあれば、感染や妊娠・手術などのストレスで成人になってから発作することもある。
🔹 まとめ
- 直接の原因=ADAMTS13酵素の欠損/阻害。
- 後天性TTP:自己抗体による免疫異常(圧倒的に多い)。
- 先天性TTP:遺伝子変異による酵素欠損(非常にまれ)。
- 感染・妊娠・薬剤・自己免疫疾患が発症の引き金になることがある。
<血栓性血小板減少性紫斑病>は遺伝する?
🔹 基本的な考え方
TTPには大きく 後天性 と 先天性(遺伝性) の2つのタイプがあり、
- 後天性TTP → 遺伝しない
- 先天性TTP(Upshaw-Schulman症候群) → 遺伝する
という違いがあります。
1) 後天性TTP(acquired TTP)
- 最も多いタイプ(9割以上)。
- 自己免疫反応によりADAMTS13に対する自己抗体ができるのが原因。
- 感染、薬剤、妊娠、自己免疫疾患などが引き金になる。
- 遺伝することはありません。
2) 先天性TTP(congenital TTP / Upshaw-Schulman症候群)
- ADAMTS13遺伝子の変異によって、酵素が生まれつき欠損・不活性。
- 常染色体劣性遺伝:両親からそれぞれ変異遺伝子を受け継いだ場合に発症。
- 非常にまれ(100万人に1人未満)。
- 小児期からの発症が多いが、大人になってから誘因で発作することもある。
- 血縁者に同じ遺伝子変異があると発症リスクが高まります。
✅ まとめ
- 後天性TTP → 遺伝しない(自己抗体が原因)。
- 先天性TTP → 遺伝する(ADAMTS13遺伝子の劣性変異)。
- 日本を含めて圧倒的に多いのは「後天性」であり、一般的にTTPと診断された場合は遺伝性であることはまれです。
<血栓性血小板減少性紫斑病>の経過は?
🔹 発症〜急性期
- 多くは急激に発症します。
- 典型的には 数日〜数週間のうちに急速進行。
- 主症状:
- 血小板減少 → 紫斑・出血傾向
- 溶血性貧血 → 倦怠感・黄疸
- 神経症状 → 頭痛、意識障害、けいれん、脳梗塞様症状
- 腎障害 → 尿量減少、血尿
- 発熱
- 治療を行わない場合、致死率は9割以上と非常に高い病気です。
🔹 治療による経過
- 血漿交換療法+免疫抑制(ステロイド、リツキシマブ)+カプラシズマブなどにより、
→ 現在は初回発作の生存率は9割以上に改善しました。 - 数日〜数週間で血小板数が回復し、臨床症状も改善していくことが多いです。
🔹 再発と慢性経過
- 後天性TTP:
- 約3〜5割の患者で再発を経験します。
- 初回治療後もADAMTS13活性が低いままの人は特に再発リスクが高い。
- そのため定期的な採血でADAMTS13活性や阻害抗体の測定を行い、再発予測や早期治療につなげます。
- 先天性TTP:
- 発作は感染・妊娠・手術などのストレスで繰り返し起こる。
- 定期的な血漿輸注で予防的にADAMTS13を補充する。
🔹 長期的な合併症・予後
- 急性期を乗り切っても、繰り返す発作で腎障害や神経後遺症が残る場合があります。
- 長期生存は可能ですが、生活の質(QOL)を保つための再発予防と早期対応が重要です。
- 妊娠時は再発しやすく、母体・胎児ともにリスクが上がるため慎重な管理が必要。
✅ まとめ
- TTPは未治療では急速進行で致死的だが、血漿交換+免疫抑制+新薬で生存率は大幅改善。
- 後天性は再発が多く、先天性は発作を繰り返すのが特徴。
- 長期的には腎・脳の後遺症や再発リスクがあるため、定期的なフォローと予防的治療が大切。
<血栓性血小板減少性紫斑病>の治療法は?
TTPは急激に進行して致死率が非常に高い疾患なので、診断が疑われたらすぐ治療開始が原則です。
🔹 急性期治療(標準治療)
1. 血漿交換療法(PE: Plasma Exchange)
- 最も重要な治療。
- 目的:
- ADAMTS13阻害抗体を取り除く
- 正常なADAMTS13を補充する
- 1日1回、血小板が正常化するまで繰り返す。
- これにより、かつて90%以上だった死亡率が 10%以下 にまで改善しました。
2. 副腎皮質ステロイド
- 自己抗体の産生を抑える。
- プレドニゾロン内服、重症例ではメチルプレドニゾロン大量静注パルス療法。
3. カプラシズマブ(caplacizumab)
- 近年登場した抗vWF抗体薬。
- vWFと血小板の結合を阻害し、血栓形成を素早く抑制。
- 血漿交換+ステロイドと併用することで、血小板回復を早め、再発率を低下させます。
- 日本でも使用可能になっています。
4. リツキシマブ(抗CD20抗体)
- 難治例・再発例、または初回から高リスクの症例に使用。
- B細胞を標的とし、ADAMTS13阻害抗体の産生を抑制する。
- 再発予防にも有効。
🔹 先天性TTP(Upshaw-Schulman症候群)
- ADAMTS13遺伝子異常によるタイプ。
- 血漿交換は不要で、定期的な新鮮凍結血漿の輸注でADAMTS13を補充する。
- 将来的に遺伝子治療やリコンビナントADAMTS13製剤が期待されています。
🔹 支持療法
- 血小板輸血は原則禁止(血栓を悪化させるため)。
- 腎障害があれば透析、感染予防、臓器管理。
✅ まとめ
- 第一選択は血漿交換療法+ステロイド。
- カプラシズマブやリツキシマブを組み合わせて治療成績が大幅に向上。
- 先天性TTPでは定期的に血漿を補充することが中心。
- 迅速治療で生存率は90%以上に改善したが、再発予防と長期フォローが必要。
<血栓性血小板減少性紫斑病>の日常生活の注意点
TTPは再発の可能性や、治療による免疫抑制・臓器障害を考慮して、生活管理が重要になります。
🏡 日常生活の注意点
1️⃣ 再発予防と早期発見
- 定期的な通院・血液検査(血小板数、LDH、ADAMTS13活性など)が必須。
- 紫斑・鼻血・歯茎出血・しびれ・頭痛・視覚異常などが出たらすぐ受診。
- 発熱や感染症は再発の引き金になることがあるので注意。
2️⃣ 感染予防
- 治療(ステロイド・リツキシマブ)で免疫が下がるため、
- 手洗い・うがい・マスクを徹底。
- ワクチンは主治医と相談(生ワクチンは避けることが多い)。
- 人混みを避け、風邪症状がある人との接触を減らす。
3️⃣ 出血への配慮
- 血小板が少ない時期は出血しやすいため、
- 打撲しやすいスポーツ(格闘技、サッカーなど)は避ける。
- 電動シェーバーを使う、歯ブラシは柔らかめに。
- アルコールやアスピリン・NSAIDsなど血小板機能を抑える薬は主治医に確認。
4️⃣ 妊娠・出産
- 妊娠はTTPの再発リスクを上げるため、妊娠前から血液内科・産科の連携が必須。
- 妊娠中は特に再発監視を厳重に行う。
5️⃣ 生活習慣
- バランスの良い食事・十分な睡眠で体調を整える。
- 過度な飲酒や喫煙は避ける。
- 運動はウォーキングやストレッチなど安全な軽度運動を継続。
6️⃣ 精神面・社会生活
- TTPは「再発があるかも」という不安が大きいため、主治医との相談・サポート体制を大切にする。
- 医療費助成(指定難病)を活用できる。
- 仕事は無理のない範囲で調整し、ストレス・過労を避ける。
✅ まとめ
- 再発サインを早期に気づくことが最重要。
- 感染予防と出血予防を生活習慣に組み込み、無理のない生活リズムを守る。
- 妊娠・薬の使用・ワクチンなどは必ず主治医に確認。
- 定期フォローを続けることで、長期に安定した生活が可能です。