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<自己免疫性溶血性貧血>はどんな病気?
自己免疫性溶血性貧血は、自分の免疫システムが誤って赤血球を攻撃し、破壊(溶血)してしまうことで起こる 自己免疫疾患の一つ です。赤血球が通常よりも早く壊されるため、体が必要とする酸素を十分に運べなくなり、貧血症状を引き起こします。
主な特徴
- 原因:免疫グロブリン(IgG, IgMなど)が赤血球に結合し、補体の活性化や脾臓での破壊が促進される。
- 分類:
- 温式AIHA(Warm AIHA):37℃前後で抗体が作用(最も多い、IgG型)
- 寒冷凝集素症(Cold AIHA):低温で抗体が作用(IgM型、補体関与が強い)
- 混合型AIHA:温式と寒冷型が併存
- 薬剤誘発性AIHA:特定の薬が引き金
症状
- 貧血症状:疲労感、息切れ、動悸、めまい
- 黄疸(赤血球破壊によりビリルビン増加)
- 脾腫(脾臓の腫れ)
- 寒冷曝露での手足のしびれや痛み(寒冷凝集素症)
関連する病態
- 原発性(特発性):原因不明で起こるもの
- 二次性:他の疾患に伴うもの(例:SLE、リンパ腫、CLL、感染症など)
👉まとめると、自己免疫性溶血性貧血は「免疫が誤作動して赤血球を壊す病気」であり、発症形式や抗体の種類によって温式・寒冷型などに分かれます。
<自己免疫性溶血性貧血>の人はどれくらい?
世界での頻度
- 発症率:年間 10万人あたり1〜3人程度 とされる稀な疾患です。
- 有病率:推定で 人口10万人あたり17〜24人程度 と報告されています。
- 小児よりも 成人(特に中高年女性)に多い 傾向があります。
日本での状況
- 正確な全国統計は限られていますが、難病指定(指定難病第 48)されていることから、厚生労働省の登録データでは数千人規模と考えられます。
- 日本の自己免疫性疾患の中でも比較的まれで、SLEやリンパ増殖性疾患などに合併する二次性AIHA も一定数存在します。
まとめ
- 自己免疫性溶血性貧血は 希少疾患 であり、人口全体でみると非常に少数(10万人に十数人程度)。
- 日本では難病指定があり、全国で数千人程度と推定されています。
- 発症年齢は幅広いですが、成人に多く、女性の比率がやや高いとされています。
<自己免疫性溶血性貧血>の原因は?
🔹 原因の分類
AIHAは「自分の赤血球を攻撃する自己抗体」ができることで起こります。原因は大きく 原発性(特発性) と 続発性(二次性) に分かれます。
1. 原発性(特発性)AIHA
- 全体の 約半数 を占めます。
- 明確な基礎疾患がなく、自己抗体(IgGやIgM)が産生され、赤血球が壊されます。
- 免疫の異常(自己寛容の破綻)が根本的な原因と考えられています。
2. 続発性(二次性)AIHA
他の病気や外的因子に伴って発症します。
🔸 自己免疫疾患
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
- 混合性結合組織病(MCTD)
- 関節リウマチ
→ AIHAはSLEに合併しやすい代表的な血液異常です。
🔸 血液疾患(特にリンパ増殖性疾患)
- 慢性リンパ性白血病(CLL)
- 悪性リンパ腫(特に非ホジキンリンパ腫)
🔸 感染症
- マイコプラズマ感染症
- EBウイルス(伝染性単核球症)
- HIV など
🔸 薬剤性
- 抗菌薬(ペニシリン系、セフェム系、メチルドパ など)
- 一部の抗がん剤や免疫抑制薬
🔹 温式 vs 寒冷式
AIHAは抗体の特徴でさらに分けられます。
- 温式AIHA(約70〜80%)
- 主にIgG抗体
- 体温(37℃前後)で赤血球に結合し、脾臓で破壊される
- 自己免疫疾患やリンパ腫に合併しやすい
- 寒冷凝集素症(寒冷式AIHA, 約20〜30%)
- 主にIgM抗体
- 寒冷環境(0〜4℃)で赤血球に結合し、補体を活性化して溶血を起こす
- マイコプラズマ感染やリンパ腫と関連
✅ まとめると:
自己免疫性溶血性貧血の原因は、免疫の異常により赤血球を攻撃する抗体が作られること。その背景として、自己免疫疾患・血液がん・感染症・薬剤 などが大きな要因になります。
<自己免疫性溶血性貧血>は遺伝する?
<自己免疫性溶血性貧血(AIHA: Autoimmune Hemolytic Anemia)>は、基本的には 遺伝性の病気ではありません。
遺伝との関係
- AIHAは後天性疾患であり、免疫システムが誤って自分の赤血球を攻撃して壊してしまうことで起こります。
- 遺伝子の突然変異や親からの遺伝によって直接発症するタイプはありません。
ただし関連がある点
- 遺伝素因(体質):自己免疫疾患になりやすい体質(例:特定のHLA型)は家族内で共有されることがあり、AIHAの発症リスクに影響する可能性があります。
- 家族性にみられる自己免疫疾患:家族にSLE、橋本病、1型糖尿病などの自己免疫疾患が多いと、AIHAを含む自己免疫疾患全般のリスクがやや高くなると報告されています。
- 遺伝性溶血性貧血との違い:球状赤血球症やサラセミアのように遺伝的な赤血球膜異常やヘモグロビン異常で起きる溶血性貧血とは別物です。
👉 まとめると、AIHAは「遺伝病」ではなく「後天性自己免疫疾患」ですが、遺伝的背景が間接的に発症しやすさに関与している可能性はあります。
<自己免疫性溶血性貧血>の経過は?
<自己免疫性溶血性貧血(AIHA: Autoimmune Hemolytic Anemia)>の経過は、原因や病型(温式・寒冷凝集素型など)、治療への反応性によって大きく異なります。以下に典型的な経過をまとめます。
🩸 経過の特徴
1. 発症様式
- 急性発症型
数日〜数週間で急速に貧血症状(倦怠感、息切れ、黄疸)が進むことがあります。特に小児や感染後に起きることが多く、自然に軽快する例もあります。 - 慢性経過型
数か月〜数年にわたり溶血が続いたり、再発と寛解を繰り返すパターンが成人に多いです。
2. 病型による違い
- 温式AIHA(最も多い)
徐々に進行し、治療により寛解する例も多いですが、再発率が高い(40〜60%)。ステロイドで改善しても、長期的に免疫抑制薬やリツキシマブなどが必要になることがあります。 - 寒冷凝集素病(CAD)
慢性的で長期にわたることが多く、寒冷曝露で溶血が悪化。完全寛解は少ないが、適切な回避・治療で安定した生活が可能。 - 発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PNHとは別)
感染後に一過性に起こることが多く、小児で自然に治ることが多いです。
3. 治療による経過
- 第一選択:副腎皮質ステロイド
多くの患者で初期は効果があり、寛解導入が可能。 - 再発例・難治例
免疫抑制薬、リツキシマブ、造血幹細胞移植などが検討される。 - 合併症次第で予後が左右
特にSLE、リンパ増殖性疾患、感染症など基礎疾患を持つ例では再発や難治化しやすい。
4. 長期予後
- 急性・一過性型(特に小児) → 多くは数か月以内に自然軽快または治療で治癒。
- 成人の慢性型 → 再発・寛解を繰り返し、長期的に治療が必要なケースが多い。
- 生命予後 → 適切な治療でコントロールできるが、溶血の重症化(急激な貧血、心不全、血栓症)や基礎疾患(悪性リンパ腫など)の影響で死亡リスクが高まることがある。
🔑 まとめ
- AIHAの経過は 「急性一過性」か「慢性再発型」かで大きく異なる。
- 小児は自然治癒が多いが、成人は慢性化しやすい。
- 治療により寛解できるが、再発率が高く、長期管理が必要。
- 基礎疾患や治療抵抗性の有無が予後を決める。
<自己免疫性溶血性貧血>の治療法は?
🔹 自己免疫性溶血性貧血の治療法
AIHAは自己抗体により赤血球が破壊される疾患で、治療の基本は免疫反応を抑えることです。タイプ(温式AIHA、寒冷凝集素病、薬剤性など)によって治療方針が異なります。
1. 薬物療法
- 副腎皮質ステロイド(第一選択)
- プレドニゾロンを中心に使用。多くの患者で効果があるが、再発も多いため漸減・維持療法が必要。
- 免疫抑制薬
- ステロイド抵抗例や依存例に使用。
- アザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリン、マイコフェノール酸モフェチル(MMF)など。
- リツキシマブ(抗CD20抗体)
- 温式AIHAや寒冷凝集素病の難治例で有効。再発率も比較的低く、近年の重要な選択肢。
- 補体阻害薬
- 寒冷凝集素病では補体の関与が強いため、C1s阻害薬(サトラリマブ、シルタコプランなど)が臨床試験で注目されている。
2. 外科的治療
- 脾摘(脾臓摘出)
- ステロイドやリツキシマブで効果が乏しい場合に選択される。特に温式AIHAで有効性がある。
3. 輸血療法
- 重度の貧血で緊急時に行うが、自己抗体のためクロスマッチが難しい。
- 必要に応じて「最も適合度が高い血液」を選び、命に関わる場合に限って行われる。
4. 寒冷凝集素病への対応
- 寒冷回避が基本(日常生活での保温)。
- リツキシマブや補体阻害薬が治療の中心。
5. 支持療法
- 葉酸補充(溶血で需要が増大するため)。
- 感染予防(免疫抑制薬や脾摘後)。
🔑 まとめ
- 第一選択はステロイド。
- ステロイド抵抗性ではリツキシマブや免疫抑制薬。
- 寒冷凝集素病では補体阻害薬が新たな治療選択肢。
- 脾摘や輸血は補助的。
<自己免疫性溶血性貧血>の日常生活の注意点
1. 感染症対策
- 治療で 副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬 を使う場合、感染症リスクが高まります。
→ 外出後の手洗い・うがい、ワクチン(インフルエンザ・肺炎球菌など)接種を検討。
→ 人混みを避けることも有効。
2. 日光と紫外線
- 一部のAIHAは 膠原病や自己免疫疾患に合併 するため、紫外線で症状が悪化する可能性があります。
→ 外出時は日焼け止め・帽子で紫外線対策。
3. 体調管理
- 貧血による 動悸・息切れ・疲れやすさ が出やすいので、無理な運動は避ける。
→ 軽めの有酸素運動やストレッチは循環改善に有効。
4. 食生活
- 鉄剤の自己判断での摂取は注意(AIHAでは鉄欠乏性ではないため)。
- バランスよく栄養を摂り、体力維持を重視。
- アルコールは肝臓に負担をかけるため、控えめが望ましい。
5. 薬剤・輸血への注意
- 一部の薬剤(抗生物質・NSAIDsなど)は 薬剤誘発性AIHA を起こすことがあります。
→ 新しい薬を処方される際は必ず主治医に相談。 - 輸血が必要な場合、血液型の交差試験が難航することがあるため、 医療機関への情報共有 が大切。
6. ストレス・睡眠
- 精神的ストレスや睡眠不足は 免疫異常を悪化させる要因。
→ 規則正しい生活リズムを意識。
7. 妊娠・出産
- 妊娠中は免疫バランスが変化し、AIHAが悪化することがあります。
→ 妊娠を希望する場合は 事前に主治医と相談。
👉 AIHAは症状の変動が大きい病気なので、「調子が良い時も急に悪化する可能性がある」ことを前提に、体調変化を日々記録し、早めに医師へ共有することが生活の質を守る鍵になります。
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