特発性間質性肺炎

特発性間質性肺炎 肺動脈性肺高血圧症 指定難病
肺、COPD、肺気腫、肺水腫、特発性間質性肺炎、肺動脈性肺高血圧症

目次

<特発性間質性肺炎>はどんな病気?

🔹 定義

  • 肺の「間質(肺胞を支える壁の部分)」に慢性的な炎症や線維化(硬くなる変化)が起こる病気の総称。
  • 「特発性」という名前の通り、明らかな原因(薬剤、膠原病、環境因子など)が特定できないものを指す。
  • 慢性的に進行して、呼吸機能が低下し、息切れ・咳などが持続する。

🔹 主な病型(ATS/ERS分類より)

特発性間質性肺炎は複数のタイプに分けられています:

  1. 特発性肺線維症(IPF)
    • 最も代表的で頻度が高い。
    • 進行性に肺が硬くなり、予後は不良。
  2. 非特異性間質性肺炎(NSIP)
    • IPFに比べて炎症成分が強く、ステロイドや免疫抑制薬が効きやすい。
  3. 器質化肺炎(COP: cryptogenic organizing pneumonia)
    • 炎症が中心で、比較的治療反応が良い。
  4. 急性間質性肺炎(AIP)
    • 急激に呼吸不全に進行する重症型。ARDSに似ている。
  5. 剥離性間質性肺炎(DIP)
    • 主に喫煙と関連。禁煙や治療で改善しやすい。
  6. 呼吸細気管支炎関連間質性肺疾患(RB-ILD)
    • こちらも喫煙と関係。比較的予後良好。
  7. リンパ球性間質性肺炎(LIP)
    • まれ。自己免疫疾患やウイルス感染と関連することもある。

🔹 主な症状

  • 労作時の息切れ
  • 慢性の乾いた咳
  • 進行すると呼吸不全
  • 指先が太鼓のばちのように変形する「ばち指」が見られることもある

🔹 診断のポイント

  • 胸部CT(特に高分解能CT)で特徴的なすりガラス影や蜂巣肺を確認
  • 肺機能検査で拘束性障害(肺活量低下)・拡散能低下
  • 他疾患(膠原病・薬剤性肺炎など)を除外

✅ まとめ

<特発性間質性肺炎>とは、原因不明の肺の間質に炎症・線維化が起こる疾患群の総称です。
タイプによって治療反応や予後が大きく異なり、特発性肺線維症(IPF)が最も代表的で重症度が高い病型です。

<特発性間質性肺炎>の人はどれくらい?

🔹 全体としての頻度

  • 「特発性間質性肺炎(IIPs)」は原因不明の間質性肺炎の総称。
  • 中でも 特発性肺線維症(IPF) が最も多く、研究や統計はIPF中心に報告されています。

🔹 特発性肺線維症(IPF)の頻度

  • 世界の疫学研究では:
    • 有病率:人口10万人あたり13〜20人程度(欧米報告)。
    • 日本の推定有病率:人口10万人あたり約10〜15人
  • 日本全国の患者数は、約2〜3万人程度と推定されています。
  • 年齢は 50歳以上の中高年男性に多い

🔹 その他のIIPs

  • 非特異性間質性肺炎(NSIP):IPFより頻度は低いが、自己免疫性疾患と関連してみつかることが多い。
  • 器質化肺炎(COP):比較的まれ、数千人規模。
  • 急性間質性肺炎(AIP):さらにまれで、人口数十万人に1人レベル。
  • 剥離性間質性肺炎(DIP)、RB-ILD、LIP:極めてまれな病型。

🔹 まとめ

  • <特発性間質性肺炎>全体でみると、日本では数万人規模の患者がいる。
  • その中で 特発性肺線維症(IPF)が最多で2〜3万人程度
  • 50歳以上の男性に多く、喫煙歴がリスク因子となる。

<特発性間質性肺炎>の原因は?

🔹 基本的な考え方

  • 「特発性」という名前のとおり、はっきりした原因は特定できないのが特徴です。
  • ただし研究の進展により、いくつかの「関与していると考えられる要因」がわかってきています。

🔹 関連が強いとされる要因

1️⃣ 遺伝的要因

  • 家族性に発症する例があり、**サーファクタント関連遺伝子(SFTPC など)**や
    **テロメラーゼ関連遺伝子(TERT, TERC など)**の変異が報告されている。
  • 特に **特発性肺線維症(IPF)**では遺伝素因の関与が指摘される。

2️⃣ 加齢

  • 多くは 50歳以上で発症
  • 加齢による修復機能低下や細胞老化が線維化を進めると考えられる。

3️⃣ 喫煙

  • 特にIPFや剥離性間質性肺炎(DIP)、呼吸細気管支炎関連ILD(RB-ILD)ではリスク因子。

4️⃣ 環境要因

  • 大気汚染、粉塵(金属粉、木粉など)、農薬などの吸入歴がリスクとされる。
  • 慢性的な微小な肺障害が炎症・線維化を誘発する可能性。

5️⃣ 胃食道逆流症(GERD)

  • 胃酸の微小誤嚥による慢性刺激が、IPFのリスク因子・進展因子と考えられている。

6️⃣ 免疫・炎症の異常

  • 自己免疫反応の異常が関与する場合もある。
  • 非特異性間質性肺炎(NSIP)やリンパ球性間質性肺炎(LIP)は自己免疫疾患との関連が深い。

🔹 まとめ

  • <特発性間質性肺炎>は明確な原因は不明だが、
    • 遺伝的素因
    • 加齢
    • 喫煙や環境曝露
    • 胃食道逆流症や慢性炎症
      などが発症に関与すると考えられている。

<特発性間質性肺炎>は遺伝する?

🔹 基本的な考え方

  • 多くの症例は 孤発性(家族歴なしに発症) であり、遺伝病ではありません
  • しかし、一部では 家族性発症(Familial Interstitial Pneumonia, FIP) が報告されています。

🔹 家族性の特発性間質性肺炎(FIP)

  • 患者の 約5〜10%程度は、家族内に同様の間質性肺炎をもつ例があるとされます。
  • 発症年齢がやや若く、複数の家族に同様の病型が出現することがあります。

🔹 関連遺伝子

  • テロメラーゼ関連遺伝子(TERT, TERC, RTEL1, PARN など)
    • テロメアが短縮 → 細胞老化が進みやすい → 線維化リスク増。
  • サーファクタント関連遺伝子(SFTPC, SFTPA2 など)
    • 肺胞の表面活性物質の異常 → 肺胞障害が起こりやすい。
  • これらの遺伝子変異があると、家族性に発症することがある。

🔹 まとめ

  • <特発性間質性肺炎>のほとんどは遺伝しない。
  • ただし 5〜10%は家族性(遺伝的素因が関与)
  • 特に テロメラーゼ遺伝子やサーファクタント関連遺伝子の異常が知られている。

<特発性間質性肺炎>の経過は?

🔹 経過の全体像

  • IIPs は「急激に悪化する型」と「ゆっくり進行する型」があります。
  • 病型ごとに進行の速さや治療反応性、予後が大きく異なります。

🔹 病型ごとの経過

1️⃣ 特発性肺線維症(IPF)

  • 最も多い病型。
  • 慢性進行性で、数年単位で肺が硬くなり呼吸不全が進行。
  • 平均余命は診断後 3〜5年程度 とされる。
  • ときに急激に悪化する「急性増悪」を起こし、死亡原因となる。

2️⃣ 非特異性間質性肺炎(NSIP)

  • 進行はゆるやか。
  • ステロイドや免疫抑制薬が効くことがあり、IPFより予後は良好。
  • ただし線維化が主体のタイプでは慢性進行する。

3️⃣ 器質化肺炎(COP)

  • 炎症主体で、ステロイドに反応しやすく予後は良い
  • 再発はあり得るが、致死的進行はまれ。

4️⃣ 急性間質性肺炎(AIP)

  • 数日〜数週間で急激に呼吸不全が進行。
  • ARDSに似ており、致死率が非常に高い

5️⃣ 剥離性間質性肺炎(DIP)、RB-ILD(呼吸細気管支炎関連)

  • 主に喫煙関連。
  • 禁煙+治療で改善することが多く、予後は比較的良い。

6️⃣ リンパ球性間質性肺炎(LIP)

  • ゆっくり進行。自己免疫疾患に合併することがある。
  • まれだが悪性リンパ腫に進展する例も報告。

🔹 共通する進行の特徴

  • 多くの型で、**労作時の息切れ → 安静時の呼吸困難 → 呼吸不全(在宅酸素が必要)**へと進行する。
  • 感染症や環境因子で急に悪化することがある(急性増悪)。
  • 進行すると心不全(肺高血圧)や全身のQOL低下につながる。

✅ まとめ

  • <特発性間質性肺炎>の経過は病型ごとに大きく異なる。
  • IPFは慢性進行+予後不良AIPは急激に悪化、一方で NSIPやCOPは治療反応性が良く比較的予後良好
  • 共通して「呼吸機能が徐々に低下し、最終的に呼吸不全に至る」流れをとる。

<特発性間質性肺炎>の治療法は?

🔹 基本的な考え方

  • 特発性間質性肺炎(IIPs)は 病型によって治療戦略が大きく異なる
  • 炎症が主体のタイプはステロイドや免疫抑制薬が効きやすい。
  • 線維化が主体(特に特発性肺線維症, IPF)は 抗線維化薬が中心
  • 急激に悪化するタイプ(AIP)は集中治療が必要。

🔹 病型ごとの治療

1️⃣ 特発性肺線維症(IPF)

  • 抗線維化薬(進行抑制が目的)
    • ピルフェニドン(ピレスパ®)
    • ニンテダニブ(オフェブ®)
  • 酸素療法:呼吸不全進行時に導入
  • 肺移植:若年例や進行例で選択肢
  • ステロイド・免疫抑制薬は原則効果が乏しい

2️⃣ 非特異性間質性肺炎(NSIP)

  • ステロイド(プレドニゾロンなど)
  • 免疫抑制薬(タクロリムス、シクロスポリン、シクロホスファミドなど)を併用することもある
  • 線維化優位の型では抗線維化薬も検討される

3️⃣ 器質化肺炎(COP)

  • ステロイドが第一選択
  • 治療反応は良好だが、再発に注意

4️⃣ 急性間質性肺炎(AIP)

  • 集中治療管理(人工呼吸器、ECMOを要することも)
  • 大量ステロイドパルス療法が試みられるが、予後は不良

5️⃣ 剥離性間質性肺炎(DIP)、RB-ILD

  • 禁煙が最重要
  • ステロイドで改善する例もある

6️⃣ リンパ球性間質性肺炎(LIP)

  • 原因疾患(自己免疫疾患など)の治療
  • ステロイド、免疫抑制薬を使うことがある

🔹 共通の支持療法

  • 在宅酸素療法(呼吸不全時)
  • 呼吸リハビリテーション
  • ワクチン接種(インフルエンザ・肺炎球菌) → 感染予防
  • 栄養管理、禁煙、生活習慣の改善

✅ まとめ

  • <特発性間質性肺炎>の治療は「病型に応じて」行う。
  • IPF:抗線維化薬が中心
  • NSIP・COP:ステロイドや免疫抑制薬が有効
  • AIP:集中治療+ステロイドパルス(予後不良)
  • DIP・RB-ILD:禁煙+ステロイド
  • 酸素療法やリハビリなど支持療法も重要。

<特発性間質性肺炎>の日常生活の注意点

🔹 1. 生活習慣とセルフケア

  • 禁煙:喫煙は肺の炎症・線維化を悪化させるため完全禁煙が必須。
  • 規則正しい生活と休養:過労や睡眠不足は免疫低下・悪化の要因になり得る。
  • バランスの取れた食事:筋力維持のために十分なタンパク質、ビタミンD・カルシウムを意識。

🔹 2. 感染症予防

  • 手洗い・うがい・マスク:感染は急性増悪の大きなリスク。
  • ワクチン接種:インフルエンザ、肺炎球菌、COVID-19 など推奨。
  • 人混みを避ける、風邪をひいている人との接触を減らす。

🔹 3. 運動とリハビリ

  • 呼吸リハビリテーション:専門家の指導のもと、軽い有酸素運動や呼吸法の訓練。
  • 強い息切れが出る無理な運動は避ける。
  • 日常的な散歩やストレッチは筋力低下やQOL低下を防ぐ。

🔹 4. 環境への配慮

  • 粉塵・化学物質の吸入を避ける(農薬、ペンキ、溶剤、喫煙環境など)。
  • 空気清浄・加湿管理:乾燥や大気汚染は呼吸器への負担。
  • 高地・飛行機搭乗など酸素濃度の低い環境では注意が必要。

🔹 5. 治療薬・酸素療法との付き合い方

  • 薬を自己中断しない:抗線維化薬やステロイドは副作用もあるため必ず医師指示を守る。
  • 在宅酸素療法:処方された場合は正しく使用し、携帯酸素の扱いも学んでおく。

🔹 6. 精神的サポート

  • 慢性進行性の病気であり、不安・抑うつが伴うことが多い。
  • 家族・患者会・心理サポートの活用が望ましい。

✅ まとめ

  • <特発性間質性肺炎>の日常生活で重要なのは
    禁煙・感染予防・無理のない運動・環境管理・薬と酸素の正しい使用
  • 慢性進行性疾患であるため、自己管理と主治医との定期的な連携がQOL維持に直結します。

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