原発性免疫不全症候群(PIDs)

指定難病
細胞 細胞間基質 肺胞 自己免疫性溶血性貧血 自己免疫性疾患 自己免疫性 核 ゴルジ体 水泡 水 細胞間隙 シェーグレン症候群 特発性血小板減少性紫斑病 腎症 血栓性血小板減少性紫斑病 原発性免疫不全症候群

目次

<原発性免疫不全症候群>はどんな病気?

🔹 基本的な特徴

  • 生まれつきの 免疫システムの異常(遺伝子変異など) によって、
    • 感染にかかりやすい
    • 感染が重症化・長引きやすい
    • 自己免疫疾患や悪性腫瘍を合併しやすい
      などを特徴とする病気の総称。
  • いわゆる「二次性免疫不全」(がんや薬剤、HIVによるもの)と区別し、先天的・遺伝的な免疫異常を指します。

🔹 種類

原発性免疫不全症候群は非常に多様で、500種類以上の病型が知られています。
代表的なものには:

  • 抗体産生不全:例)X連鎖無γグロブリン血症、選択的IgA欠損症、CVID(common variable immunodeficiency)
  • 複合型免疫不全:例)重症複合免疫不全症(SCID)
  • 食細胞の異常:例)慢性肉芽腫症(CGD)
  • 補体系異常:補体欠損症
  • その他:自己炎症症候群、免疫調節異常に伴う病型など

🔹 主な症状

  • 感染症の反復・重症化
    • 中耳炎、副鼻腔炎、肺炎など呼吸器感染
    • 膿瘍、敗血症、難治性のウイルス感染
  • 自己免疫疾患の合併
    • 自己免疫性溶血性貧血、関節炎、甲状腺炎など
  • 悪性腫瘍の合併リスク増加
  • 発達障害や臓器異常を伴う病型もある(例:DiGeorge症候群)

🔹 診断

  • 血液検査(免疫グロブリン、リンパ球サブセット、補体活性)
  • 遺伝子検査で責任遺伝子の変異を確認
  • 家族歴や発症時期も重要(乳児期発症は重症例が多い)

🔹 治療

  • 感染予防(抗菌薬予防投与、ワクチン ※生ワクチンは注意)
  • 免疫グロブリン補充療法(IVIG/SCIG)
  • 造血幹細胞移植(HSCT):重症例(特にSCIDなど)で根治の可能性
  • 遺伝子治療:一部の疾患で臨床応用が進んでいる
  • 合併する自己免疫疾患への対症療法

✅ まとめ

原発性免疫不全症候群とは、先天的な遺伝子異常によって免疫システムがうまく働かない一群の病気です。

  • 感染症にかかりやすく重症化する
  • 自己免疫・悪性腫瘍を合併しやすい
  • 500種類以上の多彩な病型があり、治療は免疫補充・感染予防・造血幹細胞移植・遺伝子治療が中心

<原発性免疫不全症候群>の人はどれくらい?

🔹 世界での有病率

  • 従来は「希少疾患」と考えられていましたが、遺伝子診断が進んだ現在は 思ったより多いことがわかってきました。
  • 大規模調査によると、
    • およそ1万人に1人程度(=10万人あたり10人前後) が何らかのPIDを持つと推定。
    • 最も多いのは「選択的IgA欠損症」で、数百人に1人と比較的高頻度。
    • 臨床的に問題になる中等症〜重症例は 人口10万〜50万人に1人 の範囲。

🔹 日本での患者数

  • 日本では厚生労働省の「指定難病」に含まれており、免疫不全症候群の医療受給者証を持つ人は数千人規模
  • 実際には診断がついていない軽症例(特にIgA欠損症)が多く、潜在患者はさらに多いと考えられています。

🔹 年齢分布

  • 重症例(SCIDなど)は乳児期から発症し診断される。
  • 比較的軽症のPID(CVIDなど)は学童期〜成人になってから診断されることも多い。
  • 性差:一部に**X連鎖遺伝(男児に多い)**の病型があります。

✅ まとめ

  • 世界的には 1万人に1人程度が何らかのPIDに該当。
  • 日本では診断・登録されている患者は数千人だが、潜在的にはさらに多い。
  • 病型によって頻度は大きく異なり、最も多いIgA欠損症は「比較的ありふれた」免疫不全。

<原発性免疫不全症候群>の原因は?

🔹 根本的な原因

  • 遺伝子異常(先天的) が主因。
  • 免疫に関わる細胞(B細胞・T細胞・NK細胞・好中球・マクロファージなど)や補体成分をつくるための遺伝子に変異があり、正常に働かないことが原因です。
  • その結果、免疫反応の一部が欠ける/弱い/制御できないという状態になります。

🔹 関与する仕組みの例

  1. 抗体産生異常
    • 免疫グロブリンを作るB細胞やその分化に関与する遺伝子の異常
    • 例:X連鎖無γグロブリン血症(BTK遺伝子異常)
  2. T細胞や複合免疫異常
    • T細胞の発生・分化に関わる遺伝子の異常
    • 例:重症複合免疫不全症(SCID:IL2RGやADA遺伝子異常)
  3. 食細胞の機能異常
    • 活性酸素や殺菌機能を担う酵素の遺伝子異常
    • 例:慢性肉芽腫症(CYBB遺伝子など)
  4. 補体の欠損
    • 補体成分(C1〜C9など)の遺伝子異常で溶菌能・オプソニン作用が低下
    • 例:C1欠損による易感染性・自己免疫の合併
  5. 免疫調節の異常
    • 免疫を抑える側の遺伝子異常で、自己免疫や炎症が過剰に起きる
    • 例:IPEX症候群(FOXP3遺伝子異常)

🔹 遺伝形式

  • 多くは 常染色体劣性遺伝(両親から変異遺伝子を受け継いだ時に発症)。
  • 一部は X連鎖遺伝(男児に多い)。
  • ごくまれに 常染色体優性遺伝(片方の遺伝子変異で発症)もあります。

✅ まとめ

  • 原発性免疫不全症候群の原因は 免疫系に関わる遺伝子の先天的異常
  • その結果、抗体が作れない・リンパ球や食細胞が働かない・補体が不足する・免疫調節が崩れるなど、多彩な病型が生じる。
  • 遺伝形式は主に劣性遺伝やX連鎖遺伝。

<原発性免疫不全症候群>は遺伝する?

🔹 基本的な考え方

  • 原発性免疫不全症候群は遺伝性疾患です。
  • つまり、親から子へと 免疫に関わる遺伝子の異常が受け継がれる ことで発症します。
  • ただし、どのように遺伝するか(遺伝形式)は病型ごとに異なるため、「必ず遺伝する」とは一律には言えません。

🔹 主な遺伝形式

  1. 常染色体劣性遺伝(autosomal recessive)
    • 両親から1つずつ異常な遺伝子を受け継いだ時に発症。
    • 両親は「保因者」で症状は出ないことが多い。
    • 例:重症複合免疫不全症(SCID, ADA欠損型 など)、慢性肉芽腫症の一部
  2. X連鎖劣性遺伝(X-linked recessive)
    • X染色体上の遺伝子異常。
    • 男児はX染色体が1本なので発症しやすい。
    • 女児は保因者となることが多いが、軽症状が出る場合もある。
    • 例:X連鎖無γグロブリン血症(BTK遺伝子異常)、X連鎖型慢性肉芽腫症
  3. 常染色体優性遺伝(autosomal dominant)
    • 異常な遺伝子を片方の親から受け継ぐだけで発症。
    • 例:STAT3変異による高IgE症候群

🔹 遺伝以外の発症要因はある?

  • 基本的には 先天性(遺伝子レベルの異常) です。
  • ただし、発症のタイミングや重症度は 感染・ストレス・環境因子によって変わることがあります。

✅ まとめ

  • 原発性免疫不全症候群は 遺伝性の病気
  • 遺伝形式は主に 常染色体劣性・X連鎖劣性・常染色体優性の3パターン。
  • 男児に多い病型や、保因者に症状が出る病型もある。
  • 家族内発症がある場合や疑われるときは、遺伝カウンセリングや遺伝子検査が推奨されます。

<原発性免疫不全症候群>の経過は?

🔹 経過の全体像

原発性免疫不全症候群は 病型ごとに多彩ですが、共通の流れとして以下の特徴があります。


1️⃣ 発症時期

  • 重症型(SCIDなど):生後数か月〜乳児期に重い感染を繰り返し、発見されることが多い。治療しないと早期に命に関わる。
  • 中等症(CVIDなど):小児期〜青年期に反復する感染や自己免疫で診断されることも多い。
  • 軽症型(IgA欠損症など):無症状〜軽い感染を繰り返すだけで成人まで気づかれないこともある。

2️⃣ 経過の特徴

  • 感染症反復
    • 呼吸器感染(副鼻腔炎、肺炎、中耳炎)、皮膚感染、真菌感染、敗血症など。
    • 抗菌薬に反応しても再発しやすい。
  • 合併症の進展
    • 自己免疫疾患(自己免疫性溶血性貧血、関節炎、甲状腺疾患など)
    • 慢性炎症による臓器障害(肺の気管支拡張症、肝障害など)
    • 悪性腫瘍(リンパ腫など)の発生リスクが上昇
  • 進行性
    • 放置すると感染・臓器障害が重なり、QOL低下・生命予後の悪化に直結する。
    • 適切な治療(免疫グロブリン補充、移植など)で経過を大きく変えられる。

3️⃣ 予後

  • 治療なし:重症例では乳幼児期に致死的。
  • 現在の医療
    • 免疫グロブリン補充療法で感染の抑制が可能。
    • 重症例(SCIDなど)は造血幹細胞移植(HSCT)や遺伝子治療で長期生存が期待できる。
  • 長期的課題:自己免疫や悪性腫瘍リスクは治療後も残るため、定期的フォローが必須。

✅ まとめ

  • 原発性免疫不全症候群は、乳児期から成人まで発症時期はさまざま
  • 経過の中心は 反復感染 → 臓器障害・自己免疫・腫瘍合併
  • 適切な治療で生存率・生活の質は大きく改善するが、長期フォローが欠かせない

<原発性免疫不全症候群>の治療法は?

🔹 治療の基本方針

原発性免疫不全症候群は「免疫システムのどの部分が障害されているか」で治療が異なります。
治療の目的は

  1. 感染を防ぐ・抑える
  2. 欠けている免疫を補う/回復させる
  3. 合併症(自己免疫・臓器障害・腫瘍)への対処
    です。

1️⃣ 感染予防と支持療法

  • 抗菌薬・抗真菌薬の予防投与
    • 繰り返す細菌感染に対して、低用量抗菌薬を長期投与することがあります。
  • ワクチン接種
    • 不活化ワクチンは可能な限り接種。
    • 生ワクチンは禁忌(重症感染の危険があるため)。
  • 生活習慣の工夫
    • 感染源を避ける(人混み、感染症流行期の外出制限)
    • 衛生管理(手洗い、食事管理)

2️⃣ 免疫補充療法

  • 免疫グロブリン補充療法(IVIG / SCIG)
    • B細胞系のPID(抗体産生不全など)に有効。
    • 定期的に静脈注射(IVIG)または皮下注射(SCIG)でIgGを補い、感染を予防。
    • 生涯にわたって継続が必要なことも多い。

3️⃣ 根本的治療

  • 造血幹細胞移植(HSCT)
    • 重症複合免疫不全症(SCID)、慢性肉芽腫症などで適応。
    • 健康なドナーから骨髄/末梢血/臍帯血を移植し、免疫系を再構築。
    • 根治の可能性があるが、拒絶反応や移植後合併症のリスクあり。
  • 遺伝子治療
    • SCID(ADA欠損型、X連鎖型)、慢性肉芽腫症など一部で臨床応用。
    • 自分の造血幹細胞に正常遺伝子を導入し、再び体に戻す治療。
    • 近年は安全性と長期効果が改善しており、欧米を中心に進展中。

4️⃣ 合併症の治療

  • 自己免疫疾患(関節炎、自己免疫性溶血性貧血など)
    • ステロイド、免疫抑制薬、生物学的製剤で対応。
  • 臓器障害・腫瘍
    • 個別の標準治療に従い管理。

✅ まとめ

  • **感染予防+免疫補充(IVIG/SCIG)**が基本。
  • 重症例は造血幹細胞移植や遺伝子治療によって根治を目指す。
  • 自己免疫や悪性腫瘍の合併管理も重要。
  • 診断後は、専門施設での長期フォローが必須。

<原発性免疫不全症候群>の日常生活の注意点

1️⃣ 感染予防

  • 手洗い・うがい・マスクを習慣化。特に風邪・インフルエンザ・新型コロナ流行期は徹底。
  • 人混み・感染症流行地への外出を控える
  • 衛生的な食生活:生肉・生卵・生魚などのリスク食品は避ける。
  • 予防接種
    • 不活化ワクチン(インフルエンザ、不活化ポリオなど)は推奨される。
    • 生ワクチン(麻疹、風疹、水痘、BCGなど)は禁忌のことが多いので必ず主治医に確認。

2️⃣ 治療の継続

  • **免疫グロブリン補充療法(IVIG/SCIG)**は定期的に継続することが大切。
  • 感染症状(発熱・咳・下痢・皮膚の発疹など)が出たら早めに医療機関を受診
  • 主治医の指示どおりに抗菌薬予防内服や定期検査を行う。

3️⃣ 学校・仕事・社会生活

  • 学校や職場には感染リスクがあることを説明し、配慮をお願いできる体制を。
  • 発症や体調に応じて登校・就業の調整を行う。
  • 必要なら在宅勤務・オンライン学習などの柔軟な選択を。

4️⃣ 妊娠・出産

  • 妊娠・出産は免疫に負荷がかかるため、主治医と婦人科の連携が不可欠。
  • 遺伝性疾患のため、遺伝カウンセリングを受けて家族計画を検討することが推奨される。

5️⃣ 精神面・生活の質(QOL)

  • 慢性疾患として再発や感染への不安が続きやすいため、家族・学校・職場・患者会などのサポート体制を活用。
  • 無理のない範囲で運動(ウォーキング、ストレッチ)や趣味を取り入れることがQOL向上に役立つ

✅ まとめ

  • **感染予防(衛生・食事・ワクチン管理)**が最重要。
  • 免疫補充療法の継続と早期受診で重症化を防ぐ。
  • 学校・職場での配慮、妊娠時の管理、精神的サポートも大切。
  • 適切な生活管理により、長期的に安定した生活を送ることが可能。

<原発性免疫不全症候群>の最新情報

自家細胞を用いた遺伝子治療により免疫機能が完全に回復し正常な生活に戻ったという成果が報告(2025)

「小児から成人医療への移行プロセス」のガイドライン化(2025)

タイトルとURLをコピーしました