目次
<先天性副腎皮質酵素欠損症>はどんな病気?
- 🔹 定義
- 🔹 原因
- 🔹 主な症状・臨床像
- 🔹 診断の特徴
- 🔹 頻度
- ✅ まとめ
- 🔹 世界での頻度
- 🔹 日本での頻度
- 🔹 その他の型
- ✅ まとめ
- 🔹 根本的な原因
- 🔹 主な原因遺伝子と酵素異常
- 🔹 遺伝形式
- ✅ まとめ
- 🔹 遺伝形式
- 🔹 遺伝の確率
- 🔹 保因者と未診断例
- 🔹 遺伝子と病型
- ✅ まとめ
- 🔹 全体像
- 🔹 新生児期
- 🔹 小児期
- 🔹 思春期・成人期
- 🔹 非古典型(軽症型)
- 🔹 予後
- ✅ まとめ
- 🔹 基本方針
- 🔹 1. 薬物療法(標準治療)
- 🔹 2. 外科的治療
- 🔹 3. 不妊治療
- 🔹 4. 緊急時対応
- 🔹 5. 新しい治療の展望
- ✅ まとめ
- 🔹 1. 薬の服用管理
- 🔹 2. ストレス時の対応
- 🔹 3. 副腎クリーゼ予防
- 🔹 4. 健康管理
- 🔹 5. 生殖・思春期への配慮
- 🔹 6. 栄養・生活習慣
- 🔹 7. 周囲への情報共有
- ✅ まとめ
🔹 定義
- 副腎皮質で作られる ステロイドホルモン(コルチゾール・アルドステロン・アンドロゲンなど) の合成に必要な酵素が遺伝的に欠損または低下している病気。
- コルチゾールやアルドステロンが不足し、代わりに副腎アンドロゲンが過剰になることが多い。
- 結果として、副腎不全(命に関わる)や性分化異常などを引き起こす。
🔹 原因
- 常染色体劣性遺伝。
- 最も多いのは 21-ヒドロキシラーゼ欠損症(90〜95%)。
- ほかに 11β-ヒドロキシラーゼ欠損症、17α-ヒドロキシラーゼ欠損症、3β-HSD欠損症 などもある。
🔹 主な症状・臨床像
1️⃣ 新生児期
- 塩喪失型:アルドステロン不足 → 体内の塩分が保てず、脱水・低ナトリウム血症・ショックを起こす。
- 男性化型:女児で外性器が男性化(陰核肥大など)、男児では乳児期から陰茎肥大。
2️⃣ 小児期〜思春期
- アンドロゲン過剰 → 思春期早発、骨成熟の促進、低身長。
3️⃣ 成人期
- 月経異常、不妊症、多毛、にきびなど。
- 軽症例(非古典型)は成人になるまで診断されないこともある。
🔹 診断の特徴
- 新生児マススクリーニングで発見されることが多い(特に21-ヒドロキシラーゼ欠損症)。
- 血液検査で 17-OHプロゲステロン高値 が特徴的。
- 遺伝子検査で酵素欠損の確定診断が可能。
🔹 頻度
- 21-ヒドロキシラーゼ欠損症:世界で 1万人〜1.5万人に1人。
- 日本では 1.8〜2万人に1人程度 とされる。
✅ まとめ
<先天性副腎皮質酵素欠損症>は、副腎でのステロイドホルモン合成に必要な酵素の先天的欠損により、副腎不全や性分化異常を起こす遺伝性疾患です。
新生児期から重症例では命に関わるため、新生児マススクリーニング・早期診断・ホルモン補充療法が極めて重要です。
<先天性副腎皮質酵素欠損症>の人はどれくらい?
🔹 世界での頻度
- 最も多い 21-ヒドロキシラーゼ欠損症 が全体の約 90〜95% を占めます。
- 古典型(重症型):出生 1万〜1.5万人に1人。
- 非古典型(軽症型):さらに頻度が高く、欧米では 1000人に1人程度 と報告もあり。
🔹 日本での頻度
- 新生児マススクリーニング導入後のデータでは:
- 古典型CAH(21-ヒドロキシラーゼ欠損症):出生 1.8〜2万人に1人。
- 毎年およそ 40〜50人程度 が新規に診断されています。
- 非古典型は日本では非常に少なく、診断される例は稀。
🔹 その他の型
- 11β-ヒドロキシラーゼ欠損症:全体の約5〜8%、出生10万〜20万人に1人程度。
- 17α-ヒドロキシラーゼ欠損症:非常にまれ、数十万〜数百万人に1人。
- 3β-HSD欠損症:ごくまれ。
✅ まとめ
- <先天性副腎皮質酵素欠損症>は全体で見ると 比較的まれな先天性疾患。
- 古典型(重症型)は日本で出生2万人に1人程度、年間40〜50人が新規発症。
- 非古典型は欧米で多いが、日本では少ない。
<先天性副腎皮質酵素欠損症>の原因は?
🔹 根本的な原因
- 副腎皮質ホルモン(コルチゾール、アルドステロン、アンドロゲン)の合成に必要な酵素の遺伝的欠損または機能低下。
- その結果、
- コルチゾール不足 → 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が過剰分泌され、副腎が過形成になる。
- アルドステロン不足 → 塩喪失・電解質異常を起こす。
- アンドロゲン過剰 → 性分化異常や早発思春期様症状。
🔹 主な原因遺伝子と酵素異常
- 21-ヒドロキシラーゼ欠損症(CYP21A2遺伝子変異)
- 最も多い(90〜95%)。
- コルチゾールとアルドステロンの合成障害。
- 重症型は新生児期に「塩喪失型」として発症。
- 11β-ヒドロキシラーゼ欠損症(CYP11B1遺伝子変異)
- 約5〜8%。
- コルチゾール不足+アンドロゲン過剰。
- 鉱質コルチコイド作用のある副産物が増え、高血圧を起こしやすい。
- 17α-ヒドロキシラーゼ欠損症(CYP17A1遺伝子変異)
- ごくまれ。
- 性ホルモンが作れず、性分化異常・原発性無月経を引き起こす。
- 高血圧・低カリウム血症を伴う。
- 3β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素欠損症(HSD3B2遺伝子変異)
- まれ。
- 男児の男性化不全、女児の軽度男性化。
- StAR(ステロイド急性調節タンパク)異常
- ホルモン合成自体ができず、重症副腎不全を起こす。
- 「先天性リポイド副腎過形成症」と呼ばれる。
🔹 遺伝形式
- すべて 常染色体劣性遺伝。
- 両親が保因者(ヘテロ接合体)の場合、子どもが
- 25%で発症
- 50%で保因者
- 25%で正常
となる。
✅ まとめ
- <先天性副腎皮質酵素欠損症>の原因は 副腎皮質ホルモン合成酵素の遺伝的異常。
- 最も多いのは CYP21A2遺伝子の変異による21-ヒドロキシラーゼ欠損症(90〜95%)。
- 遺伝形式は 常染色体劣性遺伝。
<先天性副腎皮質酵素欠損症>は遺伝する?
🔹 遺伝形式
- 常染色体劣性遺伝 で遺伝します。
- つまり、病気を発症するためには 父親と母親の両方から病的遺伝子を受け継ぐ必要がある。
🔹 遺伝の確率
両親がともに保因者(ヘテロ接合体)の場合、子どもには:
- 25%(4人に1人) → 発症(ホモ接合体)
- 50%(2人に1人) → 保因者(遺伝子は持つが発症はしない)
- 25%(4人に1人) → 正常
🔹 保因者と未診断例
- 保因者は症状を示さないため、自分が遺伝子を持っていることに気づかないことも多い。
- 家系内に患者が出てはじめて「保因者が多い家系」であることがわかることもある。
🔹 遺伝子と病型
- 最も多いのは CYP21A2遺伝子変異(21-ヒドロキシラーゼ欠損症)。
- その他、CYP11B1、CYP17A1、HSD3B2、StARなどの遺伝子異常でも起こる。
- 遺伝子の変異の種類によって、**重症型(塩喪失型)から軽症型(非古典型)**まで臨床像が異なる。
✅ まとめ
- <先天性副腎皮質酵素欠損症>は 常染色体劣性遺伝。
- 両親が保因者なら、子どもが発症する確率は 25%。
- 保因者は症状が出ないが、次世代に遺伝する可能性がある。
<先天性副腎皮質酵素欠損症>の経過は?
🔹 全体像
- 病型(酵素の種類・欠損の程度)によって経過は大きく異なります。
- 特に 21-ヒドロキシラーゼ欠損症(最も多い型) では、古典型(重症)と非古典型(軽症)で経過が違います。
🔹 新生児期
- 塩喪失型(重症)
- アルドステロンとコルチゾールが作れないため、生後1〜2週で「嘔吐・体重減少・脱水・低血圧・ショック」=副腎クリーゼを起こす。
- 放置すれば致死的。
- 単純男性化型
- アルドステロンはある程度作れるため塩喪失は少ないが、アンドロゲン過剰で女児では出生時から外性器の男性化が目立つ。
🔹 小児期
- アンドロゲン過剰による症状
- 骨年齢が進み、低身長につながる。
- 思春期が早まる(早発思春期様)。
- 多毛・にきびが強い。
🔹 思春期・成人期
- 女性
- 月経異常、不妊、卵巣嚢胞、多毛、にきび。
- 男性
- 不妊(精巣の副腎様過形成=TART:testicular adrenal rest tumor が原因)。
- 共通
- 治療が不十分だと骨粗鬆症、肥満、代謝異常を起こすことがある。
🔹 非古典型(軽症型)
- 新生児期は無症状。
- 思春期〜成人期に 月経異常、不妊、多毛、にきび で見つかることが多い。
- 生命に関わることは少ないが、QOL(生活の質)に影響。
🔹 予後
- 新生児スクリーニングと早期治療(副腎皮質ホルモン補充) が確立してからは、重症例でも多くが成人まで生存可能。
- ただし:
- 長期的にホルモン補充の調整が難しい。
- 生殖機能(妊娠・出産)に課題が残る。
- 心血管系・代謝系の合併症リスクが高まる。
✅ まとめ
- <先天性副腎皮質酵素欠損症>の経過は、
- 重症型は新生児期に副腎クリーゼを起こし致死的
- 治療があれば生存できるが、成長・発達・生殖機能・代謝に長期的課題
- 非古典型は思春期〜成人期に症状が出て、不妊や多毛で診断されることが多い
- 適切な治療により予後は大きく改善するが、生涯にわたる管理が必要。
<先天性副腎皮質酵素欠損症>の治療法は?
🔹 基本方針
- 治療の目的は、
- コルチゾール不足の補充(副腎不全を防ぐ)
- アンドロゲン過剰の抑制(性分化異常・成長障害を防ぐ)
- アルドステロン不足の補充(塩喪失型での電解質異常を防ぐ)
- 治療は 一生涯のホルモン補充療法 が基本です。
🔹 1. 薬物療法(標準治療)
① コルチゾール補充
- ヒドロコルチゾン(コートリル®) が第一選択。
- 小児では成長障害を避けるため、できるだけ生理的に近い量で分割投与。
- 成人ではプレドニゾロンやデキサメタゾンを使用する場合もある。
② アルドステロン補充(塩喪失型の場合)
- フルドロコルチゾン(フロリネフ®) を少量投与。
- 乳児期には食塩の追加投与が必要になることもある。
③ アンドロゲン過剰の抑制
- コルチゾール補充が十分であれば自然に抑制される。
- 女性で多毛や月経異常が強い場合、経口避妊薬(ピル)や抗アンドロゲン薬が使われることもある。
🔹 2. 外科的治療
- 女児で外性器の男性化が強い場合、**形成手術(性器形成術)**を行うことがある。
- 実施の時期や方法は倫理的・心理的配慮が重要で、本人・家族と十分に相談して決定される。
🔹 3. 不妊治療
- 成人女性で排卵障害がある場合、排卵誘発剤を使うことがある。
- 男性で精巣副腎様腫瘍(TART)がある場合は、ステロイド治療で縮小させるのが基本。
🔹 4. 緊急時対応
- 発熱・手術・外傷などの「ストレス時」には、**ステロイドを増量(ストレスカバー)**する必要がある。
- 副腎クリーゼ(急性副腎不全)を防ぐため、緊急時自己注射用のヒドロコルチゾン製剤を携帯することが推奨される。
🔹 5. 新しい治療の展望
- 徐放性ヒドロコルチゾン製剤(1日1回投与) → 血中リズムに近い補充を目指す。
- CRISPRなどの遺伝子治療 → まだ研究段階。
- 副腎移植・人工副腎研究 も進められているが臨床応用は限定的。
✅ まとめ
- <先天性副腎皮質酵素欠損症>の治療は 副腎皮質ホルモン(コルチゾール)と鉱質コルチコイド(アルドステロン)の生涯補充 が基本。
- アンドロゲン過剰や外性器異常、不妊症への対応も必要。
- 緊急時の副腎クリーゼ予防(ステロイド増量・注射薬携帯)が命を守る鍵。
<先天性副腎皮質酵素欠損症>の日常生活の注意点
🔹 1. 薬の服用管理
- グルココルチコイド(ヒドロコルチゾン等)・ミネラロコルチコイド(フルドロコルチゾン等) を毎日規則正しく服用する。
- 自己判断で中断・減量しない。
- 忘れやすい人はアラームや服薬カレンダーを活用。
🔹 2. ストレス時の対応
- 発熱・手術・けが・強い精神的ストレス時には、ステロイドを増量(ストレスカバー)。
- 主治医から「シックデイルール(具合が悪いときの薬の増量法)」を教わり、家族も理解しておく。
- 急変に備えて 緊急用ヒドロコルチゾン注射薬 を常備し、本人や家族が使い方を習得しておく。
🔹 3. 副腎クリーゼ予防
- 嘔吐・下痢などで薬が飲めないときは危険 → すぐに医療機関へ。
- 意識障害やショックの症状が出た場合は 副腎クリーゼ の可能性 → 救急対応が必要。
🔹 4. 健康管理
- 定期的に血液検査(ホルモン、電解質)でコントロール状況を確認。
- 成長期の子どもは 身長・体重・骨年齢を定期的にチェック。
- 過剰投与による成長障害や肥満、骨粗鬆症に注意。
🔹 5. 生殖・思春期への配慮
- 思春期の発達や性機能に影響するため、必要に応じて性ホルモン補充やカウンセリング。
- 女性は不妊や月経異常、男性は不妊や精巣腫瘍(TART)に注意。
🔹 6. 栄養・生活習慣
- バランスの取れた食事。特に塩喪失型では乳児期に食塩補充が必要なこともある。
- 適度な運動を心がけるが、強い疲労や脱水は避ける。
- 規則正しい生活で体調管理。
🔹 7. 周囲への情報共有
- **副腎不全カード・医療アラート(ブレスレットやカード)**を常に携帯。
- 学校・職場・友人に「副腎クリーゼの危険がある病気で、緊急時にはステロイド注射が必要」と伝えておく。
✅ まとめ
<先天性副腎皮質酵素欠損症>の日常生活で大切なのは:
- 薬をきちんと服用する
- ストレス時はステロイドを増量
- 副腎クリーゼに備えて緊急注射薬と医療カードを携帯
- 定期的にホルモン・成長・代謝をチェック
- 周囲に病気を理解してもらう
これらを守ることで、安定した日常生活と良好な予後が期待できます。
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